中欧をゆく 4
オーストリアの首都、ウィーン中心部はリンクと呼ばれる環状型の道に沿って自動車とトラムが走っている。
名門貴族、ハプスブルク家ゆかりの豪勢なバロック宮殿、そして並び立つ歴史主義建築の数々は「これぞ、ザ!ヨーロッパ!!どや!」という露骨な主張があって、だんだんと疲れてきたというのがこの街を訪れた正直な印象。
ではそんな僕がなぜわざわざこの場所に来たかったかというと、それはクリムトなどを代表とするセセッションと呼ばれる芸術を見たかったのと、オットー・ワーグナーという建築家が手掛けた有名な近代建築を見たかったから。
僕のウィーンという街に対する印象は良くない。人通りの多い駅ナカのカフェで食事をしていると現地の人にじろじろ見られたりと、どこにいってもどこか有色人種を異質なものとして扱っている感じがした。思い過ごしと思われるかもしれないが、ドイツとチェコでは一切そんな印象は受けなかった。むしろ今や多民族国家になったドイツの多様性を目の当たりにし、公共の場で人々が声を掛け合ったり助け合っている姿を見て僕は「これが先進国だ!」と感動さえしたのである。そこからのウィーンだった。おなじドイツ語圏でこうも違うのか?と愕然としたのは忘れない。
オーストリア全体がこういう国だとは思いたくないが、僕の人生でもう訪れることは無いだろう。第一印象というのは本当に大切なものなんだ、人も国も。
さて、カモの写真でも見て気を取り直そう。ミュージアム・クォーター内の池に佇むどこか凛々しいカモ。ここはクリムトやシーレの画を多数所蔵するレオポルド美術館が入っている複合文化施設。自然は動物は良い、どんな所にもいて人を癒してくれる。
さぁ、いよいよオットーワーグナーの建築紹介だ。
今回訪れた郵便貯金局は、ガイドブックにも載っているような観光地の一つではあるけど、見どころがまとまっているウィーンの市街地の中では少し離れた所にある。
ウィーン郵便貯金局 1912年
「実用的でないものは美しくない」、オットー・ワーグナーのポリシーを体現する機能主義的建築としてヨーロッパ近代を代表する傑作だ。
建築技術としてコンクリートが主流になってきた時代、この建築は意匠として1.2階は花崗岩を、3階以上は白大理石を張り付けている。
すべてのデザインが絶妙なバランスで、遠目から見ても近くに寄ってもどこか心地よさがある。
正面まで迫れば統一感のある金属のパーツが、そのバランスの秘密だと分かった。上部の壁面にはアルミ製のボルトが打ち付けられたようなデザインになっている。甲鉄で武装したような外観をつくることで、金庫のような重厚感を演出したんだそうだ。
ここにも彼の実用と美しさの一致を目指した機能主義的な考え方を見ることができる。
上部には植物や翼を広げた女性像
ウィーン版アール・ヌーヴォー、セセッションの様式が使われている
そしていよいよ内部へ
天井部の曲線がおもしろい。雪だるま?に見えるのは自分だけか?
あれだけ重厚な外観からは想像できないような白とガラスを基調とした繊細なつくりをした内部空間。このギャップもまたたまらない。
時計やカレンダーの字体も統一されてかっこよかった。
緑があって温室のようにも見える。全面ガラス張りの天井のため、内部はとても明るかった。均一に並び立つシルバーのヒーターまで、何から何までかっこいい。
近代建築の金字塔、ここウィーン郵便貯金局に来れただけで目的の半分は果たしたかな。
これにてウィーン編はおしまい。しかし光も影も垣間見てこその旅だよなといつも感じる。ウィーンは世界で住みやすい街No.1にも選ばれたそうだけど、それってそもそも誰にとって住みやすい街ですか?と問うべきだ。そうやって物事を相対化して考える事ができるようになるのもまた旅の持つ力だろう。
最期に一枚、セセッション会館の正面の写真を。植木鉢の下にかわいらしい亀がいた。ミヒャエルエンデのモモに登場する亀、カシオペイヤは君かい?
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