そもそも知財って矛 ?それとも盾 ?
そもそも知財って矛 ?それとも盾 ?
今回は、このネタでお話したいと思います。
先ず:質問3つ
もし、
自分が売っている商品に対し、特許取得済だから、
その商品を売っても大丈夫だと思っていませんか?
もし、
自分のビジネスに関わる知財さえ確保して置けば、
自分のビジネスを好き勝手にやっていいと思っていませんか?
知財を持っているんだから。
自分が発明したことを国が認めてくれたんだから。
知財が俺を守ってくれてるんだよ。
知財が俺の正当性を証明してくれてるんだよ。
知財ってチケットみたいなもんだよ、と思ってませんか?
このような方は、知財は盾だと思っている方です。
全くの勘違いですが、
このように思っている方って結構います。
彼らがこのように勘違いしているのも理解はできます。
次に:知財ってな~に?
知財ってな~に?
特許ってな~に?
Google「特許の定義」で調べてみましょう。
特許とは、「発明」を保護する制度だ、と言ってますね。
だから、自分が特許を取って置けば、
自分のビジネスを守ってくれるんだ、と。
特許を持っていれば、
好き勝手にビジネスやっていいんだと思うかもね。
ここで、日本の特許法を読んでみましょう。
第一条では、このように規定されています。
この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。
特許発明の実施行為については、特許法第2条で規定されています。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあっては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 方法の発明にあっては、その方法の使用をする行為
三 物を生産する方法の発明にあっては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
特許法の第1条と第2条を読むと、
発明をすると、自分は保護されるんだ。
特許を取ると、その実施が認められるんだ。
その実施とは、
作ったり、使ったり、売ったり、外国に売ったり、展示会で宣伝したり、全部できるんだ。
と読めませんか?
ちょっと待って下さい。
特許法第101条も読んでみましょう!
(侵害とみなす行為)
第百一条
次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
一 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
二 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
三 特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
五 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
六 特許が物を生産する方法の発明についてされている場合において、その方法により生産した物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
何処かで見たような表現ですよね?
そうです。
特許法第2条に似ています。
誰かが特許を持っていて、
自分がその誰かの特許に当たったことを前提で、上記のような行為をしたらどうなるんでしょうか?
その誰かは、あなたを特許権侵害をしたとして訴えることができます。
自分がいくら特許を持っていたとしても。
ここで定めている行為は、
第2条よりも広く、間接的な行為まで及びます。
例えば、
物の特許の場合、
その物の生産に用いる物を作っても駄目。
ビジネスをやろうとしてその物を持っていただけでも駄目。
方法の特許の場合、
その方法の使用のみで出来上がった物も駄目。
その方法の使用に使う物も駄目。
ビジネスをやろうとしてその方法により作られた物を持っていただけでも駄目。
3:知財って、ゴリゴリの矛です!
すなわち、
知財とは、盾ではなく、ゴリゴリの矛です!
知財を取る理由は、他人を攻撃するためです。
知財を取ることは、他人を攻撃するための弾を作るっとのことです。
全ては、
自分が何を発明したからではなく、
他人が何を売り出すかも、
他人のビジネスを邪魔しなきゃ、
の観点で知財のことを考えるべきです。
すなわち、
知財は他人を刺すための矛ですから、
知財を取ろうとする方は、
如何に、他人を嫌がらせるか、
を常に忘れないことが大事です。
自分がやっていること、
自分が作った商品の作り方、
そのノウハウを開示するような優しい説明書を書いて、
それで特許取ろうとしていませんか?
そんな特許は、
なんらメリットもなく、
デメリットしかありません。
そんな風にやるんだったら、
特許取らないほうがいいです。
その特許があるから自分のビジネスが自由にできる、との保証は一切ありません。
自社の製品が、
自分が取った特許のようにして作られたとしても、
他人が自分の製品に関わる特許を持っていれば、
自分が特許を持っているか否かとは関係なく、他人に攻撃されます。
だからこそ、
アップルとサムスンの世界的範囲での特許訴訟が起こる訳です。
お互いに、自分の持っている特許で相手を攻撃しているんです。
2社とも全世界で何十万件の特許を持っていても、
相変わらず、訴訟に巻き込まれ、他人に攻撃されるんです。
自分が世界初の素晴らしい商品を開発したら、
そこから特許を取るために考えるべきなのは、
誰かが、絶対、自分が発明した商品を、見た目違った形にしながら、真似してくるはずなんだから、
如何に、その誰かを逃げれないようにするか、
如何に、その誰かを止めさせるための恐ろしい武器を作るか、
を必死に考え、そこをカバーする知財を出すべきです。
4:良くありがちなこと
良くありがちなことは、
素晴らしい商品を作り出したら、
その作り方を詳細に書いて、特許を出そうとすることです。
こんなふうにしたら、
それで確かに方法の特許が取れるかも知れませんが、
ノーハウの塊を開示して、
他人に良いことだけして、
自分に良いことはあんまりありません。
特許は、自分が偉いんだとアピールするためのものではありません。
特許は、自分を真似する他人を殺すための弾です。
なので、
自分が何かを作り出したから、そこで特許を出すのではなく、
他人が何を作ろうとするから、そこに特許を出すべきです。
5:ソニーのイヤホン事例
最後に、
ソニーさんが如何に弾を作っているかを簡単に紹介しましょう。
これは、ソニーさんが、2018/5/16から販売しているイヤホンです。
こんな感じのイヤホンで、開放型インイヤーと言う類のイヤホンです。
自然な外音を聴きながら、自分だけのBGMを楽しむことができる、革新的音楽体験を。通勤・移動時にアナウンスを聞きながら、仕事中に同僚と会話しながら、アクティビティ時に外音も楽しみながら、様々なシーンで自分だけのBGMを楽しむことができる。
ソニー独自の音導管設計により、耳をふさがない構造ながら、音導管を通して鼓膜へダイレクトに音を届けることで、周囲の音と機器からの音(音楽など)がブレンドされる新しいリスニング体験を提供するイヤホンらしいです。
これに対し、ソニーさんが如何に他人を嫌がらせる弾を作ったかみてみましょう。
まず、日本特許庁で調べてみると、2016/02/29に、合計10件のイヤホンの意匠を出しました。
拡大してみると、こんな感じになります。
赤色で着色されている部分や点線の部分などは、権利主張しない部分です。
耳の前面側に当たる部分を先端部、耳の背面側に当たる部分を末端部、これら先端部と末端部をつなげる部分を連結部としましょう。
これから、10件の意匠を詳しくみてみましょう。
1と2をみると、権利主張しない先端部と末端部がかなり違う構造になっていて、しかも、権利主張する連結部の断面も円形と角形で結構違います。
ここで、ソニーさんが主張したいのは、
連結部で、こんな風に設計変更して逃げようとしても駄目だよ。
でしょう。
次に、3,4,5,7の意匠の違いをみましょう。
ここでも、権利主張しない末端部の構造が結構違います。
また、権利主張する先端部と連結部の繋がりの部分も微妙に違います。
ここで、ソニーさんが主張したいのは、
末端部で、こんな風に設計変更して逃げようとしても駄目だよ。
でしょう。
以上は部分意匠の話で、今度、全体意匠をみましょう。
これらは、異る表現方法で表しています。
連結部の構造も微妙に違います。
また、6,7,10の意匠のように、
同じ設計図を使いながら、全体意匠、部分意匠1(連結部のみ)、部分意匠2(連結部+先端部)とに分けて、3件も出しました。
これらの10個の意匠は、市販される2年前に既に作った弾であり(市販は2018年6月、意匠出願は2016年2月)、公開されたタイミングは、市販の1年後(2019年9月)になっています。
よく見るとわかりますが、
ソニーさんが出した知財は、実際に作った商品とは全然違います。
ただし、誰かがソニーさんのこのイヤホンをみて、頑張って回避しながら真似して作ったとしても、これら10件の意匠のとちらかに抵触することになります。
先端部も、末端部も、連結部も、いろんなバリエーションを用意し、これらの設計変更は全部権利範囲内になっているからです。
このように他人を嫌がらせる弾を作ることで、
誰かが、先端部、連結部、末端部を繋げて耳をふさがない構造で耳を挟むようなイヤホンを、ソニーさんのイヤホンとは細部では違うように作ったとしても、かなりの確率でソニーさんの知財に抵触することになるでしょう。
この事例のように、
自分が作った商品をそのまま開示する知財の取り方ではなく、
自分が作った商品を真似してくる誰かを嫌がらせる知財の取り方をすべきです。
プロフィール
TRY㈱、LTASS㈱の代表取締役。twitter: @TokyoTigerAniki
東北大学(CNIHA)工学部、東京理科大MIP卒。2007年来日、東京の特許調査会社と特許事務所を経て2014年に起業。知財重視型経営をされている経営者を支援。
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