君とバスケと恋と vol.2「気乗り」
堀川先輩は寮生だ。
学校の敷地内にある男子寮に住んでいる。
これを知ったのも、もちろん付き合い始めてから。
いつも寮の時間ギリギリまでバスケをして帰るので、私の帰りはいつも一人だ。
部活中に特に会話するわけでもない。
付き合い始めてからと付き合う前とになにも変化はない。
ただ、ちょっとメールをするくらい。
電話もしない。
メールと言ってもラブラブなメールでもなく、ただ淡々と朝の挨拶と帰宅したメールくらい。
私も特に彼を好きなわけでもなかったので、気にもしなかった。
初めての週末は部活だったので、いつものごとく、部活をボーッと眺めていただけ。
特になにも変わらない。
部活が終わっても特に誘われるわけでもなかったので、私はそのまま帰宅した。
二回目の週末も部活だった。
この日は少しだけ会話することに成功する。
でもその内容はとてもお粗末なもので、
『お前、バスケ好きだよな』
『はい、まあまあですね』
これだけだった。
あとの会話が続かない。
仕方ないかぁ、とため息をつく。
学校はまあまあ楽しかった。
ただ、一年の頃に仲良しだったメンツはみんな私立文系コースにいってしまって、国立理系コースの私はクラスでなんとなく浮いていた。
それでも話すクラスメイトはいるし、休み時間は私立文系コースに遊びに行っていたから、さほど苦にはならなかった。
うちの学校は、理数科と普通科に分かれていて、さらに普通科は国立理系コース、私立理系コース、国立文系コース、私立文系コースの4つに分かれている5クラス編成だった。
薬学部を目指す私は、国立理系コースに入っていた。
堀川先輩も、同じ様に薬学部を目指していたので、国立理系コースに入っていた。
その辺は話が合ったからよかった。
毎日部活をボーッと眺める日々が続く。
堀川先輩もいつものごとく、文句…いや、指導をしながら部活を進める。
私の目に入るのは、告白失敗した先輩。
どうやら石原先輩というらしい。
どうして半年もの間名前を勘違いしていたのかわからない。
考えたって仕方がない。
もうわたしは堀川先輩の彼女なんだから。
その日はたまたま部活が休みで、課外もなく、駅まで歩き通学の私は傘をさして歩きだした。
すると、呼び止められた。
『りさちゃん、送っていくよ』
堀川先輩だった。
この日は珍しく三年生も課外がなく、早く終わった先輩は私を見かけて声をかけてきたのだ。
『俺のどこが好きなん?』
と聞かれ、言葉に詰まる。
えーと、えーと、好きなのは…。
『バスケしてる姿かな』
『へぇ、じゃあ俺、もっと頑張るわ』
駅までの道のりを二人で歩く。
傘は別々。
『りさちゃんは、薬学部目指してるんだよね?』
『先輩も薬学部ですよね?』
『あー、うん。あー、先輩、だと付き合ってるのにおかしくね?』
『そうですか?』
私は淡々と返事をする。
『俺の下の名前、知ってる?』
『いえ、知りませんけど。』
『明広って言うんだよ。明るいに広い、で明広。』
『そうですか』
『りさちゃん、クールだね。…俺のこと、名前で呼んでいいから』
『明広先輩…ですか?』
『明広、でいいよ』
『いきなり呼び捨てはちょっと…。』
『そのうち慣れるって』
明広は明るく笑った。
学校から駅までは歩いて10分程度。
私は駅につくと明広にバイバイと言い、駅の構内へ入っていった。
多分、相当冷たく見えたに違いない。
その日帰ってからのメールは、今までと違って少しだけフランクなものだった。
『りさ、って呼んでもいい?』
先輩は付き合う気満々だ。
私はまだ気乗りしないまま、
『どうぞ』
と返事を返した。
まだなんとなく気乗りがしない。
他の先輩に憧れていて、突然別の彼氏ができても、そりゃあ気乗りしないのは当然と言ったところ。
私はため息をつきながら、眠りについた。
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