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料理ヘタレの料理日記01~水ギョーザ~

「食べたいな」と思って作り始めるのだが、作っているうちに大変すぎて、「なんでこんなん始めたんやろ」と毎回必ず後悔する料理がある。

白くて、もちもちしてて、あったかくて、ポン酢にあう…

答えは、「皮から作る水ギョーザ」。

工程はいたってシンプル。
薄力粉に熱湯を混ぜ、粗熱をとった後、ひとまとめになるまでこねる。がんばってバッタンバッタンしなくても、適当でもそこそこ美味しい。ひとまとめにしたら濡らしたふきんに包んで30分放置。あとは、塊から1つ分をとって、綿棒で伸ばして丸くする。スーパーで袋に入って売られている、ギョーザの皮。あの形をつくる。ひたすら作る。繰り返し繰り返し60枚。

書いてしまうと「それだけ?」という感じだが、最後の工程がべらぼうに辛い。私が不器用なせいもあるだろうが、1時間は台所で立ち続けることになる。

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何を思ったか、先日もこれをやってしまった。

朝、冷凍庫にギョーザの中身(前回の残り)があることを発見した。「これ、そろそろ使わなあかんなぁ。そういえば最近食べてへんし、久しぶりに作るか。土曜日やしな」と、冷凍庫から取り出した。夕方までに解凍するため。皿の上に置き、その皿を、キッチンカウンターに置いておいた。

事件は昼ごはんの時に起きた。
チャーハンを食べていたらガキッ!といやーな音がした。「ま、まさか…!」と、おそるおそる口から音の正体を取り出すと、予想通り、とれてしまった歯の詰め物だった。楽しい週末の昼下がりは一変。暗い影が私の心を覆った。

ショックを受けていても、元には戻らない。いそいで歯医者に向かい、急患で診てもらった。「痛みますか?」という歯医者の問いに「いえ、さっきとれたばっかりなので」と返した。

ガキッ!となってから、ここまで15分。我ながらかなり素早い。「すぐに来てもらえると助かります。時間がたつと、はまらないことがあるんで」と歯医者にほめられ、若干嬉しくなった。虫歯も進行していないということで、治療もなく、詰め物を元に戻してすぐに終了した。

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すぐに終わった、とはいえ、歯医者から帰宅した私は疲れていた。すでにしんどい。水ギョーザを作る気力があるかどうかは、かなり怪しい。いや、正直やりたくない。やめたい。冷凍しなおしたい。

試しにキッチンカウンターに置いたギョーザの中身を触ってみると、柔らかく、既に解凍されている。再冷凍?できなくはないけど、おいしくないだろうし、衛生的にもいやだ。捨てる?いや、もったいないし心が痛い。

退路は断たれた。作るしかない。水ギョーザを。水ギョーザの皮を。

とりあえず、歯医者から帰宅したばかりだし、甘いものをたべて英気を養おう。ちょうど午後3時だったので、コーヒーを淹れ、チョコを食べることにした。

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午後5時半。いよいよその時はやってきた。おやつを食べた後、丸めて濡れ布巾に包むところまではやっておいた。えらい。すでに自分をほめてあげたい。

60個分が一塊になっているので、3等分し、そのうちの1つをさらに2等分して、残りを再び濡れ布巾でつつむ。つまり、最初の塊のうちの6分の1が取り出されて、まな板の上にある。

これをさらにナイフでトントントンと10等分にする。1つずつ丸め、そのあと、綿棒で伸ばしていく。

コロコロコロ…皮が完成、スプーンで肉をすくって皮の中央に置き、包む。
コロコロコロ…皮が完成、スプーンで肉をすくって皮の中央に置き、包む。
コロコロコロ…皮が完成、スプーンで肉をすくって皮の中央に置き、包む。
...以下略。

60個分で作っているので、これを60回繰り返す。心の中は激しい後悔でいっぱいだ。

市販の皮にしたらよかったんちゃうん?
歯医者行ったついでにスーパーで買ったらよかったんちゃうん?
誰にも「作って」って言われてへんやん。
足、たちっぱなしで痛…。
○○(夫)どこ?え?お風呂?このタイミングで?せめて肉包むとこやってくれよ!

半分の30個作ったところで、一息ついて時計を見た。午後6時を過ぎている。残り半分。1時間は確実に超えるな、これ。

覚悟を決めて、再び手を動かす。もう何も考えるのはよそう。早く終わりたい。私の願いはそれだけだ。

残り3分の1、つまり、あと20個作れば終わり、というところで夫が風呂からでてきた。その姿を視界にとらえるやいなや、私は夫を呼び止めた。

「肉、包んで」

台所の様子を見た夫は何も言わずサッと動く。不穏な空気を察知したのだろう。夫婦も15年を超えると「あうんの呼吸」で通じ合えるというが、料理の時にも、その力は発揮される。

私が皮を作り、夫が肉を包む。無言の連携プレーで、最後だけは早く終わった。時計を見ると18時半過ぎ。ここからギョーザを茹で、ようやく完成する。

*****

もう無理だ。今日の分の気力は使い果たした。私は手を洗い、冷蔵庫からビールを取り出し、キッチンの前のダイニングテーブルに座った。

夫はそのまま台所で、餃子を茹で始める。ここで担当をチェンジ。茹でる係の夫にバトンタッチされたのだ。

夫の手際はいい。電気ケトルで沸かしておいたお湯を鍋に入れ、煮立ったところに餃子をポイポイ投入。浮き上がってしばらくしたら、お玉ですくって皿に盛る。

その間、私は醤油・酢・ラー油を好きな配合でまぜて用意万端。夫ができあがった水ギョーザの皿をカウンターに置き、私が受け取る。

あぁ…ほっかほかで見た目がすでにもっちもち。口の奥に唾がたまる。熱々の水ギョーザをオリジナルのポン酢につけると、一口でいけるほど、うまい具合に熱さが軽減される。口の中にwelcome!



******

「なんでこんなん始めたんやろ」という激しい後悔。そして、それを上書きしてしまうほどの圧倒的美味しさ。水ギョーザはいつも私を翻弄する。作る大変さで私を打ちのめし、その美味しさで私を焚きつける。なんて奴だ。

これからも私は水ギョーザに翻弄される。

「作りはじめなきゃよかった」と。
「やっぱ作ってよかった」と。




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