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あなたのための一冊。 小川洋子 『不時着する流星』

読書暮らしも20年以上やっていると、自分がどんなときにどんな本が読みたいのか、どういう作家さんを選べば自分が気に入るのか、なんとなくわかってきたような気がする。

本を選ぶときも、あらすじはもちろん読むけれどタイトルや一行目でぴぴっとくれば、本をぱたりと閉じたときにため息をつくことも少なくなってきた。

とはいえ、選び方のコツやポイントを聞かれてもうまく答えられない。だってわかるんだもの、と曖昧にしか言えない。飲み始めないとその日に飲めるお酒の量がわからないみたいなもので、気分や体調や直前に読んでいた本などのいろんな要素が混じり合って、結局“なんとなく"としか答えられないのだ。

自分のことは自分でわかる。でもそれってわたし以外の人にもできるかなあ、と友達に話していると「じゃあ、今の気分やイメージを伝えるから私に本を探してみる?」ということになった。

それってちょっと面白そう。わたしが今までに読んできた本の数、記憶にあるものからないものまでたくさんあるけど、そのなかから誰かにとってのぴったりな一冊を探し出すのは、わたしにとっても読書の新しい世界が広がるかもしれない。

「選書」だなんて大それたことは言えないから、一緒に探してみたいる……そんな気持ちで「あなたのための一冊。」をやってみることにしました。

◆出合いたいのはこんな本

まずは自分が本屋さんにいるつもりで、あれこれと作家さんを思い浮かべながら話を聞いてみる。

そこでお友達が教えてくれたのはこんな感じ。

【お友達の気持ち】
・ビジネス書は実用書はまあまあ読む。
・自分の持つものにはこだわりたい。
・持っていてテンションの上がるものは嬉しい。
・せっかく読むなら役に立っても立たなくてもいいから、新しいことがしりたい。
・でも、悲しい気持ちは引きずっちゃうからあんまりネガティブな内容は嫌。

それをまとめて、わたしが見つけるときの条件にしたのは以下の4つ。

【条件】
・長編より短編集
・雑学的な知識が得られるもの
・装丁がかわいい単行本
・悲しくならない読後

◆探してみたのはこんな本

今回、わたしは探してきたのは小川洋子さんの『不時着する流星たち』。

公式のあらすじは以下の通り。

【あらすじ】
グレン・グールドにインスパイアされた短篇をはじめ、パトリシア・ハイスミス、エリザベス・テイラー、ローベルト・ヴァルザー等、かつて確かにこの世にあった人や事に端を発し、その記憶、手触り、痕跡を珠玉の物語に結晶化させた全十篇。硬質でフェティッシュな筆致で現実と虚構のあわいを描き、静かな人生に突然訪れる破調の予感を見事にとらえた、物語の名手のかなでる10の変奏曲。

これだけ読むと少しだけ難しそうって思うかも。

簡単に言うと、実在する10の人物や出来事に纏わるエピソードを元にあったかもしれない物語が語られていく短編集。

一つひとつの物語は長くない。ぐぐっと読ませたかと思えば、ぱっと終わってしまうこともあって、「え、どういうこと?」と最後のページを繰ると、参考にした人物や出来事の紹介が書いてあるという仕組み。

例えば、フォトグラファーや植物学者やオリンピック選手。

賞をとったとか、誰かの生活を変えたとか、そういう決して華やかな、歴史的な偉業を取ったわけじゃない(かもしれない)彼らのささやかなエピソードに感嘆したり、思いを馳せたり、時には呆れたり。

最初は「誰?」と面食らうかもしれないけど、だんだんと最後の紹介部分を楽しみにしている自分に出合える。そんなところからこれだけのストーリーを組み上げたの?と思うような紹介もあると、物語に感動しているのか、著者の組み上げ力に感動しているのかわからなくなってくることすら。

紹介部分を読んだ上でもう一度読み直すと、またちょっと違う気持ちになれるのもいいなと思う。

少し歪で、現実なのか、そうでないかの境目をふわふわと漂っているような幻想感もあるこの物語を『不時着する』だなんて言葉におさめていることもとても美しくて、切なくて、大好き。

正直、それが実在したのかも。もしかしたら…なんて考えてしまうけど、どこで手に入れたか思い出せないくらいの雑学が、人生のどこかで役に立ったりすることもある。

それならば頭の片隅にそっと置いておくのもいいじゃないかなと思える、わたしにとって大切な物語のひとつ。

ちなみに華やかすぎないのに、どこか可愛らしい装丁もとてもお気に入り。

小川洋子さんの小説は、いつもどこか淡々としていて静謐な雰囲気があるので、その空気感が装丁にも漂っている気がします。最悪、読まなくても手元に置いておきたいなと思うくらい。

◆出合いと再会と

お友達が実際に読んだのか。気に入ってくれたのか。それはあえて聞かないようにしようと思う。

だって急かされたり、気分じゃないのに「面白かった」なんて言うの、わたしだったら嫌だから。

少しでも良い出合いになったらもちろん嬉しいけど、でも読んでも読まなくてもいいやとも思う。

だって、少し前に読んだこの本のこと、思い出してわたしが再会できたことが嬉しかったので。

誰かの気持ちになって、誰かにとっての新しい出合いを探すことは、わたしにとっては思い出探しになるみたい。

素敵な出合いと再会がありますように。
しばらく「あなたのための一冊。」探しをしてみようと思います。


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