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【短編小説】ウルトラギフテッド

 「ギフテッド」、という言葉をご存知だろうか。ギフトとは神から贈られた生まれつきの才能のこと。ギフテッドはそのギフトを持ち、生まれながらにして平均より著しく高い知数能力を授かった人間のことである。

 それに加えここ最近、「ウルトラギフテッド」という言葉が巷で話題だ。ウルトラギフテッドはその名の通り、生まれながらにして通常のギフテッドよりもとんでもなく高い知能指数を持った人間のこと。また、知能指数だけでない。運動神経、体の丈夫さが常人を遥かに超えている人のこと、また、前世の記憶があるなど、普通ではあり得ない超人的な能力を持っている人もまとめてウルトラギフテッドと呼ばれている。

 憧れの対象であるはずのウルトラギフテッドだが、世間ではこんな噂も流れている。
“ウルトラギフテッドの存在は日本の秩序を崩すとして政府が秘密裏に処理している”と。そもそも、ウルトラギフテッドなる存在が本当に存在するのか、ということ自体わからない。私の周りにはウルトラギフテッドの知り合いなどいないし、どこかにいるという話も聞いたことがない。しかしウルトラギフテッドの話題については、私の通う高校のクラスでも度々話題に上がる。
「あー、俺もウルトラギフテッドで生まれつき超頭良かったらなぁ」
「でもウルトラギフテッドってバレたら、謎の機関に連れ去られて牢屋に閉じ込められるとか…」
「私は政府にすぐに殺されるって聞いたよ!なんか政治家を脅かす存在になりうるから、みたいな」
 盛り上がっているが、まぁウルトラギフテットのことも政府のことも、どこからか出た根も葉もない噂だろう、そう思っていた。


 ある日のこと、私は血を流して路上に倒れていた。授業が終わり自転車で家に帰る途中、後ろからトラックに跳ねられたのだ。頭を強く打ち、後頭部からは血が出ている。かなりの血が流れている気がする。意識が遠のいていく。あぁ、私死ぬのかな。遠のく意識の中、救急車のサイレンの音がこちらに向かっているのが聞こえた。

 気がつくと私は救急車に運ばれていた。頭が痛い…意識がぼんやりする。救急隊の声がうっすら聞こえる。
「血液型は⁈AB型か… 早く輸血を受けなければまずいぞ…」
私のケガ、そんなに酷いんだ…。AB型の人間は絶対数が少ないから、輸血を受けるのが難しいって聞いたことがある。もうダメなのかな。

 次に意識が戻った時、私は手術室のベッドの上にいた。目を覚ました瞬間、医者が大きな声を出した。
「目を覚ました⁈嘘だろ?」
私が意識を取り戻したのって、そんなに奇跡的なの?今にも力尽きそうな頭を振り絞り、そんなことを考えていた。すると医者は奇妙なことを言い出した。
「普通じゃ考えられない…あんなに出血したのに生きてるなんて。もしかしてこれ、ウルトラギフテッドかも。おい、今すぐ連絡入れろ!」
ウルトラギフテッド…?何を言っているの…?そんなことを考えながら、私の意識は再び遠のいていった。



 次に目を覚ました時、私は薄暗い部屋の中いた。ベッドで仰向けになった状態だ。体は縛られており、身動きがとれない。そして全身にたくさんの管が繋がれている。私の周りにも、同じようにベッドに横たわり無数の管を繋がれた人間がたくさんいた。すぐ横の人を見てすぐにわかった。私たち、永遠に血を抜かれているんだ。
 すぐに、つい先ほどあの医者が言っていた言葉を思い出した。
「“ウルトラギフテッド”」

 そうか、私はウルトラギフテッド。全く知らなかった。きっとこの周りの人たちも同じ。だからこうして、謎の場所に連れ去られ利用されているんだろう。ここはどこか?私を連れ去ったのは誰か?私はどんなウルトラギフテッド?どんな類稀な才能があったの?ウルトラギフテッドはみんなこうなるの?私は一生このまま?たくさんの疑問が浮かんだが、薄れ切った意識でもう何も考える余裕はなかった。
 ただ、あれだけ噂になるウルトラギフテッドが身の周りに誰もいない理由、それだけはわかった気がする。

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