結婚による『改姓ダンジョン』を乗り越えた3年後、もう一つの試練があった話
3年前に結婚して、夫の姓に変わった。
ご存じの通り、結婚して改姓したらマイナンバーカードやパスポート、銀行口座をはじめとするあらゆる証明書の発行機関に姓を変えた旨の申請をしなくてはいけない。申請時に提出する旧姓を証明する身分証がそれぞれ複雑に絡み合っているので、申請の順番を間違えると手間が倍になるというHPが削られるうえにイライラゲージを急上昇させる壮大な罠が仕掛けられているから、私は「改姓ダンジョン」と呼んでいる。
ここでは当時の壮絶な物語は置いておいて、ダンジョンを乗り越えた3年後に時間差攻撃を仕掛けてきたもうひとつの試練について、問題発生から解決に至るまでを時系列に沿って書こうと思う。
願わくば、誰かの役に立たんことを。
きっかけは海外転勤
念のため注釈しておくと、夫ではなく私(妻)の海外転勤だ。夫と離れたくないばかりに「やだー!日本にいたいー!!」と会社に対してびいびい文句を言ったがどうにも避けられそうになかったので、期限付きということで仕方なく単身海外勤務することにした。
行き先はベトナム。ご飯おいしそうで良かったなどと呑気なことを考えながら渡航準備を始めた。
そして、隠された試練「労働許可証(ワークパーミット)」にぶつかってしまった。
卒業を証明できない「大学卒業証明書」
外国人がベトナムで働く場合、現地での労働許可証の申請・取得が必要になる。申請に必要な書類は以下の通り(あくまで私の事例。省によって異なるのでご自身や会社で調べてほしい)。
大学卒業証明書。そう、こいつが問題だった。
私は大学卒業後に結婚し姓が変わったため、大学卒業証明書には旧姓が記されている。「あ、これ面倒なやつかも…」と薄々感じながらホーチミンの所轄機関へ提出した。
当局:パスポートと苗字が異なるため、本人であることが確認できません。
うーん、なんとなくそんな気はしていた。パスポートは結婚直後に新姓に変えてしまっている。仕方がない。旧姓が証明できる他の書類を一緒に提出しよう。
方法① 戸籍謄本の提出
結婚直後に思いつく限りの公的身分証を新姓に変えてしまった私は、唯一旧姓が証明できる書類として戸籍謄本を提出した。国内でも旧姓証明で戸籍謄本を使うことは多い。
当局:苗字が異なるため、本人であることが確認できません。
いやいや何でよ。戸籍謄本って個人を証明するのに一番最強な書類なんじゃないの?
NGの理由は、旧姓の記載方法だった。日本では旧姓を証明する書類として利用可能なこの「戸籍謄本」。みなさんは書類上実際にどういう記載がされているか、ご存知だろうか。
つまり戸籍謄本の書類上、現在の戸籍の筆頭者である「夫の姓名(フルネーム)」と、従前の戸籍の筆頭者である「片親の姓名(フルネーム)」が記載されていて、私自身は下の名前しか記載されていない。
なんという日本の習慣を大前提にした書類。夫婦別姓が一般的であり、親子であっても苗字が異なることも多いベトナムでは全く伝わらない。これはまずい。
方法② マイナンバーカードへの旧姓併記
令和元年11月5日以降、マイナンバーカードに旧姓を併記できるようになったことは知っていた。従前より併記申請をしようと思っていたのでいい機会だ。
さっそく、総務省のホームページに掲載されている旧姓記載のイメージ図を提出。マイナンバーカードで証明可能か確認した。
当局:パスポートと一致しているかどうかが重要です。マイナンバーカードでは認められません。
正直、察してはいました。ここで食い下がっても仕方がない。次を探します。
方法③ パスポートへの旧姓併記
他に旧姓を証明できる国際的に認められた書類はないかと血眼で調べていたところ、「令和3年4月1日以降に申請されるパスポートについて、旧姓併記条件が緩和された」という報道を確認。これだ、これしかない!
あれ?私、たった3年前に16,000円支払って新姓の10年パスポート入手したばかりなんだけど、またお金かかるの?しかもパスポート番号変わるの?もうベトナム当局にパスポート番号伝えて、大学卒業証明書以外の手続き進んでしまってるんですけど。
改姓ダンジョンの悪夢が蘇る。また順番を間違えた・・・?いやでも、さすがに難しすぎないか。一旦、他の方法を探ることにする。
方法④ 宣誓書の作成(解決)
ここまで要した期間、なんと2ヶ月半。あらゆる方法を調べて、ベトナムの代理店に提案し、所轄機関が確認して、やっと受け入れ可否の回答をもらうという流れであったため、1つの方法を試すだけでも時間と労力がかかりHPがどんどん削られる。
ただここに来て、ベトナム代理店から連絡が入った。
代理店:自らの旧姓を宣言する宣誓書を自作して、法務局で公証を貰ってください。それで認められそうです。
最終的に私が作成した宣誓書は以下の通り。原本は日本語と英語で併記した。
ちなみに、法務局でこの宣誓書に公証を貰う際、旧姓を証明する書類などは求められなかった。Wordで作成した宣誓書に大学卒業証明書を付け、法務局に提出。2週間後、原本が手に入った。
言い方は悪いが「こんなので良かったのか…」というのが正直な気持ちだった。この2ヶ月半、会社に助けを求めても前例がないから分からないと突き放され、海外で働く日本人に泣きつくも戸籍謄本で通過できた人たちばかりで打開策が見当たらず…。
こうやって、私の旧姓はあっけなく証明された。
選択的夫婦別姓
最終的にすべての書類が揃ったとき、問題発生からすでに3か月が経過していた。おかげで大事に残しておいた有休を何日も無駄に使う羽目になったし、渡航時期が遅れ退去するはずだった家の更新料を払わねばならなくなった。精神的にも疲弊した。
もしかして、この先の人生、事あるごとに同じような事象が発生しますか?私、好きな人と結婚しただけなんですけど。不利益があまりに大きくないか。
一会社員である私ですら、大変だった。論文を発表されているような研究者の方やご自身のお名前で仕事をされている方はどれほど大変か。もし彼ら彼女らが海外で働くことになった場合、どうなってしまうのか。
日々議論がなされている『選択的夫婦別姓』。夫婦同姓でなければならない今の日本で、身近で具体的にどういう不利益が起きているのか。少しでも知ってもらいたくて、noteを書いた。
選択的夫婦別姓について、もう少し真剣に考えてみてもいいのではないだろうか。
余談だが、TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』でみくり(新垣結衣)と平匡さん(星野源)が、入籍する際、どちらの姓を名乗るか話し合うシーンがある。
最終的に夫である平匡さんの姓にするのだが、ふたりで合理的に話し合ったうえで決断する。私の大好きなシーンだ。
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