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【読書】エンタメ“謎解き”ミステリーはなぜ売れたのか

■ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』(ネタバレなし)

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言わずと知れたベストセラー。もう15年近く前になるだろうか、とにかく大ヒットしたことを覚えている。私の母は流行りの小説を読みたいタイプの人で、母が買って読んだ単行本を私も借りて読んだ。その数年後、母と二人でパリを旅行した際に、ルーブル美術館ですごーくワクワクしたのは言わずもがなである。

なぜ再び手に取ったのか……は自分でもよくわからない。ストーリーは忘れてしまっていたものの「圧倒的なハラハラドキドキ感」が心に残っており、その刺激を久しぶりに味わってみたくなったのかもしれない。

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これはミステリーである。それも、盛大な謎解きミステリーである。

一般的なミステリーは、殺人事件の犯人を追うことが多い。しかし本作は違う。冒頭から殺人が起きるが、犯人は最初から読者にも見えている。

では何を追うか──というと、ダイイングメッセージに込められた暗号を解いて、解いて、解きまくる。そうしてどんどん謎(暗号)が解けていく中で、その謎たちに込められた謎(真実)に迫っていく。そんなミステリーだ。

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誤解を恐れずに言えば、この『ダ・ヴィンチ・コード』が面白いのは、モチーフの選び方が上手かったからに尽きるのではないかと思う。ルーブル美術館で殺人事件が起きた!暗号、数々の美術品、ダ・ヴィンチ、キリスト教……この文字列だけで「面白そう」と感じる人はけっこう多いのではないか(私は感じる)。

さらに無粋なことを言うと、それらモチーフの奥が深そうで好奇心をそそる感じをすべて剥ぎ取ってしまえば、案外普通のハリウッドムービーライクな小説だったりもする。アメリカ人お得意の刺激と疾走感で、ページをめくる手を止めさせない。いやはや御家芸だなぁ。と感心。

つまり何が言いたいかというと、この物語は謎解きや暗号が面白いのではなくて、モチーフとテンポが秀逸だったんだな。と、再読して感じたのだ。

ある程度暗号に興味のある人からしてみれば、いわゆる暗号にしては簡単すぎるし(でも簡単に見せない展開に呑まれちゃうからOK)、謎解きにしては行き当たりばったり感が強い(いろいろと間一髪すぎる……まぁフィクションだからOK)。

兎にも角にも、

「ルーブル美術館で殺人事件が…!」
「ダイイングメッセージが…!」
「レオナルド・ダ・ヴィンチのあの超有名作品が…!」

中盤よりも終盤よりも、この序盤に並べられたコマと、そこから始まる急展開こそが秀逸なのだと私は思う。

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とちょっぴり辛口に書いた上で、それでも『ダ・ヴィンチ・コード』の謎解きが素晴らしいと感じた点が一つ。

それは「答えの強度」だ。

謎解き(暗号)には必ず答えがある。良い謎解きの答えは「解けた!」という興奮とセットで訪れねばならない。本作に登場する答えの強度──解読者を納得させうる言葉かどうか──はわりと強い。

特に最後の答えが私は好きだった。あまりにも単純すぎると当てずっぽうで解けてしまうし(それを俗に「メタで解く」と言う)、かといって知らない単語や文脈にそぐわない言語では「解けた!」感を損なう。

読者は、おそらく謎解きや暗号に明るくない人がほとんどだ。本格的な暗号を登場させるよりも、「解けた!」という興奮が波及する答えの語句を選ぶ方が、はるかに重要だったのだろう。

そういう意味でやっぱりこのベストセラーは然るべくしてベストセラーになった作品かもしれない。

エピローグの魅せ方もかなり上手い。クリストファー・ノーラン映画のような余韻に浸り、本を閉じる。

*気になるのは「この小説に書かれていることは全て事実である」という冒頭の注意書き。ほんとですかね!?

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編集後記

母と二人でパリを一週間旅したのは大学生のころ。私は旅をすると予定を詰め込みまくる性格なので、かなりハードな旅だったと記憶しています。

そこまでの経緯はまったく思い出せないのですが、映画『ニキータ』に登場するレストランに行こう!という話になり、それが目玉イベントでした。私の記憶が正しければ駅舎にくっついた、天井の高いレストラン。二人でワインを2本あけ、べろべろになってタクシーを拾ってホテルに帰りました。

今は、母とあまり会話のない私ですし、間違っても「友達みたいな親子」ではなかったはず。そんなに酒を飲んでいったい何を話したのか?不思議だけど二人ともよく覚えているので、まぁ良い思い出ってことでしょうか。

一番印象深かった美術館はオルセー。建物も良かったです。ルーブルはとにかくデカい!混んでる!という印象でした。


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