君が恋をしたなら vol.16「ぐるぐる」
一週間して、ようやく指の痛みも減ってきた。
指が使えないとパソコンをうつことが難しく、仕事の速度はかなり落ちた。
怪我したのが左手だったので、携帯でメールするのは、さほど苦にならないけれど、左手で携帯を支えるときに脱臼した指が邪魔でしょうがなかった。
車の運転もしにくい。
いつも健康なことがどれだけ素晴らしいかわかる。
普段は全くといっていいほど風邪もひかない私は、健康のありがたさを噛みしめた。
今週は指を怪我しているからユウタのところには行かない予定。
これも悔しかった。
でも、ユウタが怪我しなくてよかった、そう思った。
向こうに行けないのならと、ふみが遊びにくる。
遊ぶといっても、ただ家にいて他愛もない話をするだけだが。
うちに来てしばらくすると、ふみの電話が鳴った。
マルオだ。
ちょっとごめんねと合図しながらふみが電話をとる。
部屋を出て話始める。
そういや、この二人ってどんな関係になってるんだろう…。いつも自分のことで手一杯で、気にしたこともなかったけど…。
ふみが電話を終えて戻ってくる。なんだかとても不機嫌だ。
どうしたの、と私が聞く。
ふ『今日もあの女連れて遊びにいくらしいよ』
あの女…。麻美のことか。
ふ『最近平日でも一緒にいたりするみたいで、あたしは気に入らん!』
ふみが言うには、平日仕事が終わったあと、たまにユウタと飲みに行ったりするのだが、麻美がついてきているらしいのだ。
私は平日のユウタを知らない。
平日のユウタを知っている麻美がうらやましい。
でも、特別って言ってもらったから。
ユウタを信じよう、そう思った。
ふみが弥生も呼ぼうと言い出し、三人になった。
たまにはガールズトークも悪くない。
や『で、二人は結局進展はあったの?』
私『…ない。』
ふ『あたしは実は…。』
ふみが真っ赤になりながら言った。
ふ『こないだ、付き合ってって言われた』
や・私『えーっ?!』
ふ『これだけ一緒にいて、今さらという気もするけど』
私『そんなことないない』
や『おめでとう、やったじゃん!』
ふみが言うには、海事件の怒った電話を切ったあと、また連絡があったらしい。
ふ『でも、言われるなら、電話じゃなくて面と向かってからのほうがよかった』
口を尖らせる。
や『…で、肝心のあんたは進展はしてないのね』
私『ないというわけじゃ…。』
や・ふ『何があったの?!』
私『先週病院に行ったときに、こう、頭をくしゃーってしながら、『お前は特別だからな』って…。』
や『きゃーっ、それってもう告られたも同然じゃん!』
私『そそそ、そうかな、エヘヘ』
ふ『なら麻美がついて回っても安心だね!』
私は急に不安になる。
ユウタは妹みたいで可愛いと言ったけど、麻美のあの態度はどこからどう見てもユウタ狙いだ。
あの可愛い麻美にアプローチされたら、誰だって心が揺れるに決まってる。
ああ、そうだ、まだ好きだって言われたわけでもない、特別って、特別な友達って意味かもしれない。
ネガティブ思考になり始める。
元々ネガティブ思考の気がある私は、すぐにネガティブに捕らわれた。
どうしよう、今週こんな風に過ごしてる間にも、彼女がアプローチしてるかもしれない。
ユウタは優しいから、断ったりできないかもしれない。
マルオたちがいても、公然あーん、をしていたくらいなんだから、もっと密に接触しているかもしれない。
こうして、かもしれない、がぐるぐる頭を回り始める。
こうなると誰にも止められない。
寝るときまでこの『かもしれない』でぐるぐるだった。
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