氷河期を超えて生き抜いたコーヒー
今回の記事では、コーヒーの数百万年に及ぶ歴史を紹介していきます(約3000文字)。
人類がコーヒーを飲用するようになって、千年以上が経ち、飲用の文化も栽培地域も世界中に広がっています。
今回は、私たちの身近にあるコーヒーが、どれくらいの時間をかけて進化し、いまの姿になっているのかを学びます。悠久の歴史を感じながら、コーヒーを楽しんでもらえたらうれしいです。
*今回の投稿はエチオピアでのアラビカコーヒー起源と呼ばれるジマ、ボンガへの訪問と合わせて読んでいただけると現存する木の様子や、原生林の様子をより感じることができます。よろしければそちらも参照ください。
エチオピア カファ地方の樹齢5000年のコーヒーの木を求めて: https://note.com/tik190/n/naea59a44ab6b
世界中で楽しまれているコーヒーですが、その進化の歴史についてわかってきたのは最近です。
コーヒーノキの遺伝子解析は1990年代に始まり、最初に遺伝子解析完了が報告されたのはゲノムサイズが小さいロブスタ種、2014年に報告されました。そのあと、アラビカ種は2017年に解析完了が報告されています。(この解読には日本の企業も一役買っています)
「コーヒーノキの起源」
まずはコーヒーノキとは?を確認していきます。
先ほどからあえて「コーヒーノキ」と書いています。「コーヒーノキ」と書かれていると違和感を感じるかもしれませんが、誤植ではございません。
植物学的な分類では「コーヒーノキ属」というグループがあり、この中にアラビカ種、ロブスタ種など、普段我々がコーヒーと呼んでいる種が含まれています。
そんなコーヒーノキ属はアカネ科に含まれる被子植物です。発芽の際には二つの子葉を開く真正双子葉類です。
コーヒーノキ属の中にはアラビカ種やロブスタ種のほかに約125もの種が発見されています。
これらの種の元となるコーヒーノキの祖先は、他のアカネ科の木から約1440万年前に分岐しました(現在のカメルーン周辺で生まれたといわれています)。
現在のように、様々な品種に派生していったのは、ここ500万年程といわれています。
ちなみにアウストラロピテクスがアフリカで生活していたのは320万年前。人類と同じような時代に進化していったんですね(ちょっと無理やりですみません)。
コーヒーの木はアフリカ中に広がる中で、それぞれに進化していきました。
その後、アフリカ大陸を縦に通る大地溝帯(グレートリフトバレー)や海峡によって森林が分断され、長い時間をかけて様々な種に分岐したと考えられています。
グレートリフトバレー:アフリカの地中にはマントルのホットスポットがあり、このエネルギーが地殻の上昇運動を生み出します。地殻の上昇エネルギーが生じた地殻表面部分では真ん中に谷、そして押し出された大地が山となります。この運動によって生まれた山に挟まれた谷がアフリカを縦断しています。
地殻変動についての動画:https://www.youtube.com/watch?v=3yfen-t49eI
ゴンドワナ起源説のように大陸の移動とともに種が広まっていったというのもロマンがありそうです。
が、実際には大陸の移動よりも大分最近になってからコーヒーノキは他の植物から分岐し、現在の種の多様性が生まれたと考えられています。
ここまででコーヒーノキ属がどのように生まれたのかを見てきました。ここからはコーヒーノキの中でも、我々がお世話になることの多い、アラビカ種の起源についてみていきたいと思います。
「アラビカ種の起源」
アラビカ種はカネフォラ種(ロブスタ種)と、ユーゲニオイデス種の、異種交配によって生まれたと考えられています。
ロブスタ種は耳にしたことがあるかもしれませんが、多くの方はユーゲニオイデス種という品種の名前は初耳かと思います。
ユーゲニオイデス種は現在タンザニア西部(中央アフリカ高地)に自生しているコーヒーの種です。
カフェインの含有量が少なく、低カフェインコーヒーの開発などにも用いられている種です。
*低カフェインコーヒーの製造方法に関しては以下のノートでも触れていますので興味があればご参照ください。
デカフェコーヒーの製造方法:
https://note.com/tik190/n/nbb7968f93aad
一方のロブスタ種は、ウガンダなどの西~中央アフリカに自生していた種です。
数十万年まえユーゲニオイデス種とロブスタ種が交配し、アラビカ原種が生まれたと考えられています。
その後アラビカ原種は数万年をかけながらエチオピア南西部まで広がりました。生育域を広げていたアラビカ種は、7万年前に始まった氷河期に一度姿を消します。
今でもアラビカ種は標高の高い地で生育が進みますが、氷河期にはアラビカ種が自生していた標高の高い地域は万年雪に閉ざされてしまいました。
そんな状況でも、比較的標高の低いエチオピア西南部のジマやボンガを含むカファ地方は、万年雪からアラビカ種のコーヒーの木を守りました。
その後、1万年前に氷河期が終わると、アラビカ種の木は再び繁殖を始め、ジャングルの中で人間との出会いの時を待っていました。
そんなコーヒーの木が、人類史上に姿を現したのが10世紀ごろの医学書です。
この時代の書物には、植物の種子を煮だして作るブンと呼ばれる薬が収録されていたそうです。
ブンはアラビカ語でコーヒー豆の意味であるためコーヒーのルーツだと考えられています。
この後、どのようにしてコーヒーの引用の文化が広まってきたのか、コーヒー栽培の伝播とともに以下のNOTEで文章にしています。こちらも合わせてご覧いただければ一層、人とコーヒーのかかわりの歴史がわかりやすいと思います。
コーヒー伝播の歴史: https://note.com/tik190/n/n3e40f866fca5/
「まとめ」
今回のNOTEでは1440万年前にアフリカで生まれたコーヒーノキが、どのようにしてアラビカ種となったのか。
そしてアフリカで生まれたアラビカ種という一つの種が、どのようにしてエチオピアのコーヒー原生林で人類との出会いを果たしたのかを追いかけました。
グレートリフトバレーなんて中々聞くこともない単語を知ったり、地殻変動について興味をもったり、コーヒーを通して様々なことを知る、そんな新しい楽しみ方を見つける一助になればうれしいです。
今日もコーヒーとともに豊かな一日を!
参考書籍:コーヒーの科学「おいしさ」はどこで生まれるのか 丹部幸博著
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