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家に住めない人との旅 2

ほんの少し前に米西海岸は大規模な山火事に遭い、うちの辺りは実際の被害はなかったものの、本当に怖い思いをしました。まず原因不明に具合が悪くなり、まる二日間起きられませんでした。辺り一面がスモークでいっぱいになったのはその後で、山火事が近くまで来ていることをようやく知りました。

ウィルス騒ぎがあってからあまりニュースを見ていないので、時々このようなニュースを聞きそびれる事があります。具合が悪くなった時は、風邪のような症状でもあり、空気は煙くはなく、苦しかったり咳き込むことはなく、でもパーティクルが飛んで来ていたようで、吐き気や頭痛が酷かった感じです。

そして避難所に避難するのどうの、ネコは連れていけないし、など本当にやきもきし、火が近くまで来ないように祈るしかありませんでした。今まで天災の少ない所ばかりに住んで来て、こういう事態はニュースで見るだけだったので、初めてのリアルな恐怖体験でした。

幸い1-2週間で大気も落ち着き、避難所にも行かずに済んだ事は本当に運がよかったです。しかし州の相当な部分は焼け野原になり、家も街もかなりのスケールで燃え尽きてしまい、人間でいったら第三度の火傷といえるでしょう。

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そのすぐ後、再度パートナーの二コーラからロードトリップの話が出ました。以前から話は出ていたのですが、私のネコ4匹は、連れていくことも、置いていくことも、人に預けることもできないため、返事を渋っていました。でもこの山火事の後、本当に生きないといつ死ぬかわからないというふうに考え始め、ネコ4匹を連れていくことを決断しました。彼も最初は、ネコにとってもストレスになるといって、連れて行くことには同意ではなかったのですが、私がそんなに長い間ネコと離れて暮らしたことがないため、一緒でないとダメとわかったようです。なにしろ彼は2か月くらい行くつもりと提案してきたので。

私達は共に別の理由から文無しのカップルで、私はタイニーハウスという車と家の中間のような住居を持っていますが、見る人が見ればホームレスカップルとみられないこともありません。また私が今住んでいる所は、泊り客は一年で2週間以内という規定があります。それ以上滞在させると家賃に超過料金(家賃の約60%増し)が付いて、更にいろいろな条件があります。彼はもうとっくにその2週間は使っていました。

彼は車が家の人なので自由な方なのですが、ウィルスの影響で普段住みかとして使えていた国立公園のキャンプ場などがどこも閉鎖になり、一番近くで転がり込める所が妹夫婦の持ち家で、私の家からは車で10時間の距離です。なので今年に入ってからは2か月に1度くらいの割合で会っていました。彼は国立公園は自分の庭のように詳しく、プロ並みのバックパッカーでもあるのに、今年はハイキングもキャンプもカヤックもままならず、さらに持病も悪化してきて、これが最後の旅、とそれは期待をかけて、有り金全部をはたいて車を整備したり、ロードトリップ用の備品に投資をして行くことを決断しました。私も彼が本気なら付き合う、と心に決めてネコ4匹を連れていく計画に便乗しました。

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彼は若い頃から腎臓が悪く、20代の頃に既に医者から「長くは生きないでしょう」と言われています。人生これからという時に、そのような宣告を受けたらどのように生きるでしょう。どれだけかわからない残された時間をどのように使うでしょうか。そうして彼はいつ死んでも後悔しないように、やりたいことを先延ばしにせずにまず最初にし、お金がなくなったらとりあえず仕事をし、貯まったら次にやりたいことをする、を繰り返して来ました。彼のやりたいことは自分の車を好きなように改造して、好きな場所へ行って自然の中に住むことです。そうしてアメリカとカナダの西半分はアリゾナからアラスカまで大自然の中を車で、徒歩で、旅する人生を選びました。その間ハイキングトレイルで心臓発作を起こしたり、何度か病院に担ぎこまれ様々なハンディや苦痛と闘いながら。

その道中で私達はひょんなことから知り合い、彼の身の上話を聞くうちに色々と助けることとなり、現在に至っています。知り合って1週間くらい経った時、彼の腎臓の機能はその時点で30%くらいだと知りました。そんなんで生きてられるの?と思いましたが、生きられるそうです。実際には30%でも自覚症状はなく、多くの人が何も知らずに普通に暮らしているそうです。(肝臓も同様で、10-20%の機能で普通に生活をして、サプリなどを飲みながら殆どその深刻さに気付かずに過ごしている人がたくさんいるようです。)そしてその時点であと3年くらいしか生きられないと医者から言われていると聞きました。

私は正直そんな人と関わるのはどうかと考えました。離婚後何年も誰と付き合うこともなく、再婚の意思もまるでなく、金銭的には苦しいながらも細々と自由にやっていたので、もし誰かと付き合うとしても「3年契約の闘病中の恋人」はどうやってもお呼びではありませんでした。
 しかもこの人は控えめに言ってハイ・メインテナンス、非常に手のかかる人で、よく考えている間もなく走り出したジェットコースターのような日々を送ることとなっていきました。


(つづく)

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他の noterさんに今日の記事をご紹介頂きました。
とても洗練された文章をお書きになる方です。ありがとうございました。


もしもサポートを戴いた際は、4匹のネコのゴハンやネコ砂などに使わせて頂きます。 心から、ありがとうございます