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【小説】バージンロード vol.16「レン」

レンの式場動画カメラマンの仕事は、思っていたよりも忙しいものだった。

毎日仕事を持ち帰っては頭を抱えていた。


私は、

「もっと気楽にやればいいのに」

と言ったが、

「その人の一生に一度の記念なんだから手抜きはできない」

そう答えた。


それでもレンは、私のために時間を割くことを忘れずにしてくれた。

毎晩のようにドライブへ行った。

私はこの、ドライブの時間が一番幸せな時間だ。

ドライブ中はレンも上機嫌なことが多く、おしゃべりもはずんだ。

だいたい毎日、一時間ほどドライブした。



ところが、ある日、些細なことで喧嘩になってしまった。

洋服を脱ぎ捨てたままにしない、というのが発端だった。

わたしはかなりずぼらで、服をきて、次の日もまたそれを着ようと思った日は、それをそのまま脱ぎ捨てて片付けない癖があった。

普段は整理整頓だの、ぎゃーぎゃーレンには言うのに、この癖だけは直らなかったのだ。

レンは最初は普通に注意してきた。

「洋服ぬぎっぱなしだよ」

「あー、うん、明日も着るから」

「ちゃんとどけときなね」

「はいはい」

けれど私は服を片付けなかった。

「服!片付けなね」

「あー、うん、後でね」

そしてそのまま服のことなんて忘れ去っていたのだ。

「あー!イライラする!」

と、またレンのイライラが始まった。

私は服のことなんて忘れ去っていたので、レンが何にイライラしているのかわかっていなかった。

またいつものことでしょ、くらいにしか思っていなかったのだ。

「何イライラしてんの?大丈夫?」

「何ってあなたがイライラさせてるんでしょう?」

でた、怒るとレンは私のことを「あなた」と呼ぶ。

この時点ですでにお怒りモードだったのである。

「あなたがって、どうしていつもそうやって突っかかってくるわけ?」

私もカチンときて言い返す。

「あなたがちゃんとしないからでしょ?」

「じゃあ自分はいつもちゃんとしてるって言うの?!」

だんだんエスカレートしていく。

「あー、もう、わからずや!」

「何を!いつもイライラしっぱなしのくせに!」

レンは物に八つ当たりを始める。

今日は出したばかりのストーブを蹴る。

いつものことながらびびる私。

そんな私を見て更にエスカレートするレン。


そんなときだった。

レンが棚から箱を取り出して、中身をベランダから下へむけて投げつけた。

箱と投げる瞬間を見て、私にはなにを投げたかわかってしまった。

指輪だ。

レンが投げ捨てたのは、指輪だ。


「わかったから、いい加減もうやめて!!」

私が精一杯止めると、レンは

「勝手にしろ!」

と言い捨てて、一人車でどこかへ行ってしまった。



私は懐中電灯をもとに、指輪を探し始めた。

結構な勢いで投げていたから、前のアパートまで飛んでいるかもしれない。

地道に探す私。

側溝などはないから、どこかへ落ちてしまうということはないはず。

私は地面に這いつくばって懐中電灯で照らす。


一時間くらい経っただろうか、私が諦めかけたときに、目の端に、キラッと光るものが目にはいった。

指輪はそこに落ちていた。

よかった……



レンはその日帰ってこなかった。

私は寝ずに待っていた。

きつかったけれど、悪いのは私だったから、帰ってきたらすぐに謝りたかった。

翌日の昼過ぎ、鍵を開ける音がした。

ごそごそと音がしてレンが入ってきた。

「おかえりなさい」

「……ただいま」

「昨日はごめんなさい。私が悪かったね……」

「いや、いつものことだからいいよ」

「ホントにごめんなさい。」

私は落ちていた指輪を入れた箱をレンに差し出す。

「これって…私に、だよね?」

レンは頭をポリポリと掻くと、箱を受け取った。

「ほんとはちゃんとしたときに渡したかったんだけどさ」

指輪を取り出すと、右手の薬指にはめながら言った。



「結婚、してほしい」



私は言われることは昨日のうちに想像していたけれど、いざ言われると、頭の中が真っ白になった。



「ははは、はい」

どもりながら返事をした。



レンは私をゆっくり抱き締めながら言った。

「昨日はごめんな。大好きだ」


私は嬉し涙を流した。

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