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君とバスケと恋と vol.12「嫉妬」

よくない噂を聞いた。

よくないと言ってもよくなくないかもしれない。

それは夏休みがあけるころのことだった。

『りさってさぁ、堀川先輩と付き合ってるんだよね?』

クラスメイトの何気ない会話でそれを聞いた。

『堀川先輩って、千歳の元カレなんだよね…。』

私は唾をごくりと飲んだ。

『なんか自然消滅みたいな感じだったけど、最後の方で先輩から猛烈アタックがあったらしいんだよね…。』

『そ、そうなんだ』

『夏休みに入ってからも会ったりしてたらしいんだ…。』

それだけで私の導火線に火をつけるのには充分だった。

千歳というのは、クラスメイトで、線が細い華奢な子だ。

男子連からも一目置かれている存在。

頭もいいし、おっとりしていて、女子からの支持も高い。

次の休み時間、私は明広の教室へ走る。

『千歳ちゃんとつきあってたのって本当なの?』

明広は呆れたかおをして、無言でだまっていた。

『夏休みも会ってたって!本当なの?!』

『会うのは…。会ったよ』

『どうして黙ってたの?!私のことなんてどうでもいいの?ひどいよ…。』

私は堪えきれず声をあげて泣き始めた。

明広のクラスメイトが見に来る。

でも、恥ずかしさよりも悔しさが圧倒的に多かった。

休み時間終了の鐘がなる。

私は泣いたまま教室へと戻った。

誰も心配してくれる人はいない。

クラスに友達はいない。

私は泣きはらした目のまま課外を受けた。

休み時間には明広のところに行かなかった。私立文系コースと理数科に居座った。

クラスメイトの話では、二回ほど明広は教室にやって来たが、それ以降はこなかったらしい。

もう、知らない。

私はふと、プールのジンクスを思い出していた。

プールに行くと別れる…。

なにが『俺たちが、『別れない』ってジンクスにしよう』よ。

思い切り私を裏切ったくせに。

その日からバスケを見に行くのをやめた。

園田くんから、

『また喧嘩でもした?』

と聞かれたが、別に。とだけ答えた。

私はその時気づいていなかったのだ。

その感情は嫉妬。

私は千歳がうらやましかったのだ。

朝晩のメールも無視した。

言い訳なんて、みたくもなかったから、読まずに消した。

当の千歳はというと、普段通り、女子数名と雑誌を見ながら語り合っていた。

私はそれを横目で見ながら虚しい日々を過ごした。

憎らしい、うらやましい。嫉妬や嫉みが身体中を駆け巡り、自分はなんて嫌なやつなんだろうと自己嫌悪する。

このままじゃいられない。

私は非常口へ登る階段へ千歳を呼び出した。

何も不審がることもなくついてくる千歳。

『実は堀川先輩のことなんだけど』

『堀川先輩の?』

千歳はきょとんとした顔で聞き返した。

『夏休みに会ったって本当?』

『うん、会ったよ。昔借りてた赤本をかえしたの』

『それだけ?』

『うん、それだけ』

『昔付き合ってたのって、本当?』

とたんに千歳は笑い出した。

『付き合ってないよ。私が先輩に本を借りたりしてたのを勘違いしていた人は一部いるみたいだけど。』

『そ、そうなの?』

『うん。りさちゃんは、今先輩と付き合ってるんだよね?』

『うん…。』

『だったら、過去になんて縛られないで。今の先輩を信じてあげなきゃ』

この人が、なぜ人気があるのか、わかった気がした。

次の休み時間は、久しぶりに明広の教室に行った。

あんなに声を出して泣いたから、とても恥ずかしかったけど、明広が教室を出てくるのを待った。

約一週間ぶりにあう、この人を見て、やっぱり私はこの人のことが好きなんだと自覚した。

石原先輩なんて、かすんじゃうくらい、明広が好きだ。

いつの間に…。

気づかなかった。

でも、この人を好きだと、強く思った。

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