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TIFF3日目・上映作品リポート/小津安二郎特集『父ありき 4Kデジタル修復版』

皆さんこんにちは!学生応援団のわくとです。

10/25(水)で3日目を迎えた東京国際映画祭。
銀座・丸の内・日比谷・有楽町エリアは多くの映画ファンで賑わっており、映画祭らしい、華やかな雰囲気が流れていました。

3日目も数多くの作品が上映されましたが、中でも、角川シネマ有楽町で行われた小津安二郎監督の『父ありき 4Kデジタル修復版』の上映についてリポートしていきます。

実はこの『父ありき 4Kデジタル修復版』という作品は、多くの困難に直面しながらも、偶然が重なったことで完成した、「奇跡の作品」なのです。

では、何が「奇跡の作品」なのでしょうか?以下の順番で解説していこうと思います。


そもそも小津安二郎監督とは?

『父ありき 4Kデジタル修復版』上映までの経緯をお伝えする前に、まずは小津安二郎監督について簡単に紹介します。
小津安二郎監督は、1930年代〜1960年代に活躍した日本の映画監督で、『東京物語』(1953年)や『晩春』(1949年)などの優れた作品を数多く残しました。
1963年に60歳で亡くなりますが、没後に海外での評価が高まり、ジム・ジャームッシュや、今年のTIFFの審査委員長を務めるヴィム・ベンダースなど、世界中の名だたる監督たちに多大な影響を及ぼしました。

今年の東京国際映画祭では、小津監督の生誕120年を記念して、大規模な特集上映が行われています。

その特集上映のひとつに、今回紹介する『父ありき 4Kデジタル修復版』があります。

では、この作品はなぜ「奇跡の作品」なのでしょうか?詳しく解説していきます。

『父ありき 4Kデジタル修復版』完成までの経緯

まずオリジナル版である『父ありき』は1942年に公開され、太平洋戦争下に制作された唯一の小津作品でした。

小津安二郎生誕120年記念企画 “SHOULDERS OF GIANTS”小津安二郎生誕120年特集上映 父ありき 4Kデジタル修復版 ©1942/2023松竹株式会社

しかし戦後になると、GHQの検閲により、作品中の戦争に関する場面が削除されます。
その結果、オリジナル版のフィルムは損なわれ、長い間、映像や音が不完全なままのフィルムが流通していました。
しかし1990年代に、これまで観られなかった場面を含んだ別版のフィルムがソ連で見つかるという偶然が起こり、1999年に、日本のフィルムセンターにようやく里帰りを果たしました。

そして2023年に松竹株式会社と国立映画アーカイブ共同による復元作業が行われ、オリジナルに最も近いデジタル復元版がやっと完成したのです。

このような紆余曲折を経て、今年の東京国際映画祭の3日目に『父ありき 4Kデジタル復元版』の日本初上映が行われる運びとなりました。

『父ありき 4Kデジタル修復版』上映回の様子

ということで、実際に『父ありき 4Kデジタル修復版』の上映に行ってきました!

この記念すべき上映回には多くの小津ファンが訪れており、上映を今か今かと待ち望んでいました。

そして、ようやく『父ありき 4Kデジタル修復版』の上映が始まりました。

あらすじは、妻に先立たれた父親が、一人息子を立派に育てるために、息子と離れて働くようになるが、息子は父と二人で暮らすことを望んでおり…というお話です。

オープニングの音楽が流れ始めた瞬間、私は映画館でこの作品を鑑賞出来たことに感動し、涙が溢れました。

そして、小津作品の常連である笠智衆演じる父親の、息子を立派に育てる責務を果たすために、懸命に働く姿には、自分の父親や、祖父の姿を思わず重ねてしまいました。

父と息子という普遍的な関係性を描きながらも、その関係性は、戦時中という時代背景からも大きな影響を受けていて、二人が一緒に暮らせた時間は、息子が徴兵される直前の僅か数日だけだったことに、やるせなさを感じました。

そしてラストシーンには、これまでのフィルムでは聴くことのできなかった音楽が流れ、またもや泣いてしまいました。

上映が終わると、会場は大きな拍手に包まれ、誰もが、この作品の余韻に浸っているように感じました。

上映後のトークショーの様子

上映後には、今回の作品の復元作業を行なった国立映画アーカイブの大澤浄さんと、東京国際映画祭のプログラミングディレクターである市山尚三さんがご登壇され、完成に至るまでの経緯などを解説してくださいました。
復元作業では、音や映像のノイズを消して、最新作に近づけるのではなく、1942年の公開当時の状態に近づけることを意識し、当時の観客の体験を、今の観客にも追体験してもらうことを重視したそうです。

このお話を聞いて、公開当時の雰囲気を想像しながら昔の映画を観ることで、新たな楽しみ方ができるのだなと思いました。

その他にも、本作における小津監督の従軍体験からの影響も明かし、専門家ならではの視点でのお話をたくさんお聞きすることができました。

左:市山尚三さん、右:大澤浄さん

最後に

大量の作品が日々供給され続ける今の時代に、昔の映画を観る機会は中々少ないと思います。しかし、今回紹介した『父ありき 4Kデジタル修復版』のような、様々な困難を乗り越えながらも、今の時代に受け継がれてきた作品には、どの時代でも、どんな場所でも色褪せることのない、普遍的な魅力があります。
そのため、我々のような学生でも、作品の魅力を感じることができると思います。

ということで、東京国際映画祭での小津安二郎監督の特集上映は、11/1(水)まで毎日行われています。
どの作品からでも構いません。
ぜひこの機会に東京国際映画祭に足を運び、小津作品をご覧になっていただければと思います!

最後までお読みいただきありがとうございました。




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