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冬箱

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3分以内に読める、が目標。「冬」をテーマにした1話完結・読み切り短編BL集。全7話収録予定。全てリクエスト作品です。
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記事一覧

夜に

「冬」がテーマの1話完結・読み切り短編BL集『冬箱』収録作品です。

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30を目前にして実家を出た。
家業を継ぐのは兄である、と昔から決まっていて、僕は自由を許されていて、だから当然不満もなかった。
随分と長く居座ってしまっていたのは、あまり身体の強くない義姉と母とが、祖母の介護で消耗していくのが、見るに堪えない状況だったからだ。
とはいえ自分も仕事をしているから、できるサポー

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仕方のないこと

「冬」がテーマの1話完結・読み切り短編BL集『冬箱』収録作品です。

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去年の冬の日のことだ。
おれは見てしまった。見間違える余地さえなかった。

「ひっそりと、こっそりと想うだけ」。そうやって続けてきた、片思いの相手のキスシーンだ。
しかも相手は男だった。

おいおいマジかよふざけんな。相手も見覚えのある顔だ。
名前はたしか瀬尾。
背はあまり高くなく、派手なプレイもなく、けれ

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厚手のタオルにくるんで

「冬」がテーマの1話完結・読み切り短編BL集『冬箱』収録作品です。

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セックスはただのスポーツだ。
誰に挿れようと挿れられようと、気持ちいいものはいいし、楽しいものは楽しい。
そしてただのスポーツだから、行為の相手と恋愛はしない。
とりたててそう決めたわけじゃないんだ。むしろ恋愛できたら楽しいだろうと、いつも思っていた。単純にできなかったのだ。
恋愛を欲していないからか、単に

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パリパリ

「冬」がテーマの1話完結・読み切り短編BL集『冬箱』収録作品です。

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赤。黄色。茶色。
学校と駅とを結ぶ道は、裏道の中央公園ルートを選ぶと、この季節は色彩に事欠かない。
さくさく、パリパリ。
乾いた赤と黄色を踏んで歩く。静かな時間。
そんな中、ひどく深刻な顔をして、隣を歩く水田が言った。
「もしさ、俺たちが結婚したとすんじゃん」
「ありえねぇな」
言葉にして確かめ合ったのは、

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分別する

「冬」がテーマの1話完結・読み切り短編BL集『冬箱』収録作品です。

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身体中が痛くて目が覚めた。手首、腕、喉、太ももの内側。けれど一番痛むのはケツだ。少し無茶をされた。
毛布からはみ出たままの、裸の肩は冷え切っている。隣に残った布団の中の温みとの差に、虚しさが増した。

ぼおっとしたまま時計を見る。
もうこんな時間か。起きなければいけない。
身体を動かすと、後孔で少し乾きかけ

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呪いのマシュマロ

「冬」がテーマの1話完結・読み切り短編BL集『冬箱』収録作品です。

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甘い物がキライだ。砂糖の存在を心の底から憎んでもいる。
次にキライなのはふわふわしたもの。やわらかい感触のものに触れると、身体中が痒くなる気がして、爪を立てて掻き毟りたくなる。

だからコレは、つまり何かの呪いなのだと思う。
コレ。
幼馴染の白井に、オレがホレているということ。

例えるならば、白井はマシュ

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恋人は裸族

「冬」がテーマの1話完結・読み切り短編BL集『冬箱』収録作品です。

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「君は不思議だね。そして素敵だ」
 口癖のように宮城さんは言う。けれど、不思議なのも素敵なのも宮城さんの方だと思う。

 宮城さんは裸族だ。
 晴れの日は「キモチガイイから」と脱ぎ、雨の日は「脱がないとジメジメしそうだから」と脱ぐ。
 宮城さんが服を脱ぐスピードは尊敬に値すると思っているし、脱いだ服を必ず綺

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