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オカマのインストラクター

LGBTという言葉がまだ世の中になかった頃、マッチョなエアロビクスのインストラクターが、いつのまにか女性に変身していったという、ホントの話。

 ボクは、もうかれこれ15年ほどスポーツジムに通っている。週に1回だけなのだが、非常事態宣言でジムが休業だったとき以外はまったく休まず、3~4Km程度のランニングと筋トレをひたすら続けてきた。エライでしょ。ま~しかしその実態は、情けないことに腰痛をなんとかしようと始めただけなのだ。それでも腹筋と背筋、三角筋などを鍛えたおかげで、すっかり腰痛の方は治まったのだ。
 ついでに女子にモテようという健全なスケベ心から、胸筋も筋トレした結果、ワイシャツを着ていても目立つ分厚い胸板までゲットできたのだった。もっとも、ウエストサイズよりバストサイズの方が上回っているからといって、女子にモテるとは限らないのだがね。

 で、エアロビなのだが、別にボクはエアロビをやっているわけではない。多数の女性が、スタジオでエアロビックダンスに汗を流しているのを眺めながら、真面目にランニングしているだけだ。
 言い訳するわけではないが、ランニングする時間をエアロビに合わせているのでは決してない。なぜならエアロビのインストラクターは、レオタード姿のピチピチ女性ではなく、筋骨たくましいデカイ男で、生徒たちはどう贔屓目にみても還暦をとうに超えたオバサマばかりだからだ。マッタク困ったもんだ、ブツブツ・・・。

 もっともボクは、毎週同じ時間帯にスポーツジムに行ってはいなかったので、エアロビ・インストラクターが少しづつ変身していることに気が付かなかった。何年前からそのインストラクターが、このジムの担当になったのかもまったく覚えていない。若くて美人先生だったら確実に覚えるはずなのだが、男だったので気にも留めていなかったのだろうな。

 クリスマスの時期だったか、そのインストラクターがサンタっぽいミニスカのコスプレで、しかも黄色い裏声なんぞを張上げながら踊っていた。このジムはイベントを時々やるし、いつもノリノリではしゃいでるインストラクターなので、それほど違和感はなかった。

 ところが翌年になってからも、ドハデなコスチュームを着て、裏声のまま踊っていた。髪もいつのまにか茶髪のロングになっていき、明らかにオカマっぽくなっていったのだ。そのころになって、ボクも違和感を覚えてきたので、インストラクターの名前を確認したのだが、XX男みたいな明らかに男性名だった。

 生徒のオバサマたちはレッスン終了後、そのインストラクターの体のアチコチを触りながら、いつもからかっていた。それが初夏の頃だったか、コスチュームがフリフリスカート、ウエイブをかけた茶髪のロングに、化粧もバッチリキメ、見た目完全なる女性に変身していたのだ。まるで芋虫から美しいアゲハ蝶にメタモルフォーシスするように。
 上背はかなりあるのだが、もともと優男風だったので、化粧の効果は絶大で、アダルトでシックな女性に変貌している。
 スタジオにその姿で登場すると、女性達はキャーキャーと騒ぎ、チョイとした芸能人扱い。レッスン終了後にはオバサマたちに囲まれ、胸とか股間とか触られて嬉しそうだった。あちこちで根掘り葉掘りの質問攻めにあっており、漏れ聞こえる話だと、今度タイに行って手術するだのなんだの・・・。

 その後しばらく経ってから、レッスンに出勤してくる姿を見掛けたのだが、ハイヒールを履いてロングスカートにブラウスと、完璧なるアダルト女性として、胸を張り颯爽と闊歩していた。

 しかし凄いですな、その勇気。職場を変えて、そこから変身したら、恐らく誰も気がつかなかったかもしれないのに、少しづつ変身していく姿を、公衆というか大勢の生徒たちの面前にさらしたのだから。
 直接話したことはないので、性転換の手術までする理由をボクは知らない。たんなる趣味なのか、性同一性障害なのかは分からないのだが、エアロビのインストラクターという人前に体をさらけ出す職業にも関わらず、オカマになってしまうその心意気に、ボクはイタク感心したのであった。それに、その姿を温かく見守るみんなにもね。しかし世の中も変わったもんだな・・・

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