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三題噺 #1

お題「キュンキュン」「冷凍食品」「イカゲーム」

冷凍食品の種類はここ数年で爆発的に増えた。こんなものも?と思うような食べ物までもが商品化されている。しかも解凍は電子レンジでたった数分でいい。佳代はそのコーナーを通り過ぎながら考える。凍っているくせにすぐに溶けてしまうなんてズルいじゃないかと。
「佳代ってクールビューティーだよね。」何度も聞いた友人たちからの評価だ。彼女たちが裏で自分のことを鉄仮面と呼んでいるのも知っている。大学進学後も自分の印象は変わらないのかと自分自身に呆れた。すべては感情が表に出ない自分のこの性格が影響しているのだけれど。幼いころから親戚たちにも無愛想で両親を困らせた。もちろん感情がないわけではない。ただ心の中で納まってしまう。顔にまで感情が溶け、溢れ出ない。いつしか私の心は凍っているのだとさえ思うようになった。それ故の先ほどの八つ当たりだ。食べ物に当たってどうするんだと苦笑しながら部屋のドアを開けた。
テレビをつけるとちょうど今期のドラマ特集をしていた。目玉は人気急上昇の若手俳優を起用した恋愛ドラマのようだ。その俳優が画面に映るたびに画面には胸キュンという太文字やらキュンキュンを表現したいのであろうハートやらで埋め尽くされている。氷の女である佳代もイケメンと呼ばれる人種を見てときめかないわけではない。カッコいいなとは思うけれど、そこで終わる。芸能人や同級生も含めて特定の異性に対して興味がわくことは今までなかったと記憶している。それに世の中恋愛にうつつを抜かせるほど平和ではない、というのが持論であった。恋愛中心に世界が回って許されるのは創作の世界だけ。リアルを生きる私に無関係だ。気が付くとテレビの特集は人気の配信ドラマの話題へ移っていた。イカゲームが紹介されている。昨今で流行っている韓国ドラマだ。いわゆるサバイバル物で命と大金を天秤にかけ主人公たちが成長していくというもの。佳代も一話だけ見たが面白い構成だと思った。韓国の社会問題である格差社会がいい塩梅で絡んでくる。韓国は恋愛ドラマで有名と認知していたが意外とふり幅は広いようだ。
そんなことを考えていた時、ドアのチャイムが鳴る。先週ネットショッピングしたものが届いたのだろう。内カギを開けドアを開いた。宅配業者の制服に身を包んだ同世代の青年が段ボールを抱えていた。
「サインをお願いします。」
差し出されたボールペンで受取人欄に名前を書く。すると
「…字が綺麗ですね」
上からそんな声が降ってきた。驚きそのまま顔を上げると青年は笑顔だった。彼の周りだけ輝いて見えた。
「またのご利用お待ちしています」
マニュアル的な挨拶をしてからは去ってしまった。ドアを閉じてからも佳代はしばらく立ったままだった。何かが溶ける音がした。はっきりと。心の体温が上がったように感じた。自分が冷凍食品と同等な気がした。

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反省

・まずイカゲームをよく知らないために話に盛り込むのが難しかった
・冷凍食品に八つ当たりするくだりまではスムーズだがそのあとはグダグダしている気がする
・肝心なオチが面白くない
・初めて書いて話を作ることがどれほど難しいか痛感した


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