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レンホーの忘れもの

「街に貼られてるRのステッカー、ボクらも剥がそうよ」
都知事選の翌日、友達からそんな連絡があった。

何やら、都知事選のキャンペーン期間に、街に大量のRの文字のステッカーが貼られて、そのままになっているのだという。

「なんか蓮舫を応援してる人が勝手に貼ったらしいんだけど、蓮舫は『ステッカーのことなんか何も知らない』って態度だから、たぶんアレ貼った人たち誰も剥がさないよ。ボクたちで新宿のスイーパー(掃除人)になろう!」

この友達はいつも突拍子もないことを言う。

大昔、又吉イエスという選挙候補者がいて、「小泉純一郎は腹を切って死ぬべきである!」などと政見放送で叫んでいたイロモノだったのだけれど、本人は沖縄で学習塾を経営している、とても穏やかで優しい性格の人だったらしい。選挙期間中でも、人知れず公園や選挙ポスターの掲示板の周りを掃除しているのが目撃されていたというのを聞いたことがある。
友達もそのことを覚えていて、自分もそういうことをしたくなったのだという。

スイーパーになるかはともかく、そんなにたくさん貼られてるなら、ちょっと歩いたら何枚か見つかるだろう。剥がすくらいなんてことはない。
GTAでも街の壁に書かれた落書きを消したりするミッションがあった気がするし、ロールプレイみたいで面白そうだ。
友達も「仕事帰りのついででいいからさ」と言ってくれたので、さっそく軽い気持ちで、今日7月9日、新宿の街に繰り出したのである。

暑い。夕方でも、とにかく暑い。
夏の新宿なんて、好き好んで歩くものではない。
歌舞伎町までやってきたはいいけれど、特に目立ったところにステッカーは貼られてはいない。
朝方にすでに2枚見つけたという友達は「治安の悪そうなところにあるんだよ」と言っていた。
しかし、仕事終わりの疲れてる時に治安の悪いところになんかあんまり行きたくはないのである。

トー横のゴジラ前を一通り見回すが、見つからない。
無いならそれでいい。もしかしたら、もうみんなが剥がしてくれたのかもしれない。
そう思って、来た道を引き返し始めた。
歌舞伎町の大きな交差点を渡る。道路を渡り切ろうとした時、パッと目に入った「R」の文字。
それは、街灯柱の下のところに貼り付けられていた。

見つけてしまった。本当にあったのか。
こうなったらもう剥がすしかない。人通りもあるし、ササッと剥がそう。
そう思って端から引っ張ってみる。

ベリッ。

なんと、端から裂けて汚く残ってしまった。
もう一度、今度は逆からゆっくり剥がしてみるが、今度もまた裂けて、接着部の白い部分が覗いてしまう。
このステッカーは紙でできているらしく、こびり付くと、瓶のラベルのように剥がしにくくなってしまうのだ。

どうしよう。剥がせない。剥がすような道具も持っていないし、このまま残していこうか。一瞬そう思った。
しかし、それはダサい。ダサすぎる。うまく剥がせないからといってこのまま投げ出していいものか。

こうなると、もう意地である。たまたま鞄を探って出てきたアルコール除菌シートを取り出して左手の指に巻き、ステッカーをガリガリと擦ってみる。すると、強く擦ったところがわずかながらボロボロと落ちていく。
これならいける!
人目なんか気にしていられない。時間にして3分ほどだろうか。とにかく擦り続けた。

ぐにゃっ。

指の先に嫌な感触と痛み。
一瞬、爪が曲がってはいけない方に曲がったような気がした。
シートを取ってみると、血は出ていないが、爪の内側が赤くなっている。もしかしたら内出血をしているのかもしれない。

でも、あと少しで剥がし終わるのだ。構ってはいられない。
そのまま、残った右手でシートをつまみ、残滓を削り落とす。そして、なんとか剥がしたと言える状態にまですることができた。

たった一枚でこんなに苦労するなんて。こりゃあ一回貼ったら剥がしたくなくなるよ。
荷物を持ち直し、急いでその場を後にする。
雨もポツポツ降ってきてはいたが、それどころではない。僕だけ局所的な大雨に降られたかのように、汗でびちゃびちゃになってしまった。
アア、キモチワルイ…🦉

しかし、そう思った矢先の道の途中でも「R」の文字が視界に飛び込んできた。
あそこにも、そっちにも。

もう仕方がない。剥がせるだけ剥がしてみよう。
またカスが残らないように、そっと剥がしてみる。すると、今度はペリッと綺麗に剥がすことができた。良かった。
もう一枚も、やや高めの場所にあったが、同じように剥がし終えることができた。

なんと疲れることか。ほとんど一枚目のせいなのだけれど。
喉も乾いたし、空腹で力も入らないし、すっかりクタクタになってしまった。
帰り道でそのことを報告すると、友達は「ついでに剥がしてとは言ったけど、なんでそこまで一生懸命になってんの」と言う。
「だって、この街で優しさに甘えていたくはない…」
そう言ったら爆笑されてしまった。

蓮舫さん。
僕はあなたの支持者でもなんでもないけど、支持者が勝手にステッカーを貼って剥がさないということがあるなら、代わりに剥がすくらいのことは全然やります。できる限りではあるけれども。こういうことは助け合いだからね。
でも、できれば、次からステッカーを作るなら剥がしやすいビニール製のステッカーにするように呼びかけてほしいです。よろしく頼みます。

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