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なんでもない記念日

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365日分の「なんでもない記念日」を祝して。130文字以内の小話を、1日に1つ。1107〜0213 #記念日BL
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2015年1月の記事一覧

1月1日 年賀

股の間で動く頭を撫でながら、随分と保守的な男だったのだなぁと考えた。
セフレたち一人ひとりに、年始挨拶で口を開きにまわっているらしい。
出させた後は、嗽・手洗いをして次の家へ。

よろしくしたい相手への誠意。
何だかむず痒くなって、俺は急遽、彼氏への年賀メールを作成する。
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1月3日 駆け落ちの日

「やっちゃう?」
「いっちゃう?」

全てを曖昧にしたままで、持てるだけのお金を持って家を出た。

どこか遠くのここでない場所、知り合いなんていない環境なら、誰に遠慮することも傷つけることもなく、僕らも一緒にいられるかもしれない。

そんなありえない場所、先の夢を見ながら。
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1月4日 石の日

風呂場でキスを一つ。

「おぉ、ガッチガチだね! すごい、地蔵みたい」
「なんでお前、そんな撫で方するんですか」
「オレの裸見てそんなんにしてると思うと何か…ありがたや、ありがたやー」
「お前のも触りたいです」
「おっ、撫でたら早速ご利益が!」

深いキスを、もう一つ。



願いの込められた石を撫でると願いが叶うとかなんとか。
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1月5日 いちご世代の日

「自信持ちな、お前運いいし」

高校受験を間近にひかえた僕を励ましてくれた、お隣の大学生のお兄さん。

家の都合で退学していたと聞いたのは、彼の家が夜逃げしてしまったかなり後の話だ。

「まぁ何とかなったけどねー」

そう語る彼の肌を今、隣で感じられる僕は、本当に運がいい。

***

「いちご世代」は15歳世代のこと。高校受験を間近にひかえた15歳世代にエールを送る日、だそうです。
#記念日B

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1月2日 月ロケットの日

「バイバイ、ルーニク」

僕の最愛の彼は今日、彼方に見るばかりの愛おしの存在に向けて旅に出る。
誰も辿り着いたことのない未踏の地。
たとえ尽きるまで軌道を周回することになっても、きっと後悔はしないから。

「バイバイ、元気で」

見送るこの遠くの地から、君の無事を祈るよ。
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1月6日 ケーキの日

高校受験間近のこの季節、俺は毎年思い出すだろう。
「自信持ちな、お前運いいし」
そう言って彼の元を去ったこと。前祝いに予約して、結局取りに行けなかったケーキのことを。

「まぁ何とかなったけどねー」

緊張を隠し、余裕を装って彼に告げながら思う、まだ遠くはない過去の話。
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1月7日 爪切りの日

だらしのない彼との些細な喧嘩。
「お前など弟の爪の垢でも煎じて飲めばいい」と出来のいい双子の話を出せば、徐に俺の手を取り握り撫でられた。

「お前のなら飲んでもいいよ?」
そしてぬるりと含まれる。

(くそ…くそ…っ!)
そうすれば俺がもう怒れなくなるのをわかっていて。
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1月8日 勝負事の日

今日を逃すと卒業式まで会えないかもとか、希望はあるとか、なくても言わないよりマシだとか。
湧き出す言い訳が止まらなくて、僕は今日、勝負に出る。

呼び出した時間まであと僅か。

「おっ、早いな」
「…!」

こんな時にまで5分前行動の真面目な彼に、想いが伝わりますように。
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1月9日 風邪の日

100均で土鍋を買った。
レトルトのお粥、卵、梅干しと、一番小さいサイズの味噌。
りんごは好きじゃないって言ってたからフルーツは桃缶で、飲み物はポカリだ。

合鍵があるから。
寝ているところを起こさなくてもすむ。

風邪をひいた彼の部屋に向かう道。楽しさを隠せなくてごめんね!
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1月10日 糸の日

キスをした後。
もしくは今の様に、彼のモノが口内で爆ぜた後。

僕と彼との間に伝う、粘り気のある脆い透明。
落ちて消える糸は、繋がっていたかった最後の名残りだ。

「間に合わなかった、吐き出せ」

出したい。出したくない。
飲み干すことも躊躇われ、僕はどうにも動けずにいる。
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1月11日 塩の日

「間に合わなかった、吐き出せ」
昨日の自分と同じセリフを、今日は別の男に言われている。苦笑しながら飲み込んだ。
あ、と見せつける様に口を開けたが、一瞥されて終わった。
美味いわけもない体液だが、どこか涙と似ている気がした。
俺はこの男の塩臭さを、取り零したくないのだ。
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1月12日 スキーの日

「真冬の恋、絶好調だな!」
「そうすね」
「ゲレンデが溶けるほどの恋にしたいな!」
「えーと」
「お前もこのスピードに乗れよ!」
「あー、んー?」

俺がこの人に惚れてることは間違い無いのだけれど、今ひとつついていけない。
ゲレンデと同じくらい、白くて眩しすぎるのだ。
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1月13日 ピースの日

「生徒指導に喫煙疑われた」
「へー?」
「あんたのせいだつってんだよ、おっさん。もうやめちまえ」
煙草なんて害なだけだ。
「あー、やめるか。俺たち付き合うの」
「そっちじゃねえ!」
寿命換算で確実に10年は先に死ぬおっさんが心配なだけなのに、上手くいかねぇむかつく。



今日の記念日の「ピース」は、タバコのピースのこと。高級タバコで、当時はいろいろ制限があったらしいです。
#記念日BL #小

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1月14日 愛と希望と勇気の日

今日こそ別れを告げるんだ。
「あとは勇気だけ」と僕の中の僕が言う。
「でも妻とは別れるって言ってたし、希望を持ってもう少し待てば?」と、別の僕。
「彼を本当に愛してるのは僕。今すぐ妻と別れさせよう」とまた別の僕。

勇気と希望と愛とが戦って、決着はまた今日もつかない。
#記念日BL #小説 #短編小説 #超短編小説