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秋箱

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秋にまつわる短編連作。2010年に別場所で掲載していたものに、少しだけ加筆修正しました。
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記事一覧

type1;食欲の秋

type1;食欲の秋

※秋にまつわる短編連作マガジン『秋箱』の1編目です。

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(秋と言えば……)
「断然、食欲の秋だよなぇ」
「は?」
 つぶやいたオレのコトバに、目の前の友人が反応した。
「いや、秋だなぁと思って」
 気温の高い日はまだあるけれど、湿度が変わったせいか、日向にいても以前ほどはキツくない。
「秋ってさ、いろいろあるじゃん。ナニナニの秋~、って」
 オレの弁当から自然な動きで、ベーコ

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type2-1;衣替えの秋/クルミ

type2-1;衣替えの秋/クルミ

※秋にまつわる短編連作マガジン『秋箱』の2編目その1です。その2もあります。

※絵は、『I'm writing NOVEL』のゆうさんから頂きました。ありがとうございました!

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(髪の毛、色変えてみようかな)
 思いついたのは、9月の2週目。
 2学期が始まって、まだほんの少し経った頃だ。

 今年は秋が来ない、なんて、天気予報では毎日みたいに言われている。たしかにもう9月

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type2-2;衣替えの秋/アカネ

type2-2;衣替えの秋/アカネ

※秋にまつわる短編連作マガジン『秋箱』の2編目その2です。

※絵は、『I'm writing NOVEL』のゆうさんから頂きました。ありがとうございました!

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(……私も髪、変えるか)

 昨日、幼なじみのクルミが突然、「高校デビュー宣言」にやってきた。髪色を変えるのが初めての彼女は、私にアドバイスを求めに来たらしかった。
 どの商品が一番キレイに髪色を変えられるかと聞かれ

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type3;行楽の秋

type3;行楽の秋

※秋にまつわる短編連作マガジン『秋箱』の3編目です。

※絵は『Touno's soliloquy painting』の遠野さんから頂きました。ありがとうございました!

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 夏の残りの、最後のあがきみたいな暑さも過ぎて、近頃では昼間でも、さすがに何か羽織れる長袖がないと肌寒く感じることが多くなった。
 薄い色の空は高い。
 青を見て思い浮かんだのは、俺が大学2年になる春、3人

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type4;女心の秋

type4;女心の秋

※秋にまつわる短編連作マガジン『秋箱』の4編目です。

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 アイツとの待ち合わせは、いつもイライラする。今日もまた遅刻らしい。寒くて、もう手が冷たくなってきている。
 ふっと、煙草のにおいがした。いつも隣で感じている、アイツと同じにおいだ。ヒイラギとも同じにおい。
(……喫煙所で吸えよ)
 姿の見えない匂いの主にイライラが増して、けれど声にも表情にも出さないようにして、ただ、心

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type5;お月見の秋

type5;お月見の秋

※秋にまつわる短編連作マガジン『秋箱』の5編目、最終話です。

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「マユミ姉、あのさ、もう冬だよやっぱこれ」

 私と同じ顔をした妹のアユミが、パジャマ代わりのジャージの上からダウンを着込んでやってきた。
 彼女の手には、湯気を立てたカップが2つ。
 出来のいい弟が入れてくれた、砂糖もミルクも入れていない紅茶だ。
 ありがたく受け取って、私は代わりに、さつまいもをふかして砂糖と

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