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なんでもない記念日2

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365日分の「なんでもない記念日」を祝して。130文字以内の小話を、1日に1つ。0214〜 #記念日BL
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2015年2月の記事一覧

2月28日 バカヤローの日

「俺が急にいなくなっても心配しないでな。元気でやってっから」

その言葉通り、彼が消えたのは翌日だった。

卒業まであとひと月での失踪。
「バカヤロー」とは思ったけれど、俺は冷静だった。

恋人にはなれずとも、俺も確かに彼の特別になれていたのだ。
それがわかって、満足だ。
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2月27日 女性雑誌の日

本棚を見て妹が言う。

「兄貴マジキモい…」

本棚には、1人の読者モデルの掲載された女性誌がズラリと並んでいる。
その眺めに鼻を高くして、またキモいと言われる。

「彼女」が本当は「彼」だと言うこと。俺の彼だと言うこと。
俺だけの秘密。
鼻を高くするくらい、いいだろう。
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2月26日 脱出の日

高校はあと2ヶ月もせず卒業だし、今夜は気になっていた映画が放送される。
彼も、あと少し待った方がいいと言っていた。

それでももう、どうしようもない。

この場所を出て、今日僕は遠い彼のもとへ。

「さ、行くか」

外はまだ肌寒い。
清々しい、今の気分にピッタリだと思った。
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2月25日 夕刊紙の日

最近では、夕方になると新聞売りがあらわれる。
安い値段ではないのだが。

「ジロジロ見てんなよ」

睨みつけ荒い言葉を発していた「新聞」は、金を握らせた途端、耳障りのいい言葉を並べ、ベッドではイイ鳴き声を聴かせてもくれる。
それはとても快感だ。

今日もいい買い物ができた。
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2月24日 クロスカントリーの日

遠距離ったって、海を渡るわけでもなし。
だからこそ「たとえ火の中水の中」なんて、軽く思えていたのだけれど。

舗装もされていない、道無き道をひた走る。
会うために、会うたびに、4時間も。

「限度があるだろ!!」

それでも毎週通ってしまうのだから、愛の力は素晴らしい。
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2月23日 富士山の日

日本一の山、と聞いて、もち上がった彼の股間を思い出す僕は、そろそろ末期だろうか。

「もう1回キスしていい?」

頷き、受け入れながら、彼の山頂に指をはわせる。
彼の細長い指も同様に。

「お前のでか! 富士山みてぇww」

触れ合う2つの富士の山頂。
雪が溶けて雫が溢れる。
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2月22日 ヘッドホンの日

目立つ赤のヘッドホン。
隣にいてもお構いなしに、いつもその耳は塞がれている。
返事だっていつも返って来ない。

だから
「俺さーお前に惚れてんだよねーもーどーしよーなー」
呟くように言ったのに
「知ってたよ」なんてニヤリと言われたら、本当に俺はどうしたらいいんだろうな。
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2月21日 日刊新聞創刊の日

「寝坊しかけた」
「バイトが忙しくてクタクタ」
「コロッケで舌を火傷した」
「課題の評価がよかった」

平日4日分の、返信すらない小さなニュース。

けれど。

「明日行くね」

金曜に送るこのメールにだけはレスがつく。

「待ってる、気をつけて」

僕の毎週の一大ニュースだ。
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2月20日 世界社会正義の日

「雄と雌とで番わないなんて不自然」
「同性愛行動をとる生物は自然界にもたくさんいるよ」と笑う彼。

「子を作らないのは罪」
「産む性じゃない僕らの言えたことじゃないね」
「全人類がそうなったら世界が滅ぶ」
敵うわけない抵抗に彼が笑う。

抗う気が無いことももうバレている。
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2月19日 天地の日

冬は寒いし、空腹だと悲しいし、ピンクのエプロンは男の僕には似合わない。
それが当然と思っていた、けれど。

常識に固まった僕は今夜もひっくり返されて。

冬でもあなたの隣は暖かいし、お腹が空けば一緒に食べるのが楽しみだし、筋肉質のあなたはピンクのエプロンもよく似合うんだ。



今日は、地動説を唱えたコペルニクスの誕生日です。
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2月18日 嫌煙運動の日

髪から、服から、自分から漂う煙草のにおいに嫌悪感がわいた。
キスは煙を吹き込まれるような心地になるから不快だ。

それでも家に帰り、シャワーを浴びてスッキリしてしまえば、あのにおいに包まれていた感覚を思い出したくて、洗濯前の服に顔を埋めたりする。

嫌いだ、こんなもの。
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2月17日 天使の囁きの日

「ひとりでにそんなになるなんて、大概だね」
「そこ、そんなにしていいって許可した覚えはないんだけれど」
「気持ち悪い」

絶え絶えの呼吸で謝るけれど
「誰が喋っていいって言ったの?」
喉奥まで指を突き込まれ言葉を奪われる。

甘い声で囁かれ、僕の先端からは涙が溢れる。
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2月16日 寒天の日

限りなく自分を透明にして、目立たず、隣にいても体力を使わせない。
存在感のなさが僕のウリ。

「一緒にいておもしろくないとか言われない?」

そんなことないよ、とだけ笑って答えた。

だってあの癖の強い、派手な太陽みたいな男の隣は、きっと僕のような男だからこそ似合うんだ。
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2月14日 ネクタイの日

「これ、どうぞ」
「ネクタイか! 高かっただろ?」

そうでもない、ことは言わない。

「しかしこれ、首輪みたいでまだ慣れなくてなぁ」

「社会人なんだから我慢しなよ」
そう笑って答えるけど、会社ではなく僕への、鎖の変わりなのだということも言わない。

絶対に言わないんだ。
#記念日BL #小説 #短編小説 #超短篇小説