干し柿と祖父
私には、90歳の祖父がいる。
家庭の都合で、
中学生の頃から去年家を出るまで
10年以上一緒に暮らしてきた。
数年前までは自転車をガンガン乗りこなし
遠くのスーパーでお買い得品をゲットしたり、
庭先でDIYしたりとまぁよく動く人だった。
最近は少し耳が遠くなったり
歩くのがゆっくりになってきたけど、
今でもテレビを見ながらケラケラ笑い、
会いに行くといつも元気に出迎えてくれる大好きな祖父。
「自分がいつか同じくらいの年齢になっても
このくらいパワフルで明るくいたいなぁ」
と思う。憧れの存在だ。
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そんな祖父は、私が理想とする
「自分の知恵と工夫で暮らしを作る人」でもある。
多少物が壊れてもなおして使い続けたり、
100均のアイテムを組み合わせて庭仕事を充実させたり。
物をちょこちょこ買う人ではあるが、
一方であるものは余さず使う意識も欠かさない。
大量消費と大量廃棄を
繰り返していた身としては見習いたい所だ。
そんな中、私が密かな楽しみとしていたのが
秋恒例の「干し柿作り」だった。
祖父宅の柿の木は、
今ぐらいの時期からだんだん実をつけ始める。
祖父はその実を収穫したあと、
庭先で天日に当てて干し柿を作ってくれるのだ。
結構な量が出来上がるので、
涼しい部屋に保管しながら食べきれる分だけ
キッチンに置いてくれる。
いや、実際には私がやたら食べるので
祖父がわんこそばのように次々持ってきて、
無限にわいてくるかのようだった。
寒い日に祖父とテレビを見ながら、
温かいお茶と干し柿を味わうのが楽しかった。
ちなみにこの干し柿はスルメのようにカチカチで
結構な力で噛まないと食べ進められない。
祖父は歯が丈夫ゆえか
余裕の表情で噛み切っていたが。
後から知ったことだが、
干し柿って本当は干す工程で揉むので
やわらかいんだそう。
何せ人生で食べた干し柿はこれだけなのだ。
知らないのも無理なかろう。
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今年、祖父の家から柿の木がなくなった。
何十年ぶりに庭の整備を行ったため、
大きな木はほとんど根こそぎ取り除いたらしい。
その時は気づかなかったが、
先日訪れて様変わりした庭を眺めながら
金木犀の香りを感じた時、
「あぁ、今年の秋からは食べられないのか」と不意に思った。
干し柿なんてどこかで買えるだろうし、
詳しくないけど柿が手に入れば自力で作れるのかもしれない。
だが、あの祖父の家で育った柿、
祖父が手ずから収穫して庭で作ったあの味。
そして毎年頑張って格闘していたあの硬さ。
もう会えないのか。さみしいなぁ。
それでも、また会いに行く。
まだまだ元気でいてくれる祖父と
過ごす時間をこれからも大切にしたい。