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古代ウイルスが脳の進化に貢献、ゲノムの機能が不明な領域が進化に重要な役割を ケンブリッジ科学研究所ら研究チーム

私たちの複雑な脳には、神経線維を包む「ミエリン」という物質が欠かせません。なんと、このミエリンの誕生に、数億年前の古代ウイルスが関わっていた可能性が浮上しました。

ケンブリッジ科学研究所アルトス研究所の神経科学者 ロビン・フランクリン氏(Robin Franklin)らの研究チームは、哺乳類、両生類、魚類のミエリン生成に必須な遺伝子要素を発見しました。彼らはこれを「レトロミエリン」と名付け、その起源を「レトロウイルス」と呼ばれる、かつて脊椎動物を襲ったウイルスに辿り着きました。

レトロウイルスは、遺伝情報を宿主の細胞に組み込む性質を持っています。研究によると、遥か昔の先祖代々で、レトロウイルスが脊椎動物に感染し、その一部の遺伝情報がゲノムに取り込まれたと考えられます。注目すべきは、哺乳類、両生類、魚類それぞれでレトロミエリンの配列が微妙に異なっていた点です。これは、それぞれの系統で別々にレトロウイルスが侵入し、ゲノムに組み込まれたことを示唆しています。

「脊椎動物の複雑な脳の発達には、レトロウイルスが関わっていた可能性が高いでしょう」と、研究を主導した神経科学者ロビン・フランクリン氏は述べています。「もしレトロウイルスが遺伝子情報を残していなければ、ミエリンは生まれませんでした。そして、ミエリンがなければ、私たちのような高度な脳を持つ生物は存在しなかったかもしれません」

ミエリンは、神経情報の伝達速度を劇的に向上させるだけでなく、神経線維をコンパクトにまとめることも可能にします。これが、複雑な脳構造の発達を促したと考えられています。しかし、その誕生のメカニズムは長年謎でした。

今回、研究チームはミエリン生成に関わる細胞の遺伝子ネットワークを解析する中で、レトロミエリンの重要性に気づきました。従来あまり注目されていなかった遺伝子領域にレトロウイルスの痕跡を見つけたのです。

「ゲノムの約40%は、機能が不明な領域で構成されていますが、進化において重要な役割を果たしていた可能性があります」と、筆頭著者の計算生物学者タナイ・ゴッシュ氏は話します。「今回の発見は、こうした領域がどのように進化に貢献していたのかを解明する扉を開くかもしれません」

さらに研究を進めると、レトロミエリンが魚類や両生類でもミエリン生成に機能していることが明らかになりました。レトロミエリンの働きを妨害すると、ミエリンの量が大幅に減少したのです。

今回の研究は、一見無意味な遺伝子領域にも重要な秘密が隠されていることを示しています。今後の研究により、レトロウイルスが生命の進化にどのような影響を与えてきたのか、さらに明らかになっていくと期待されます。

詳細内容は、phys.orgが提供する元記事を参照してください。

【引用元】

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(24)00013-8

【読み上げ】
VOICEVOX 四国めたん/No.7

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