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君とバスケと恋と vol.8「喧嘩」

怒られている中心の三人がそんな風に受け取っているとは思わなかった…。


これは、やっぱり私が悪い?

でも、どこから見ても愚痴でしかないと思ってたけど…。


次の日も、その次の日も、明広は無言で練習に参加した。


『まだ仲直りしてないんすか?』

と林が聞いてくる。

『うーん、だって私は間違ったことは言ってないと思うし…。』

『そうかもしれないすけど、早めに仲直りしてくださいよ』

『えっ?』

『堀川先輩、部活中めちゃくちゃ元気ないんすよ…。』

『私からはそうは見えなかったけど?』

『いや、いつもの先輩らしくないんす』


それから3日間も、口もきかず、目も合わせない日々が続いた。

もちろん、メールもない。


さすがの私も、これはこのまま自然消滅かな…なんて考えた。



『私、間違えてたかな…?』

部室で園田くんに相談する。

『いや、間違ってはいないと思うよ。確かに、先輩はちょっと、なんていうかな…。口が悪い感じがするしね。』

『私の目には、文句言ってるようにしか見えなかったんだよね…。』

『普通に考えたら、そう思うと思うよ。俺らだって、最初はいい気持ちしなかったもん』

『だよね…。』


こうなったら、私が折れるしかないのか。

喧嘩してもう一週間が経つ。

未だに何も言ってこない明広。

相当怒っているに違いない。



変化は一週間と一日後に訪れた。

久しぶりにコートで明広が声を出したのだ。

それも、優しい言い方で。

いつもなら、

『林、なんだお前のそのシュートは!真面目にやってんのか?真面目にやらないならコートからでていけ』

だったのが、

『林、今のシュートのタイミングは、こう、だ。やってみろ』

明らかに言葉の強さが違う。


そして、私に

『今日は帰り、駅まで送っていく』

と言う。


私は別れ話か、と思う。

思ってみれば、2ヶ月とちょい、短かったなあ、と。


結局、好きになりそうでならなかったんだよね…。

喧嘩別れか、嫌なもんだな…。

私はそう感じた。



帰り道、寮の裏で明広を待つ。

別れ話か、と思うと気が重たかった。

『待たせたな』

明広が自転車を押しながらでてきた。

『今日は歩こうぜ』

と言って率先して歩き出す。

学校の横にある大学の薬学部の入り口にさしかかった時に、明広が言った。

『ごめん』

『え?』

『俺はよかれと思って注意してたんだけど、言い方が悪かったって気づかされた。』

『ううん、私も表面だけしか見ずにあんなひどい言い方をして…。ごめんなさい』


『俺はバスケが好きなんだ。だから、みんなにも好きになってほしくて、アドバイスしていたつもりが、いつの間にか注意しかできなくなってた。そんな俺に気づくこともできなかった』

『ううん、明広くんがバスケ大好きなのは、みんなわかってくれてるよ。今回のことだって、みんなは気にしてないって言ってくれてた。』

『そうか、俺はいい後輩をもったな…。』


そこで駅についた。

『お前、こんな俺のこと嫌いになったよな…。』

『正直に言うと、ちょっとさめた。けど、嫌いにはなってないよ。』

『お前に好かれるには、俺はどうしたらいい?』

『そのままで、いいよ』

『え?』

『そのままいいよ。また一から好きになり直すから』

『一からって、長げーな…。』

そう言って明広は笑った。


私、この笑顔が好きだ。


私はだんだんこの人を好きになってきている。

その自覚はあった。

間違いだらけで始まった恋だけど、今は違う。


この人の、素直なところも好き。

この人の笑顔が好き。

この人の明るいところが好き。


なーんだ、一杯好きなとこあるじゃん。

そう気づかされた。

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