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ノルウェー・ハラズムヘイムYH

 僕にとって、ユースホステルはありがたい存在だった。ヨーロッパやアメリカでは随分とお世話になったものだ。

 一人旅の場合、基本的に自分から誰かに声を掛けなければ会話する機会は滅多にない。だが、ユースホステルは基本的に相部屋だから、よほど閑散期か田舎でない限り、誰かしら同じ部屋に泊まっているものだ。一人旅にしか分からない孤独感から解き放たれる場所でもある。

 相部屋は、定員4人ほどから10人以上の大部屋まで宿によって様々だ。
 一体どんな旅人が泊っているのだろう、とワクワクしながらドアを開ける。もちろん、誰もいないこともあるが。(それはそれで貸し切り感を味わえて良いものだ)
 
 ノルウェーのユースホステルに泊まった時、ここにも何とも珍しい組み合わせのルームメイトがいた。

 64歳のイタリアおじさんと16歳のドイツ青年であった。ドアを開けて入った時、イタリアおじさんが若きドイツ青年に一生懸命なにかを語りかけていた。青年もまた、真剣なまなざしで話を聞いている。彼らに挨拶を交わした後、すぐにイタリアおじさんは君はどこの国だと聞いてきた。僕が日本だと答えるとすぐ、なぜかイタリアおじさんの話に熱が入り始めた。

 どうやらイタリアおじさんは、青年に歴史の話を始めたみたいだ。いくら英語力に乏しい僕の耳とはいえ、おじさんの口から「Japan(日本)」と「Russia(ロシア)」という言葉を頻繁に発していた。そして、もう少し耳を立てて聞けばこんな事を言っていた。
 
「当時、ロシアの勢力は強大だった。東欧諸国はその影響をもろに受けた。ただし、日本はあの世界情勢のなかでロシアに勝った。あの勝利は、我々ヨーロッパの国々に大きな意味をもたらしたんだ」
 
と、格好良く訳せばこんなところだろう。頻繁に「日本の勝利」という言葉が聞こえてくる。
 
「俺の日本史好きは、息子の影響さ」
 
 イタリアおじさんの言う息子は、日本の大学に留学経験があるらしい。その時期、息子を通じて日本史に興味を持ち始めたという。そのおじさんの熱弁を隣で聞いていた若きドイツ人青年は、嫌な顔ひとつせず耳をかたむけて話を聞いている。

 そんな若きドイツ青年からは、ドイツとイギリスの仲の悪さを物語るちょっとした話を聞いた。修学旅行か何かの時だ。イギリスを訪れた時、バスで移動中に同世代のイギリス青年たちからバスの窓に向かって石を投げつけられたことがあるという。いったい、イギリスの何処を観光したらそんな目に遭うのだろう。

 ドイツ青年は、耳元や襟足の髪の毛がくるっとカールしていて、清潔感が溢れるいかにも好青年の顔つきをしている。さらに話を聞けば、彼は今ドイツの音楽学校に通っていて、将来は指揮者になりたいのだという。

 なるほど、イギリス人青年たちから石を投げつけられたことよりも、その青年が偉大な音楽家になることのほうがイメージしやすい。ひょっとしたら、いつか祖国ドイツで大物になる日がくるかもしれない。

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