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ダイナミックな数学|「正しさ」は絶対か?

■加藤文元『数学の想像力 正しさの深層に何があるのか』

「論理」は必ず「流れ」を伴って現れる。いや、それだけではなく、そもそも論理と流れとは同一のものだ。


素晴らしかった。

加藤文元さんの本をこれまでに(ガロアの伝記も含めると)3冊読んで、その面白さと読みやすさに疑う余地はないと思っていた。

で、4冊目に読んだこの本。私にとっては最も興味深く、なおかつ最も完成度が高いと感じられる1冊だった。

これまでの『数学する精神』『数学の歴史』と根本的にスタンスが同じで、内容も大部分がかぶっているが、それでも“二回目感”はまったくなかった。むしろ他の著作で予習できたから深く理解できてよかったな……という感じ。今回、加藤さんが考えていることや伝えたいことが最もわかりやすく強く表現されていたように思う。

「数学は『正しく』ないかもしれない」

と考えたことのある人が、一体どれだけいるだろうか?数学は絶対的なものだと考える人が、いや考えるまでもなくそう「信じている」人が大多数だろう。私もつい先日まではそうだった。

しかし、なぜ数学は「正しい」と言えるのか?

……そんなもん知らんわ!と投げ出したくなるような難しい問いだけれど(笑)、この本を頭から読むとどんどん問いかけの意味がわかってくる。その文章の上手さ、理解させたうえで説得する論理展開含めて、素晴らしかった。

学術書というよりむしろエッセイや思想書と考えて読むといいかもしれない。ある数学者が数学の「正しさ」についてどう考えているか。歴史を紐解きながら、いち数学者としての見解を噛み砕いて解説してくれる。

史実を追いかけるばかりで「結局何が言いたかったんだ?」とモヤッとする専門書とは違って、著者の考えが前面に出ているので読み応えがある。数学的知識はほとんど必要ない(と思う)。

さて、肝心の「正しさ」についてここで語りたい気持ちはやまやまなのだけれど、こんなに良い本の中身を要約したり先んじて披露してしまうのはとても惜しい……。願わくば、この記事を読んでいる全ての人に、買って読んでほしい。

けどまぁそういうわけにもいかないと思うので、内容のキーワードだけ挙げてみる(と言いつつけっこう内容を書いてしまいましたごめんなさい)。


●「論理」と「音楽」と「背理法」

もう最初から「キタァー!!」とワクワクが止まらない出だし。「音楽と数学は似ている」「論理(数学)とは『流れ』である」等々。数学が嫌いでも、音楽ならほとんどの人が好きではないだろうか。両者は本質的に似ているという。そして、一冊を通じて登場する「背理法」。個人的に背理法の証明自体が大好きなので(というのも変かもしれないが)興奮が止まらない。

ここが「起承転結」の「起」。

●「直観」的決済による「正しさ」

「どんなに知識のない人でも順を追えば正しさを捉えることが可能である」と説いたソクラテスを例にあげ、古代ギリシャ数学における「直観」的決済、つまり「見る」ことで決済される「正しさ」を解説してくれる。私たちが日常的に感じている「数学は正しい」という感覚に近く、共感しやすい。

●「通約不可能性」

ピタゴラス学派が発見してしまった「無理数」。このあたりから「正しさ」がグラグラとグラつきはじめて、不安に襲われる。ピタゴラスの有名な言葉「万物は数である」の真の意味、そして、だからこそ「通約不可能性」に直面した際の恐怖──。宗教との結びつきが切れなかった古代ギリシャ時代の葛藤に、ドキドキしてしまう。

私はここが「起承転結」の「承」と感じた。

(時代としては、ピタゴラスや後述するゼノンらエレア派が、ソクラテス以前である。詳しい流れは本文を……)

●「ゼノンの逆理」と「運動」と「アルキメデスの証明」

盛り上がりが凄すぎて(脳内で)、興奮が止まらないゾーン。私の不勉強なのだが「アキレスと亀」や「飛ぶ矢」については単なるパラドックスとしての理解しかなく、ただの面白い話で終わっていた。しかし──こんなにも意味があったとは(当たり前ですよね……)。これまで知らなかった「運動場の逆理」もすごく面白かったし、それらが背理法を用いた構成によって「運動の否定」という結論に至り──いやいや、ちょっと書きすぎてしまった。笑 とても面白い。

●「微分と積分」と「無限」

ここが一番の衝撃ポイントだった。紀元前にピタゴラスらから始まりずっと恐れられてきた「無限」という概念が、西洋の革命的思想も手伝って、アッサリと数学に取り込まれてしまった。という瞬間。それに対する痛烈な批判に激しく同意。オイオイどうすんだ……と心配になる。(クライマックスなので書きすぎないよう自粛します)

ここが「起承転結」の「転」だろうか。

●「哲学」から「自然科学」へ

この最終章が最もよかった。というか、全部よかったんだけど、これまでの「流れ」を読んできて正直「どこに着地するんだこの議論は?」とソワソワしていたので、見事に回収されて「ちゃ、着地した……!」とまず驚き。そしてそのあまりにもきれいな着地に、感動。

「起承転結」の「結」だ。

●「正しさ」とは結局……?

さて。見事に着地した!と思ってからの「エピローグ」。これがまた……そうきたか!?結局そこなの?いやもうなんかすごいわかる!……という興奮(あぁ全然伝わらない)。


言葉だけが走ってしまったけれど、要するに、タイトルからイメージされるよりもすごくドラマチックな一冊です。

──ということを伝えたいがために、長々と稚拙な言葉を並べてしまった。加藤さんの文章力が欲しい。むしろ大学の講義に潜りたい。笑

宇宙に関する著作もあるので、絶対に読みます。

自然科学は数学を基礎として発展してきた。「自然という書物は数学の言葉で書かれている」とはガリレオの言葉である。

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