名前

名前は生きている、と思う。
ただの文字・音の羅列なのだけど、それは他のどんな言葉とも違う生き物だ。
私は私の、あなたはあなたの、それぞれ名前を飼っているのだ。


新学期、新しいクラスメイトの前で初めて呼ばれる名前はパリッと洗い立てのシャツのように緊張しているが、
気心の知れた友達が呼ぶあだ名には素朴な親しみを感じる。

苦手な上司から注意を受けるときの名指しには参ったなあと気落ちするし、
気になる人から不意に名前で呼び止められたら、それは恋の始まりかもしれない。


自分の名前は生き物であるから、愛情を持って少しずつ手塩にかけて育ててやらないと、しなやかな芯は育たない。

他人の名前は生き物であるから、呼びかければそれがどんな時でも、たとえ瀕死の間際でも、反応することを忘れずにいておきたい。
あなたの呼びかけが、いつかどこかの誰かを救う。逆もまた然りだ。


音と、文字と、それからたっぷりの時間と愛情をかけて編み込まれた名前は
簡単には折れない。
それでも細心の注意をはらって、素知らぬ顔でうっかり傷つけられぬよう、大切に抱えて活かしてやることだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?