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風に吹かれて/『風にのってきたメアリー・ポピンズ』

その人が、門をはいると、いきなり、風で空中にもちあげられて、家のところまで、吹きつけられたように見えました。ちょうど、風が、はじめに門のところまで運んできて、その人が門を開けるのをまって、またもちあげて、バッグやなにもかもいっしょに、玄関のところへ、ほうりつけたようなぐあいでした。

メアリー・ポピンズの登場はこんな風でした。

バンクス家にいるマイケルとジェインと双子の赤ちゃんのナニーさん。(乳母であり家庭教師のことをナニーというのだそう)

映画の『メリー・ポピンズ』はだいすきで、小さいころから何度も見ている作品です。ふわりと「ふしぎ」を引き起こして家中を明るくし、それに何と言っても魔法の言葉「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」!何度口ずさんたことかわかりません。

そんな明るくてニコニコしているメリー・ポピンズに久しぶりに会いたいな、と思い出し、読みだしてみて、「あれ、こんな話だったっけ」と驚きました。

原作のメアリー・ポピンズはなんだかいつも不機嫌そうでちょっと怖かったのです。

メアリー・ポピンズは見さげはてたというように、フンと鼻をならしました。「知らないんですか?」とあわれむようにいいました。「だれだって、自分だけのおとぎの国があるんですよ!」
そういって、もう一ど、鼻をならすと、白い手袋をぬいで、傘をおきに二階へあがっていきました。

このメアリー・ポピンズ、事あるごとに「フン!」と鼻をならします。威嚇するみたいに。

当時の家政婦さんはこういう厳格な方が多かったそうですが、映画を想像して読んでいたわたしはこの「フン」が出るたびに「こわいよう」とびびってしまいます。

それでも、彼女の周りでは不思議なことが次々と起こり、子供達はそれに夢中で、わたしもやっぱりわくわくせざるを得ません。

笑いすぎて空中に浮いてしまった叔父さんといっしょに浮きながらお茶会をしたり、夜の動物園でメアリー・ポピンズのお誕生日をお祝いしたり…。

どんなに不思議なことがあっても頑なに魔法を認めないメアリー・ポピンズを見ているのもだんだん面白くなってきました。

わたしが特にお気に入りなのは、まだ赤ん坊の二人のお話です。みんながいないとき、ふたごのジョンとバーバラがどんなふうに過ごしているのでしょうか。

彼らは日光やムクドリとおしゃべりしていました。そして、ふたりにとっては(当たり前ですが)それが普通で、わけのわからないことを言っているのは大人たちなのです。

きいたことない?ームクドリが<ピーチク>いってるって。ムクドリは、ちっとも、そんあこといいはしないし、わたしたちとおなじことばで話してるっていうのがわからないらしいわね。

そんなふたりは「大きくなったら自分たちもそうなる」という事実にびっくりして信じられないと泣いてしまいます。

それでも、成長してふたりに歯が生えたころ、前におしゃべりしたムクドリが遊びにきます。そこでどんなに話しかけて…。ムクドリの心情を思うと、ちょっぴりほろ苦く感じるラストなのでした。

大人になるってしんどい、、、!!



すっかりメアリー・ポピンズに懐いてしまった子どもたちですが(メアリー・ポピンズの態度は特に変わらない)、「風が変わるまではいる」という言葉通り風の流れが変わるとあっさりと去って行ってしまいます。

もはやあの冷たさすら名残惜しい、、。

続編をすぐにでも読みたくなる、まぎれもない名作でした。

そして、だいすきだった映画verですが、なんと54年ぶりに新作が公開されると知って歓喜。日本では来年公開らしいので絶対に観に行こうと思いました。

「不思議」を忘れかけているすべての大人に読んでほしい一冊です。


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