山田一郎は吉沢亮でなければならなかった | 映画『リバーズ・エッジ』
2018年に雑誌『ViVi』(講談社)で国宝級イケメンの肩書を堂々獲得。今や泣く子も黙る超人気俳優・吉沢亮。過去にもその完璧に整った顔面を活かして二枚目役を度々演じてきた彼だが、敢えて私は声を大にして言いたい。
吉沢亮の真骨頂はそんなキラキラした役どころではない。
怒られることを承知で主張すると、かっこいい王子様を演じる彼は逆に魅力が半減しているとさえ思う。確かに「イケメン」だ。だた、彼が起用された理由があまりにビジュアルに傾きすぎているように感じるから。
私はむしろ、黒くてどろどろしていて今にも爆発しそうな感情を抱える不安定な役でこそ、その高い演技力と生来のクールなビジュアルの掛け算が起き「この役は吉沢亮以外にあり得なかった」と思わせるほどの魅力を作るのだと思う。
そんなアンチ・キラキラ吉沢の私が、「これぞ吉沢さんの真骨頂。彼のほかにあり得なかった」と強く信じる作品のひとつが、映画『リバーズ・エッジ』だ。
鬱屈とした日常を生きる若者たちの「生」と「死」
映画『リバーズ・エッジ』は、1990年代に刊行された岡崎京子の同名漫画を行定勲監督、二階堂ふみ×吉沢亮主演で実写化。2018年に公開された映画だ。
お分かりの通り、この作品自体の世界観自体がかなり独特。90年代の不安定で空虚な雰囲気がぷんぷん漂う。
この作品で山田一郎役を演じる吉沢亮は、キラキライケメンとはずいぶん程遠い場所にいる。
観音崎(上杉柊平)から日常的にひどい暴力を受けていて、顔は常に傷だらけで絆創膏と眼帯が手放せない。ゲイであることを隠してカモフラージュで同級生の田島カンナ(森川葵)と付き合いながら、陰で売春をしているという闇っぷり。河原で偶然見つけた死体を宝物としてハルナ(二階堂ふみ)に紹介し「これを見ると勇気が出る」言う、確実に人として大切な何かが欠落してる。
死んだ目と歓喜の表情
『リバーズ・エッジ』の吉沢亮は、終始、目が死んでいる。この生気のない真っ黒な目が、感情をほとんど動かさず、まるで死んだように生きる山田に本当に見事にはまっている。
そして、物語の開始から一貫して淡々とした表情を貫いているからこそ、ほんの少しでも感情が表に出てきた瞬間の演技は、本当に秀逸で、かつ鮮烈な印象を残す。
終盤のとあるシーンで、無感情で平坦な山田がそれまでとは全く違った表情をする。このシーンのことを、吉沢亮自身が語っているインタビューを見つけた。
ある意味「死んでいた」山田が、本物の「死」を目にすることで対極にある自分の「生」を強烈に感じ、強く感情を動かす。鬱屈とした日常を過ごしている中、他人の死をリアルに感じることで、やっと自分自身が生きていることを実感する。
観ている側がぎょっとしてしまうような狂気をはらんだあの表情を、覚えていないらしい。結局、撮影が終わるまで山田を理解しきれなかったと語っていた吉沢亮だけど、少なくともあのシーンの彼は本当に山田一郎だったんだろう。
吉沢亮のほかにあり得なかった
イケメンは世に溢れかえっている。「国宝級」の称号を持つ俳優は他にもいるし、ラブストーリーが得意で、観ている人を容赦なく沼に突き落としてしまうような末恐ろしい若手俳優もいる。美少年としての山田を演じるのなら、別の誰かでも良かったと思う。
それでも、山田一郎は吉沢亮でなければならなかったと強く思う。心に深い奈落を抱え虚ろな目をしながら、時折、底に沈めた激情が顔を出す。儚いようでいて誰も踏み込めない暗い世界を生きる山田を表現できたのは、やはり確かな演技力を持ちながらその美しさで掛け算を起こせる吉沢亮しかいなかったと思う。キラキラした二枚目では絶対に見られない、これぞ吉沢亮の真骨頂だと思う。
徐々に空が明るくなりかけた頃、ハルナ(二階堂ふみ)と山田が橋の上で話すラストシーン。川を見ながら、山田はハルナにUFOを呼んでみようと提案する。別に本当に呼ぼうとしているわけじゃない。山田にとって、ハルナとの秘密の共有と別れの言葉がそれなんだろう。
笑顔をほとんど見せない山田が、何の邪気もないふわりとした微笑みをハルナに向ける。山田の生きた表情を見て、私もハルナと同じように泣きそうになった。
余談
ちなみに、『リバーズ・エッジ』では山田のカモフラ彼女・田島カンナ役で森川葵が出演しているのだけど、彼女も存在感も本当にすごい。
作中で時折挟まれる登場人物たちがまるで取材のようにインタビューを受けるシーンで、田島カンナはある質問に答えられなかった。その時の曖昧な表情は、彼女の異常な執着心とは裏腹になぜか空っぽな感じがして、ぐっとくる。
学校の廊下で田島カンナに強い言葉を投げかける八つ当たり山田は10回くらい見た。
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