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君とバスケと恋と vol.15「アルバイト」

幸せもつかの間、またもや私に大問題が降りかかる。

薬学部を目指していた明広が、突如、美大へ行きたいと言い出したのだ。

きっかけは些細なことに違いないけど、薬学部から美大なんて聞いたことがない。

美大を受けるには、きちんとしたレッスンを受ける必要がある。

私は反対した。無謀だと思ったこともあるが、なにより明広と一緒にいたかったから。

家の人も反対だったらしい。

明広の家の人は、両親共に医者、お兄さんも医者、お姉さんは薬剤師という家庭だったから、余計に反対されたらしい。

しかし、周りの反対を押しきって、明広は地元に帰って画廊で勉強することになった。

明広に裏切られた気がした。

同じ学校に行こうねと、あんなに約束したのに…。

私は一人でいじけていた。

でも、いじけたって、明広が決めてしまったことを覆すことはできない。

地元に帰ってしまうとそうそう会えることはない。

会いに行くにもお金がいる…。

私はアルバイトをすることにした。

明広に会いに行くお金を作るためだ。

携帯代だって、今までよりもかかるだろう。

そう思っての決断だ。

家の近所のモールの食堂がちょうど募集していたので、そこを受けることにした。

モールでの面接は簡単なもので、こんなに簡単な面接なら、きっと受かっていないだろうなと思った。

が、受かってしまった。

ちなみに親友の愛も受かってしまった。

受かったからには頑張ろうと思い、愛と喜んだ。

明広にも言ったが、自分のことで手一杯で、きいているんだかいないんだかだった。

バイトは週四回、課外が終わって夜の部と、週末に二回だ。

初日は緊張して、覚えることも多く、頭が回らなかった。

愛とは違う部署に配属になった。

二日目になんとかレジ打ちを覚えた。一つ覚えることができると、自信になったらしく、次から次へと覚えていける。

覚えるのが楽しくなってくる。

週末は早番と遅番に分かれていて、主に遅番だが、最初は早番の先輩おばちゃんと一緒に入り、準備を覚えた。

ちょっと自分が偉くなった気持ちがしてしまう。

二週間経つとずいぶん慣れたもので、お店に一人で立つことも増えてきた。

嬉しいことだらけだ。

明広がいなくなって、三週間が経っていた。

明広に電話でそのことを報告する。

『へぇ』とか『ふーん』しか言わない明広に不満を持つようになるまで、そう時間はかからなかった。

『いつも電話しても、へぇとか、ふーんとかばっかりで、他に言うことはないの?!』

『だって、知らない世界だから…。』

明広の言うことはもっともだ。

だけど、私はもっと積極的にいろいろ聞いてほしい。

結局今日も喧嘩電話になっちゃった…。

自己嫌悪。

明広が悪い訳じゃない、どちらかと言うと私のほうが悪い。

それはわかっているけど、うまく素直になれない。

精一杯の言葉で伝える。

『私も頑張ってるから、明広にも頑張って欲しい。そして、もっともっと話を聞いて欲しいよ…。』

泣き出してしまいそうだった。

でも、泣かない。

明広が向こうに行くときに、そう、決めたから。

『早くお金貯めて会いに行くからね』

それだけを目標に頑張れる。

いつの間にかこんなに好きになってる。

そんな自分に気づかない私。

不器用だった。

明広からは毎週手紙が届いた。

メールで普通にやり取りしているけど、手紙をもらうのはとても嬉しい。

心がこもった手紙。

私は大事に机にしまいこんだ。

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