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探究学習トップランナーインタビュー Vol4福岡雙葉高等学校 清水功也先生

世界のトップランナーから学ぶ独自の探究プログラム「F.GLEP」

世界に羽ばたくグローバルシティズンを育成することを掲げる福岡雙葉高等学校には、進路目標に合わせた3つのコース(GLコース、医進コース、特進・進学コース)があります。

今回、インタビューにお答えくださったのは、次世代グローバルリーダーを育成して難関文系大学を総合型選抜試験や公募推薦などで目指すGLコースの推進委員長の清水功也先生です。

2020年度に始まったGLコース、2021年度に創り上げた独自プログラム「F.GLEP」について、お話を伺いました。

清水功也先生のプロフィール

福岡雙葉高等学校 清水功也先生

福岡雙葉高等学校 GC・GL推進委員長

和歌山県出身。22歳で地理・政治経済の私立高校の専任教諭としてキャリアをスタートし、その後公立高校でも教壇に立った経験を持つ。2001年の9.11をきっかけに研究者を目指し、立教大学にて伊勢崎賢治に師事。西アフリカの紛争問題をベースとしたPeace and Conflict Studiesにおける教育プログラムの開発・研究に従事。元防衛事務次官の秋山昌廣や現跡見学園女子大学学長の笠原清志、日本の国際協力NGOの立役者である伊藤道雄などにも師事し、副首席にて大学院を修了。研究科優秀論文賞受賞。学位(MBA in Social Studies)を取得。その後東京女子大学において兼任講師として研究を続けながら、同時に東京都町田市教育委員会の社会教育プログラムコーディネーター(国際学)として従事。その間日本を代表するジャーナリスト立花隆から誘われ、東京大学・立教大学の学生と共にドイツやポーランド等をフィールドとした研究プロジェクトに参加。2011年3月には9名の研究者と共に『東アジア共同体とはなにか』を出版。同年3.11に生じた東日本大震災をきっかけに、東京からパートナーの出身地である福岡に移住。その後福岡大学附属大濠高等学校にて講師を務めながら、九州社会デザイン研究所の立ち上げのため準備室長として従事。2017年に福岡雙葉中学校・高等学校の常勤講師として教員としてのキャリアを再スタート。2021年より現職。


GLコースの立ち上げ背景

Q.GLコースの立ち上げ背景を教えてください。

当校は2015年度に文部科学省からスーパーグローバルハイスクール(SGH)に認定され、2019年度までの5年間、福岡雙葉高等学校にグローバルコミュニケーション(GC)コースが設置されました。
文部科学省からの予算支援のもと、GCコースは専属の統括ファシリテーターを外注し、多種多様なグローバル活動を実践するコースとして人気を博しましたが、SGHの認定期間終了後、WWL連携への移行に合わせ予算支援がなくなった状況で、引き続きグローバル教育を行なっていくための新たな内製化が必要となり、2020年度からGCコースを発展させた、福岡雙葉オリジナルの探究プログラム持つコースが設置されることとなりました。それが現在のグローバルリーダー(GL)コースです。

私は元々GCコースの担任をしており、その後2020年度に前任の委員長のもと副委員長として関わりながら、2021年度より推進委員長としてGLコースの設計とコース全体統括を務めています。

F.GLEPの3つの柱

Q.GLコースのコアとなるコンセプトを教えてください。

GLコースのために開発・設定したオリジナルの探究プログラムを「F.GLEP(Futaba Global Leader Educational Program)」と名付けました。

F.GLEPには、3つの柱として「グローバル」「チャレンジ」「プロフェッショナル」があります。

「グローバル」は、英語をツールとしてグローバルな視点で探究のマインドセットを構築するということ。「チャレンジ」は、コンペティションなど挑戦する機会を設計するということ、そしてクリティカルシンキングを養うということ。そして「プロフェッショナル」は、学校内のリソースに限らず、学校外において活躍する各分野のトップランナーに関わってもらうということを意味します。

この3本の柱をベースに、統括就任1年目の2021年度に高校1年生のフレームワークが完成し、2022年度に2年生の前期までが完成するところです。

外部のトップランナー(プロ)から国際教養を学ぶ

Q.具体的な学びの内容を教えてください。

生徒のグローバルマインドセットの構築を目指すことを目標に、F.GLEPのプログラム開発初年度は、高校1年生の前期において、海外赴任経験のある本校総合探究推進委員長(元主幹教諭)の長村の繋がりから、元JICAの職員で海外援助の経験を持つスタッフで構成されているNPO法人九州海外協力協会様にワークショップを依頼し、SDGsや国際協力、世界の実態を知るための国際教養プログラムを設定しました。

ワークショップを通じて生徒たちは、世界にはどんな課題があるのかを学んでいきます。生徒たちが学びを進めていくと、自然と生徒たちの視点が、受け身の状態からその課題をどのようにしたら解決できるのかという主体的な視点へと変化していきます。この視点の変化を確立した後、後期に課題を解決するためのPBL型探究プログラムに臨みます。

F.GLEPの最重要ポイントは、全体のフレームワークは変えず、一方で内容は毎年変えていくところにあります。初年度のNPO法人九州海外協力協会様に代わり、2年目の2022年度の高1国際教養プログラムを、開発教育事業を行なっているシンカクションリサーチの糀広大氏にお願いしたこと等がその一例です。


PBL型の探究プログラム「GLP」

1年生の後期は、PBLを用いたオリジナルの探究プログラム「GLP(Global Leadership Program)」を実施します。

GLPとは、WWL(World Wide Learning)のネットワークで出会ったOne Young World Japanと共同開発を行っているプログラムです。このプログラムの特徴は、PBL型ではありますが、大枠のテーマは予め設定しておくということです。いきなり自分たちで社会課題を探しなさいとはせず、この段階ではPBL型探究のプロセスを体験することが主たる目的です。

2021年度はOne Young World Japanから2つのテーマを設定してもらいました。
1つ目が「日本に寄付文化をいかに定着させるか?」
2つ目が「日本の若者の選挙投票率をいかに上げるか?」

One Young Worldはヤングダボス会議とも呼ばれ、世界の若手リーダーたちが集まりPitchを行う大会を毎年世界のいずれかの都市で開いています。因みに2022年は東京都と東京観光財団が誘致を行い、東京での開催が決まっていたことから、GLPのファイナルプレゼンテーション大会でグランプリに選ばれたチームが、Student Pitch東京大会に出場する予定でした。

ところが、コロナの影響で東京都が開催を断念したため、イギリスのマンチェスターで開催されることになりました。そこで、One Young World Japanが主体となり、協賛企業のBMW様のご厚意で、Student Pitchの会場をお台場のBMWショールームに設定、8月に念願の大会が開催されました。

世界から若手リーダーが集まる大会ですので、プレゼンテーションのアウトプットは全て英語で行います。

国際教養を身につけ、社会課題に注目するようになり、PBL型の探究プログラムを経験して社会課題に対する解決策を見つけ出す方法を見につけ、最後は必ずアウトプット(提案)するという一連の流れを通じて、生徒たちの意識がステップ・バイ・ステップで世界に向いて行く。一足飛びを目指さず段階的に丁寧に積み上げることが、グローバルマインドセットを身に付ける上で重要だと感じています。

2022年度も、One Young WorldのGLPにご協力いただきます。2022年度のテーマはもちろん昨年度とは違うもので、具体的には「福岡市を訪れる観光客をコロナ感染拡大前より100万人増やすには?」で高1GLコースの生徒たちはPBL型探究活動を行う予定です。

課題解決のためのモノ作り「デジタルファブリケーション」

  課題を解決するために新しい”モノ”が必要なこともあります。手作りでプロトタイプを作ることもできますが、3Dプリンターやレーザーカッターなどを使ったデジタルファブリケーションを用いて、よりリアルに発想を具現化するプログラムも導入しました。

 もともとSGHの時に始めた3Dファブリケーションのプログラムがあったこと、加えてファブラボ太宰府という研究施設との連携があったことから、それらを上手く探究活動に組み込んだ形になります。単純にモノ作りをするのではなく、あくまで「社会課題を解決するための」の発想を形にするためのモノ作りとして、生徒たちはデジタルファブリケーションの技術を活用しています。

世界のチェンジメイカーと出会う「WE HAVE A DREAM」プロジェクト

2年生では、GLコースの教科書として導入している書籍『WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢×SDGs 』をもとに探究プログラムを開発しました。

この書籍には、社会課題の解決に挑戦・実践している201カ国202人のトップランナーたちが紹介されています。その方々のことを知り、その中の1人と実際に繋がることで、社会課題を解決するということはどういうことなのかを実感を持って学んでいきます。

1年生の後期で展開するGLPは、与えられたテーマに基づいてチーム編成しPBL型にて探究を行いますが、2年生のWDP(We have a Dream Project)では、テーマの設定から生徒たち自身で行います。デザイン思考を用いて自分たちで社会課題を探し、それらの解決策をチーム全員で考え、必要な調査やプロトタイプなどを作成する活動を行っていきます。

今年度は、本で紹介されている202人の一人であるカナダ在住のリサ・ウンさんにご協力いただきました。各チームはオンラインでプロジェクトの報告をリサ・ウンさんに対して英語で行い、直接アドバイスをいただきます。

 いただいたアドバイスを元にチームのProjectの内容をブラッシュアップして、前期の最後に現地カナダとリモートで繋ぎ、英語でコンペティションを行ってグランプリのチームを決めます。グランプリを獲得したチームには、副賞として特別な機会を用意しています。

生徒たちは英語をアウトプットの道具として使いながら探究活動を行うことで、英語の学びに対する強い動機付けを背景に、より実践的な英語力を身につけていきます。
 何よりもF.GLEPはトップランナーの方々にご協力いただくことに強くこだわっています。同時に私をはじめ関わる教職員のスタンスは、何かを教えるのではなく、アドバイスと伴走に徹し、後は生徒たちの発想と行動力に委ねることを大切にしてきました。生徒のみでどこまでできるのか不安がなかったわけではありませんでしたが、そんな不安などいとも簡単に吹き飛ばし、生徒たちは軽々とこちらの想定を遥かに超えるものを生み出していきます。まさに教えるのではなく、生徒たちの可能性を信じ委ねること、チェンジメイカーはこのような環境から誕生するのかもしれないと実感しています。

福岡雙葉オリジナルの「模擬国連」

更に2年生の後期は、福岡雙葉オリジナルの模擬国連『F.MUN(Futaba.Model United Nations)』を行います。

以前SGH認定時は模擬国連を活動の中心としている九州大学の学生に協力してもらっていましたが、F.GLEPにおいては、推進副委員長でMasterであるネイティブの教員が、福岡雙葉オリジナルの模擬国連プログラムを作成し、実際に全体のコーディネートを行っています。

模擬国連は、WWL連携校と協働して、世界のトップレベルの高校生と英語で会議やチーム活動、フィールドワークに取り組みます。

クロスメンターシップとポートフォリオ作り

3年生では、1年生と2年生で経験したことを言語化して、それを武器に受験に立ち向かっていくサポートを行います。

当校は指定校推薦枠が多く、推薦入試での進学率が高いのが特徴ですが、GLコースは、F.GLEPを通じて積み上げた様々な探究活動の経験をもとに、総合型選抜で結果が出せるコースを目指し、チャレンジしているところです。

総合型選抜等で自身をPRしていく上で、生徒が志望する大学・大学院に通う現役学生から各大学のアドミッションポリシーなどをもとに、自身のアプローチする方法をブラッシュアップするため、ワントゥーワンでのメンタリングを受けるクロスメンターシップを、株式会社CroMen様に本年度から依頼しています。メタリングを受けながら、総合型選抜に向けたポートフォリオを生徒たちは効率よく整理し、作成していきます。

肝は「アドバイザーに徹する」こと

Q.期待を超える生徒たちの活動を生み出すための”コツ”はなんでしょうか?

 教員とは職業の特性上、何かを伝え、わかりやすく教えたくなってしまうものですが、あくまでも探究活動においては、教えるのではなく生徒たちをサポートする、つまりアドバイザーに徹することが何よりも大事だと思っています。

 私は大学院の時にフィンランドメソッドの研究にも取り組んでいたのですが、フィンランドメソッドでは教育学の修士号を持った教員が、教えるのではなく、生徒たちの軌道修正をして、背中を押してあげるようなアドバイザーに徹していることを知り、衝撃を受けました。
 ただし、教えないことは放置することではありません。生徒たちが主体的に考えるようにサポートすることです。そのために設定する教育プログラムにおいて、何よりもフレームワークをしっかりと設定することが大切です。

 一方、フレームワークの中で展開するプログラムの内容は、毎年変更して改善していくことが探究学習には必要だと思います。昨年度やったことを本年度も展開する、このような踏襲型のプログラムは、世の趨勢の変化を捉え実践しようとする生徒たちの探究活動において、最も相応しくないものであると感じています。

 最後に、F.GLEPのフレームワークがここまで形作られ、生徒たちが活き活きと探究活動に取り組めるプログラムがここまで発展を遂げてこれたのは、現在本校GLコースに繋がってくださる多くの方々や組織とのご縁であると感じております。生徒たちの可能性を信じながら、日々真摯に生徒に寄り添って共に様々な課題と向き合いつつ様々な場所に足を運んでいると、本当に不思議なのですが共感してくださる方々や組織とのご縁が与えられ、ここまでたどり着くことができました。そして、現在もそれらのご縁が魅力的な機会を更に深め拡大してくれています。本校はカトリックの学校ですので、これらのご縁は神様が生徒たちに与えてくれたものだと、私はいつも感謝しております。

Q.今後、取り組んでいきたいことはありますか?

 フレームワークは変えずに、内容を更にブラッシュアップしていきたいと考えております。同時に、F.GLEPを通じてGLコースの生徒たちが放つ発想や実践を、WWL連携を通じて、立命館宇治高等学校を拠点校とし日本全国の高校生と混じり、ブラッシュアップする機会を経て発展させながら、多くの場面を通じて外部にどんどん発信していきたいと思っています。ただし発信していくに当たって、誰とどのように繋がり、何をアウトプットしていくべきかについては、今以上に生徒たちに伴走しながら慎重に探っていきたいと思っています。その上で、生徒たちと繋がってくださるトップランナーを探しながら、引き続きご縁を大切にF.GLEPを生徒たちとともに成長させていければと考えております。将来この課題多き世界に希望のあかりを灯すチェンジメーカーが、カトリックの精神をもとに福岡雙葉で学び、探究活動を行った生徒たちの中から誕生することを私は信じて疑いません。


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