呪いのマシュマロ

「冬」がテーマの1話完結・読み切り短編BL集『冬箱』収録作品です。

*********

甘い物がキライだ。砂糖の存在を心の底から憎んでもいる。
次にキライなのはふわふわしたもの。やわらかい感触のものに触れると、身体中が痒くなる気がして、爪を立てて掻き毟りたくなる。

だからコレは、つまり何かの呪いなのだと思う。
コレ。
幼馴染の白井に、オレがホレているということ。

例えるならば、白井はマシュマロだ。
白い肌。弾力のありそうなもっちりとした頬。滑らかそうな指先。8年前からは、家がケーキ屋を始めたせいか、いつも甘い香りが漂ってくるようにもなった。
ふくよかな体型もあいまって、クラスの女子からは「美味しそう」とよく言われている。

本当にふざけた事態だと思っている。
ホレた男が身にまとっているのは、オレがキライなもののオンパレードなのだ。

(くそ……)

オレの片思い歴は長い。
幼稚園の年長の頃からだから、もう10年以上になる。当時から白井は、背が小さくて、まるまるとしていて、色が白くて、可愛かった。
だから、ピッタリだと思ったのだ。
「おまえ、マシュマロっぽいな」
オレのその一言で、白井は幼稚園のお遊戯会で「マシュマロマントマン」の役をすることになった。
ちなみに主人公だ。
乱暴者だと言って避けられがちだったオレに、白井だけはいつも声をかけ遊びに入れてくれていた。
お遊戯会のスターたる主人公の座につかせてやるのは、そのお礼のつもりでもあったのだ。

けれど白井は、大の恥ずかしがり屋さんだった。
恥ずかしさのせいでその場では、練習の場でも、拒否ができなかったのだろう。本番中に白井は、顔を真っ赤にして、声も立てずに泣き出してしまったのだ。
白井に恥をかかせた。
完全にオレのせいだ。心の底から後悔している。

それ以後、白井は好きだったはずのマシュマロをキライになってしまった。
あぁそうかこれは、マシュマロの復讐か。
マシュマロから白井を奪った罰。そのせいでかけられた呪い。

やわらかいものがキライで甘い物が大キライなオレは、けれど白井にそっくりのマシュマロを、見かけるたびに購入してしまう。
そうしてひとり、袋から出したマシュマロを弄りながら夢想するのだ。

ふくらみを指でつぶす。
爪で弾いてみる。
軽く引っ掻く。
つつく。
白井のあんなところやこんなところに、そうする様を思い浮かべながら。
それから熱して溶かしてみる。
滴りかけた白色のそれを咥えて、口の中で弄ぶ。
溶かした2つのマシュマロが、やわらかくなってくっついていく様は、もうセックスしているようにしか感じられない。

オレは変態だ。
きっともう戻れないところまで来ているけれど、別にいい。

季節は特に冬だ。
クリスマスやバレンタインが近づくと、マシュマロを見かける機会が増える気がする。
コンビニで、スーパーで、菓子屋で。
マシュマロを見かけるたびにオレは、白井と結ばれる白昼夢さえ見ることができるのだ。
なんて簡単。なんて安上がり。

マシュマロに呪われて、オレはしあわせだ。

*********

リクエストテーマは「くっつく・白昼夢・しあわせ」でした。ありがとうございました!


ワンコインのサポートをいただけますと、コーヒー1杯くらいおごってやろうかなって思ってもらえたんだなと喜びます。ありがとうございます。