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君が恋をしたなら vol.26「いらっしゃい」

母の入院は一泊で終わった。

姉夫婦は翌々日から仕事とのことで、予定通りに帰っていった。

ユウタが付き添ってくれて、病院まで母を迎えに行った。

『初めまして、ユウタくん。いつもまゆりがお世話になっております。』

ユウタが言うには、私と母がそっくりということだった。

母が元気になって本当によかった。

ユウタがいなかったら、私は冷静になれなかったかもしれない。

現に、今日迎えにいくのだって怖かったくらいだ。

ユウタは

『いえ、こちらこそ。お身体はもう大丈夫ですか?』

と母を気遣ってくれる。

家へつくと、母が

『まゆり、あんたいい人つかまえたね』

と言う。

つかまえたねって…と苦笑する私。

よく考えたら昨日はユウタが泊まってくれた。

こんなときに不謹慎だけど、超嬉しかった。

髪をなでてくれた感触まで、鮮明に思い出せる。

私はアパートまでユウタを送りながら、何度も感謝した。

ユウタは

『当たり前のことだろ』

と照れて言った。

そんなところもいとおしい。

ユウタのすすめもあり、今日は1日母といることにした。

午前中は母を寝かせたまま買い出しにいったりした。

午後になると母は起き上がりたがり、しかたがないので起き上がらせてこたつにはいらせた。

『お料理たくさん作ったけど、だめにしちゃったな…。』

と言う母に

『昨日みんなが美味しいって食べてたよ』

と声をかける。

『それならいいけど…。』

夜になってユウタに電話した。

『ずいぶんよくなったみたいでよかったじゃん』

『うーん、倒れたときぶつかったところとかがまだ痛いみたい。』

『でも元気になったろ?とりあえずよかったじゃん。あとのことは、あとで考えたらいい』

『うん、しばらくは安静にってだから、私も注意しておくよ。あ、明日は遊べるよ』

『うーん、まだ家にいたほうがいいんじゃない?』

『じゃあ、うちに遊びに来る?』

『そうだな、それがいい。』

というわけで、明日はユウタが遊びに来ることになって、母にそのことを言ったら、大喜びで

『準備しなきゃ』

と言った。

12時にユウタを迎えにいくと、ユウタは今日はニット帽ではなく、髪の毛をセットしていた。

『なんなのー。その格好(笑)どこの好青年』

『元々好青年だよ!』

つっこみまくる私。

ユウタはなんだか恥ずかしそうだった。

『こないだは普通の格好でいったけど、よく考えたらきちんとしていったほうがいいと思って。』

なんでも、私が実家に遊びに行ったときのことを思い出してわざわざ着替えたらしい。

『さすがにスーツじゃいかないけどさ』

照れて笑う。

そんなユウタを見て、私も笑った。

実家へ戻ると、母が忙しそうにご飯の準備をしていた。

『もう、今日はゆっくりしててねって言ったでしょ?』

『だって彼氏がくるのにおせちだけじゃたりないでしょう?』

『あとは私がやるから、お母さんは座ってて』

母を台所から押し出す。

『ユウタ、お餅はいくつ食べるかな?』

『2つで。』

『了解』

私が雑煮を持って戻ると、父と母とユウタが楽しそうに談笑していた。

『はい、お雑煮。』

差し出すと、

『俺よその家のお雑煮食うの初めて』

といいながら箸を持った。

『味が合うといいんだけど』

と母が言うと

『うまいです』

とユウタが答えた。

しばらく談笑していたが、ご飯も食べ終えたし、と私の部屋へ行くことに。

昨日急いで掃除をした。

小さな模様替えをした。

と言っても、ものの場所を変えただけなのだが。

『へぇ、可愛いじゃん。ってか、お前、ぬいぐるみ持ちすぎ(笑)』

ベッドに並べてあるぬいぐるみを見てユウタが笑った。

ああ、神様、やっと夢が一つ叶いました。

と、ユウタが来てくれたことを神に感謝した。

『アルバム、見る?写り悪いけど』

『おー、見せて見せて』

ユウタにアルバムを渡す。

ゆっくり丁寧にページをめくるユウタ。

『あ、これお前だろ(笑)』

小さいコマに写っている私まで見つけてははしゃぐ。

『小さいころからちっとも変わらないのな(笑)』

『それはユウタも同じでしょ』

笑い合う。

幸せなひとときだった。

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