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【読書メモ】貞観政要

ビジネスモデルや技術が変化しても、仕事というものが人と人との関係性の上に存在する限り、人間の心情の機微をつかむことや集団においての組織力学を理解することはいつの時代も重要なテーマとなります。古典を学ぶことで、人間社会に横たわる普遍的な真理をつかみ応用することで、自身のビジネスの成功確率を上げることができるのではないでしょうか。そうした前提に立ちつつ、今回は中国古典「貞観政要(じょうがんせいよう)」を取り上げてみたいと思います。

「貞観政要」が書かれた時代背景

「貞観政要」は7世紀中国”唐”の時代に記された書物です。当時、平安時代であった日本も遣唐使という使節団を派遣して、その文化や技術を学ぶほどに中国の歴史の中でも一二を争うほど興隆を誇った時代である”唐”。そして、300年続いた唐王朝の中でも、とりわけよく治世され平和な時代を築いた第二代皇帝 太宗(たいそう)という人物がいるのですが、その皇帝と臣下たちとのやりとりを描き、治世の要諦を後世へ伝えるために編まれたのがこの「貞観政要」という書です。

この書は理想的な政治・統治の教科書として中国でも強い影響力を持ったのはもちろん、日本のリーダー達にも大きな影響を与えました。愛読していたと伝えられる人物としては、鎌倉幕府の基礎を築いた尼将軍 北条政子、江戸幕府の開祖 徳川家康などそうそうたる顔が並びます。そうした事実は、指導者の立場にあるものが知っておくべき内容を「貞観政要」が備えているという証明に他ならないでしょう。

「貞観政要」にみる君主と家臣のコミュニケーション

貞観政要では、リーダーとしての心構えについて、人材配置について、後継者育成についてなど、現代にも通じるリーダー論が幅広く述べられていますが、今回の投稿では書中で述べらている『君主と家臣のコミュニケーション』についてスポットを当てたいと思います。

貞観政要では「諫争(かんそう)」すなわち「たとえ角が立ったとしても目上の人間に対して不正を正すべく進言する」ということが重要なテーマとして扱われています。古代中国においては、君主を諌めることを職務とする諫議大夫(かんぎたいふ)という役職がありました。諌言をする者を左遷、ひどい時には殺してしまう皇帝が歴史上多い中、貞観政要では、君主の誤った考えや行動を命がけでたしなめる臣下や、その行動に対して怒るどころか褒賞を与える皇帝 太宗の姿が描かれます。『権力は腐敗しやすい』ということを太宗は肝に銘じていたからこそ、臣下の言葉を広く受け入れる寛大な態度を取ることができたのかもしれません。

現代にも通じるエッセンス

今の時代においては、経営者や管理職、もしくは明確な役職はなくともプロジェクトリーダーなど、誰しもが何らかの権威性を持ってリーダーシップを発揮する場面は多くなっているのではないでしょうか。その時に、いかにして貞観政要で語られる太宗と家臣のような関係性を築けるか。いいかえれば、組織が間違った方向に進みそうなときに、方針を修正するための自浄作用を持つことができるかは、現代を生きる我々にとっても重要な課題となりえます。

もしくは、自身が下の立場として、上の立場の人間に対して直言をすべき状況となることもあるでしょう。そうした時には、むしろ身命を賭して主君を諌めた臣下の考え方や振る舞いが参考になるかもしれません。

古典の内容をどう応用をしていくか

古典を読む上で大切なことは、書かれていることを額面通りに受け取るのではなく、エッセンスを抽出して自分なりに内容を反芻して応用を利かせることです。貞観政要を下敷きにして、上下の立場でのコミュニケーションに対して考えを深めるのであれば、「諌言 = フィードバック」と読み替えて、以下のような問いを立てられるかもしれません。

リーダーの立場にある人は
・権力を得た場合どういった心構えを持つべきか
・メンバーの誰から、いつ、どんな内容に対して、どのようにフィードバックを受けるべきなのか
・自浄作用を保つ組織の仕組みはどのように作るべきか
・そもそも、組織の成果を最大化するために、本当に率直なフィードバックは必要なのか
メンバーの立場にある人は
・リーダーとメンバーの関係性をどう定義するのか
・リーダーに対して、いつ、どんな内容に対して、どのようにフィードバックをするべきなのか
・リーダーとの関係性構築はどのようにするべきなのか

おわりに

組織におけるコミュニケーションは一概に正解というものはなく、構成員や組織を取り巻く環境状況に応じて千差万別の対応策が考えられるでしょう。しかしながら、各々のケースに違いがあると同時に、類似性もまたあるでしょう。ぜひ、今回の「貞観政要」についての投稿を読んで、上記にまつわる皆さんの個人的な体験や考えをコメントで書き込んでいただけると幸いです。

参考書籍:


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