見出し画像

スターバックスのコーヒー農園を訪問

これまでグアテマラのアンティグア、エチオピアのイエルガチェフェへの訪問したときの経験をポストしてきました。今回はコスタリカのアルサシア農園への訪問をポストしたいと思います(約6000文字)。

コスタリカはコーヒーの生産量は多くないものの、経済的な発展度合いが高く、国がコーヒー栽培に関して法律を整備したり、農業に関する中米随一の研究機関があったりと、コーヒーの技術開発をリードしている国です。

スターバックスも通常期間で扱っている豆はありませんが、コーヒーの研究農園を有する重要な拠点です。

画像1

写真はサンホセの中心部にある公園の写真です。きれいに整備されており、一人で歩いていても危険を感じることはありません。

そんな素敵な国でスターバックスが運営しているアルサシア農園は研究を目的としているとはいえホスピタリティ溢れる、素敵な体験が詰まった農園でした。

「コスタリカのコーヒー産業」

コスタリカのコーヒー生産量は年間およそ150万バッグ(9万t)で世界20位以内に入ってくるくらいの量です。生産量がずば抜けて多いわけではありませんが、産地としての知名度は高く、コーヒー業界で活躍されているかたと話をするとよく話に上がってくる産地です。

国内には4つの山脈と112の火山口があり、タラズ、トレスリオス、ヘレディタ、アラフエラがコーヒー産地として有名です。

コスタリカのコーヒー産業は生産者の努力が収入に反映しやすいこと、環境への取り組みが進んでいること、発酵や育種などの技術開発が進んでいることでコーヒー生産国のロールモデルだと聞いてきました。そのため、来る前からどんな産業になっているのかと興味津々でした。

それは入国して街に入ったときに感じた雰囲気からも察することができました。国の発展度合いがほかの中米諸国と比べてかなり高いことを感じます。首都のサンホセは道がきれいに整備され、道行く人の姿も洗練されています。

そんなコスタリカのコーヒー業界の躍進を牽引したのが1933年に設立されたICAFEという協会で、生産から輸出までを管理・指導しているそうです。また国としても積極的に品質の高いコーヒー生産を推し進めるため、法律によりアラビカ種以外のコーヒーの生産が禁止しています。

コスタリカはもともと、コーヒーの品質特徴は控えめだったそうです。

いかに付加価値を高めたコーヒーを生産するかというところに注力し、ハニープロセスを生み出しました。パナマの農園やホンジュラスでも採用されていましたので今では開発した技術は中米に広まっています。

画像2

ハニープロセス:チェリー外皮の内側にある粘液質(ミシュレージ)を除去する際にあえてすべて除去せずに残すことで、乾燥後のコーヒーに意図した風味を与える精選方式。果肉除去の際に使用する水の水圧を調整することで以下のような4種類に分けられる。

ブラックハニー:果肉の残存率が80%~90%でかつ糖度の高いチェリーを使い、ゆっくりと乾燥

レッドハニー:果肉の残存率がブラックハニーと同じで乾燥時間は通常と同じ

イエローハニー:果肉の残存率が40%~50%

画像3

ホワイトハニー:果肉の残存率が10%~20%

画像4

ブラックハニーは見かけることがあまりないですが説明だけ聞いていると最もふくよかで甘みを感じるコーヒーに仕上がるとの事で飲んでみたい。(写真はパナマです)

そんなコスタリカですが精選方法とは別に、他の生産国同様等級分けがあります。コーヒーの等級は標高によって6つに分けられており、標高の高い地域の方がより品質が高いグレードにランクされます。SHQ:標高1600~1200m、GHQ:標高1200~1000m、次いでHB、MHB、HGA、MGAと続きます。

「コスタリカ コーヒーの風味」

画像5

そんなコスタリカで栽培されるコーヒーですが、多くはカツーラ種やカツアイ種が栽培されており、試験的にゲイシャなどの品種も栽培されているそうです。

私もコスタリカのお豆をいくつか焼いたことがあるのですが、かなり農園によって印象が変わります。コーヒーの教科書の記述を参考にすると、酸味が豊かで、深いコクと苦味芳醇な香りが絶妙なバランスと書いてあります。

訪問前には実際に自身で豆を取り寄せコスタリカのコマーシャル豆のSHQを焙煎、カッピングしました。

ナッツやウッディーを中心とした非常に穏やかな風味でナッツ類の中でも若干のピーナッツ臭を感じ、80点を切るような点数でした(SCAAカッピングプロトコル)。

インフラが整備されていて資本も入りやすいという国の状況を見ると、コスタリカのコーヒーの真骨頂は精選方法の管理によって風味特徴を最大限に引き出した、農園指定の豆で発揮されるのかもしれません。

ちなみに普段使用しているコスタリカの農園指定の豆は、甘みもあってきれいな酸も出ていてカッピングでも80点は軽く超えてきます。

【ALSACIA農園について】

画像6


コスタリカでは首都サンホセから日帰りで訪問できる農園がいくつかあります。私はサンホセを起点にしていくつかの農園&精選所を訪問してきました。今回はスターバックスが唯一自社の農園として一般人にも公開しているアルサシア農園について紹介します。

http://www.starbuckscoffeefarm.com

アルサシア農園はサンホセから車で直接向かえば1時間程度で到着します。今回の訪問ではなるべく現地の方と同じ手段で移動したかったので現地交通機関(バス)を使用しました。

画像19

バスの乗り換えでターミナル間を徒歩で移動しなければいけなかったりと、乗り換えが難しく中々分かりにくいいかもしれません。今後、訪問される方がいらっしゃればウーバーの利用をお勧めします。

画像7

アルサシア農園は2013年にスターバックスが購入したスターバックス初の自社農園です。

コーヒーの栽培方法、精選方法、スターバックスの世界中での農家支援の取り組みなどを説明してくれます。また農園には立派なカフェスペースも併設されているのでコーヒー農園を見ながらゆっくりとコーヒーを楽しむこともできます。240haの農園には滝もあり、絶景の中で写真を撮ることもできます。

画像8

画像9

画像10

ペストリーが充実しており、ボリュームたっぷりで甘みが強めなお味でした。コスタリカもスペイン語が主言語で、他の中米諸国に比べると英語も通じるものの、地元客がメインの一般のお店ではあまり英語は通じません。とはいえさすがのスターバックス、フレンドリーなパートナーが英語で対応してくれます。どこまでいってもスターバックスはスターバックスなんだなと感心です。

ツアーは各回1時間30分、一日に何回もツアーが組まれているのですが英語の回とスペイン語の回があるので私は英語の回に合わせて訪問しました。

事前に何時に英語の回が組まれているのかを確認していくことがお勧めです。アルサシアのカフェは眺めも良いですし、美味しいコーヒーを楽しむことができますが。農園の周りには本当に何もありませんし、英語もなかなか通じません。

「農園ツアー」

農園ツアーは世界でのコーヒー栽培状況に関する説明から始まります。

画像11

そのあと中米の話、そしてスターバックスの取り組みについての話へと展開していきます。私の参加したツアーは英語の回だったので中国、欧米など多国籍なグループの面々と一緒に回りました。
コーヒーの苗をどのように育て、農園を作っていくのか、また収穫期にピッカーがつかう籠を腰に巻いてみたり、チェリーを食べてみたりといったコーヒー農園にまつわる体験ができます。

画像12

画像13

またコーヒーの一般的なお話をしながらもスターバックスが生産国で行っている農家への支援活動などについても随所で説明してくれます。

ちなみに私は生産国に行く前、スターバックスのコーヒー生産者に対する取り組みも聞いてはいましたが、生産国とのWIN WINな関係というのは建前だろうと思っていました。

でもアルサシアでの活動をはじめ、アフリカや中米のいろいろな国の生産地をめぐる中でスターバックスが現地に根差した活動を行っていること。そしてスターバックスが消費者にとってのブランドであるように、コーヒー農家にとってもブランドとして認識されていることを感じました。

「私の農園の豆はスターバックスにも卸したことがあるんだよ」と誇らしげに語る生産者の姿が様々な産地で見られましたし、元スターバックスのパートナーがコーヒー栽培の現場で活躍している姿も見ることができました。スターバックスという企業が存在することによってコーヒー生産者がお金の為だけでなく、誇りをもって仕事にあたれることはコーヒーの品質だけでなく、生産者の生き方を豊かにしているように感じます。

どこまで深堀してもきちんとストーリーがあり、パートナーにとっては自分の仕事が社会貢献していると感じることができる、そんなビジネスを展開できているのは本当に素晴らしいことです。

「アルサシアでのコーヒー栽培の研究」

少し脱線しましたが、240haもの面積を有しているアルサシア農園ではコーヒーの生産を主目的に据えているわけではなく研究開発機関としての役割を主軸に据えています。

剪定の方法や、収穫、そして育苗まで多岐にわたるノウハウを蓄積することによってそこで得た知見を世界中の産地に展開しようとしているそうです。

画像14

「品種改良」

こちらの農園では品種改良にも力を入れ、将来のコーヒー産業を確かなものにしようとしています。

例えば、「収穫性が高く病害虫に強いコーヒー、風味は良好だけど収穫性が低い品種」をかけ合わせて、収穫性と風味の良好さを併せ持つ品種を開発しようと試みたり。

あるいは樹高が高い品種と収量が多い品種をかけ合わせることで、チェリーがたわわに実ったときにコーヒーの幹がたわんでチェリーが地面と接するのを防ぐような品種の開発をしたりと、育種の検討もされているそうです。

開発された技術はアグロノミストを通じて農家へと伝播され、コーヒーの生産性を高めるとともに結果として農家の暮らしを豊かにすることにつながっていきます。

アグロノミスト(農学者):C.A.F.E. プラクティスを現地に伝えることでコーヒーの木の収穫量と品質を向上させるのを手伝ったり、産地にあるスターバックスのファーマーサポートセンターを運営

画像15

アルサシアで採れたコーヒーもきちんと選別をうけ、カフェに併設されているロースターで焙煎します。コーヒーツアーの最後にはアルサシア農園で採れた豆を味わうこともできます。日本のスターバックスリザーブでもアルサシア農園の豆を一時期扱っていたそうですのでタイミングが合えば日本に居ながらにしてアルサシア農園の味を見ることができそうですね。

画像16

ツアーの最後にはアルサシアでとれたコーヒーのカッピングを体験できます。丸みを帯びた味わいで、ラストにビターチョコレートのようなニュアンスが感じられるコーヒーでした。

「C.A.F.E.プラクティス」

ちょっと話は変わりますがスターバックスではC.A.F.E.プラクティスという独自の取り組みを行うことでコーヒー生産者の暮らしの向上に努めてきました。

私は前職でチョコレートの原料であるカカオの研究に取り組み調達にも関わっていたので生産地と消費地のWIN WINの関係構築がいかに困難な問題であるのかを見てきました。

UTZ認証やフェアトレード認証など理念には共感できるものの現地の農民やトレーダーからはかなり辛辣な批評も聞いていました。

一方、C.A.F.E.プラクティスは企業がSDGsに取り組むうえでのモデルケースになると感じています。そしてこれはチョコレートなどの生産地と消費地の利害の対立が起きやすい産業においても活用できるのではないかと感じています。

以下はスターバックスが公開しているC.A.F.E.プラクティスのWEBページとスコアカードの抜粋です。

http://www.scsglobalservices.com/services/starbucks-cafe-practices

画像17

衛生的な水が働き手に用意されているかといった視点、教育が受けられる環境が整えられているかなどの評価項目や、コーヒー栽培によって環境破壊を招かないように環境への配慮に対するチェック項目が用意されており、金銭的な充足ではなく社会的な充足を目指した制度だということがわかります。

「ファーマーサポートセンター」

画像18

この制度は監査をして融資などの金銭的な補助をするだけでなく、コーヒー栽培に必要な技術を世界各地に伝播させる役割も担っています。

世界の主要なコーヒー生産国に設置されているファーマーサポートセンターには土壌管理と農作物生産の専門家(アグロノミスト)を集め、現地の生産者と直に接してコーヒー豆の品質向上に取り組み、多くの生産者と労働者がC.A.F.E.プラクティスの高い基準を遵守したコーヒー豆生産を目指しているそうです。

何よりすごいのがその徹底ぶり、使用するコーヒー豆の99%がC.A.F.E.プラクティスを筆頭にした何らかの認証を受けた豆との事。

これを実現できるのはスターバックスがカフェ産業という顧客との直接的な接点を持った業界にいること、そして接点に立つパートナー一人一人をしっかりと育成し、認証を得た豆を使用するためにかかるコストをきちんとブランド価値の向上に役立てることが可能となっているためだと感じます。

「まとめ」

今回の記事ではコスタリカのコーヒー産業の概要を見るとともにアルサシア農園というスターバックス直営の農園への訪問を文章にしました。

スターバックスがコーヒーの将来をより明るいものにするためにどのような取り組みを行っているか、そしてそれを実際にどのように現地に伝えているのかを見ることができたように思います。

ビジネスとして成立していることが驚きです。

よろしければ産地に思いをはせながらスターバックスのコーヒーとともに豊かな一日を!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?