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【映画備忘録】『マスター先生が来る!』(2021)

大学教授のJDは、学校からは煙たがられているが、生徒からは大人気。型破りで腕っぷしの強い伊達男JDの、次の赴任地は少年院!

※この先はネタバレなのでご注意。

"暴力の最初のひきがねは感情だ。その後は……おれは確信を持っているけれど、依存だよ"

JDの説教シーンがぐっとくる(映画館で一度観ただけなので、台詞は字幕の引用ではなく「こんなこといってたな?」という程度のものであることはご了承いただきたい。すみません)。暴力は依存だよ、アル中のおれだからこそ語れるんだ、と言ったあとJDは、だからこそ政治を変えなければならないと説く。

このくだりを観ていて、わたしは信田さよ子『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』や、村中直人『”叱る依存”が止まらない』のことを考えていた。
暴力は依存であり、その根っこは政治や社会の構造にある。DVも虐待には、なんらかの依存症が深くかかわっていることが多く、依存症にはまた別の虐待や、そして戦争が深くかかわっていることが多い。戦争のトラウマがアルコール依存症を引き起こし、アルコール依存症が暴力を引き起こす。暴力をふるうと、ドーパミンが出る。暴力をふるうと脳は快楽を覚える。だからおさまらない。繰り返す。依存行動とは生きるための癒しだ。ほかの方法では癒されないから、癒すために依存する。癒されたいからドラッグを使う。癒されたいからアルコールを飲む。どうしようもない痛みを癒やし生きるために人は依存する。
JDの過去が最後まで明かされないのも、考えてしまう。一体彼は何があって大学教授になったのか?なんでこんなに腕っぷしが強いのか? 過去を尋ねられるとすべて映画のストーリーから引用するJDの癖は、笑えるのだが哀しみに満ちている。だってたぶん、気楽に語れるような過去がないのだ。アルコール依存は、前半コメディ要素として扱われるが、中盤以降その扱いはすさまじく重い。
JDが少年達に投げかける言葉には、依存から暴力への連鎖に対する苦しみが切実に現れる。被害者としての少年たちが加害者になり、また新たな被害者を生み出すのを止めるにはどうしたらいいか? JDの答えは、子どもを人間として尊重し、自主性を重んじる教育である。政治は、教育を前提とした選挙でしか変えることができない。当たり前だけれど、教育は政治につながっている。JDは子どもたちにナイフを握らせない。(まぁ自分は鉄拳をふるうのだが)憎しみを広げるな、依存に支配されるな、というメッセージは徹底している。

依存と暴力の連鎖を感じさせる、もうひとつの大きな要素が、バワーニだ。冒頭で親を殺され虐げられたバワーニが、復讐のために力をつけ、暴力と恐怖で人を支配するようになっていくのを、観客は目の当たりにする。自分が浴びた理不尽に対する怒りと恐怖を抱えているからこそ、バワーニの暴力は苛烈で、容赦がない。だってそうしないと、生き延びた自分自身を否定することになりかねないからだ。自分が受けた仕打ちを再演して、生き延びた自分を癒やそうとしている、とも解釈できる。そしてバワーニもJDと同じく、政治にたどりつく。

この映画はエンタメで、アクションスリラーで、目には目を歯には歯を! で敵をボッコボコにするし、子どもの目の前で大人をブンブン叩いたりしているので「暴力はダメ」というメッセージにくるむなら「いいんか!?」と思うところはいっぱいある。ただ、ときどきズンと重い台詞が出てくるだけに、暴力への葛藤も伝わるし、観たあとに単なる快感以外のものが残る。
子どもたちに罪をかぶせてきたバワーニと正反対に、JDは最後ちゃんと刑務所に行く。かっこいいしいい奴だから無罪放免!じゃないから信頼できるし、納得感がある。

上田映劇応援上映!

上田映劇さんの応援上演で観たのだが、これは、これは……ほんっとうに楽しかった……!「先生がんばれー!」「大将〜!」「立ってー!」と叫んで応援できる。楽しい。えへへ。立ち会いが始まるシーンでタンバリンをゆっくりゆっくりシャンシャン鳴らしてくださる方がいて、臨場感がぐっとアップする。雰囲気が出て最高。
前説のおかげで、会場がチームになった感があり、ソロ初参加でも非常に楽しく叫びまくった。「タラパティ!」をベストなタイミングで叫べると、まじで気持ちがいいしストレスがとれる。肩こりもとれる。

その他覚え書き

  • ジョン・ウィック並の爽快アクション。先生がリズムよく、ばったばったと敵をのしていくから、Hoooo!って思わず声がでる(応援上映で助かった)。

  • なぁ先生、腕輪のメリケンサックはいいんですか……? いいか……

  • 酔拳ならぬ酔っ払いダンスが非常におしゃれ。お尻がかわいい。

  • なぁ、みんな、JDの肩に負わせすぎじゃないか? 責任が重いよ!


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