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スタジオジブリ作品の場面写真の提供から見る戦略

突然の場面写真の提供

2020年の9月18日にスタジオジブリが新しい作品を中心に 8作品、合計400枚提供を開始しました。
まずは「思い出のマーニー」「かぐや姫の物語」「風立ちぬ」「コクリコ坂から」「借りぐらしのアリエッティ」「崖の上のポニョ」「ゲド戦記」「千と千尋の神隠し」各50枚を公開しています。
今後提供作品が増えていくようです。

公開作品一覧

なぜ場面写真提供をはじめたのか?

私はスタジオジブリの人間ではありませんし、関係者から聞いたわけではないので推論で戦略を見てみたいと思います。
まずスタジオジブリは株式会社です。つまり利益を追求していますし、優秀なプロデューサーであり代表取締役であらせられます鈴木敏夫氏がいらっしゃいますので、意図をもって写真提供が行われていることは間違いありません。これほど大規模に場面写真の無償提供を行っている作品は見たことがありません。
では場面写真の無償提供によってどの様な効果があるのか?

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場面写真提供による効果

・エンターテインメントの提供
・ウェブ媒体への進出
・たまに見るジブリから毎日見るジブリへ
・親しみのあるジブリ作品へ
・他力本願な広告効果

パッと考えるだけでもこの効果は狙っていると思われます。ひとつひとつ見てみたいと思います。

・エンターテインメントの提供

これはアニメーション映画の制作を目的として活動を開始した会社としては当然の目的なのかと思います。映像作品を作ったりテーマパークをつくるだけがエンターテインメントの提供ではありません。
これだけネット社会が発達し、近年のコロナ禍でどのようなエンターテインメントの提供が出来るか?その一つがこの場面写真提供なのだと思われます。
エンターテインメントの提供に関してはこれから書く「他の効果」とは一つ大きく違っていて、「会社のエゴや利益ではなく他者の利益が大きい」と言う点があります。
つまり会社が求めてやることではなく、他者が求めるから成り立つと言うことです。

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・ウェブ媒体への進出

映像やキャラクターを売りにしている会社が頭を悩ませている一つにウェブ媒体があります。
大きく育ったインターネットを上手く活用できていると言える会社は少なく、残念ながらスタジオジブリも上手く活用できているとはいい難い状況です。
その足掛かりのひとつがこの場面写真提供なのだと思われます。
何故ウェブ媒体が大切なのかはもはや言うまでもないかと思われますが、スタジオジブリの商売は世界規模である事からもウェブ媒体の重要性が大きいと考えます。これから更にウェブ媒体をどのように使ってくるのか楽しみですね。

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・たまに見るスタジオジブリから毎日見るスタジオジブリへ

皆さんはスタジオジブリを思い出す時、触れる時は年に何度あるでしょうか?
「映画公開の時だけ」「金曜ロードショウで作品が流れる時」「DVDやブルーレイで定期的に見る」「グッズストアで見かける」「グッズが家にある」「三鷹と言う文字で思い出す」人によって様々かと思いますが、多くの方は「たまに思い出す程度」かと思います。
映画公開の時期は大々的に広告も出しますし、メディア露出も激しくなりますが、それ以外の時期では見ることは少なくなります。
そのお陰でジブリ作品が特別な存在になることができ、一般アニメ作品と違い崇高さすら感じられる別格ではあるのですが、ジブリ作品は量産されるわけではないため下手をすると忘れられた過去の会社になってしまう可能性すらあります。
特にスタジオジブリ当初の目的にも挙げられている「高畑勲、宮崎駿両監督のアニメーション映画制作」と言うものから脱却しなければならないのだと思われます。そうなると崇高なジブリ作品よりも親しみのあるジブリ作品への一部転換も必要となってきます。
そこで権利元から許可されている場面写真の提供が効いてきます。
「人気」「知名度」のあるジブリ作品写真が常識の範囲内であれば自由に使えると言うことでウェブに浸透させ、毎日使うウェブのどこかでよく見る親しみのあるスタジオジブリへ転換させることでブランド力を維持させようと言う狙いが見えてきます。

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・親しみのあるスタジオジブリ作品へ

毎日見るスタジオジブリにしたところでどうするのか?
崇高なスタジオジブリから親しみのあるスタジオジブリへしてゆく…「ドラえもん」や「サザエさん」または少し違いますが「ガンダム」の様に日常の中にスタジオジブリを溶け込ます戦略なのではないでしょうか。
【人間は毎日見るものに親しみを感じる】
少し話はそれますが、皆さんの初恋の相手は毎日会う人またはよく見かける人ではありませんか?
人間はそれくらいよく見るものに感情を持つように出来ています。
話は戻って、ドラえもんは日本人ならば必ず見かけたことがあり、毎週放送されていたり様々な媒体で見かけることにより親しみを感じる国民的アニメになっています。
スタジオジブリ作品の場面写真を無償提供することでウェブ媒体(または他媒体)で気軽に使える状態にし浸透させ、毎日どこかで見る状態を作り、作品公開していない時でも身近にそして親しみを感じる国民的なスタジオにしていこうという狙いが見えます。
そうすることで巨匠監督に頼らないブランドを作っていく狙いなのでしょう。日本だけではなく全世界に同時展開できるウェブに向いている上手い戦略ですね。

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・他力本願な広告効果

他力本願と書くと悪いように取られてしまいそうですがそうではありません。
他人が勝手にやってくれる宣伝ほど素晴らしいものはありません!
口コミやファンサイト、情報共有これと同じ効果をお金をかけてやろうとすると莫大な広告費がかかります。
スタジオジブリの持っている資産の中でも生産費のかからない商品を使ってかなりの安価・低労力でスタジオジブリの広告をステマで行える!
こんなに素晴らしい宣伝はありません!
しかも使う人は喜んで使ってくれて、見る人も不快感を受けにくい。そしてなにより広告だと認識されにくい!かなりお得な宣伝です。
誰かが勝手に使うほど宣伝されて親しみが持たれる。これが成功したら他アニメや作品でも一般化するかもしれませんね。
と言っても知名度や人気があるジブリ作品だからこその戦略ではあるのですが…。

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まとめ

この場面写真提供の件から見えてきた事は活動当初の目的であった高畑勲監督の死去、宮崎駿監督の高齢化によるスタジオジブリの方向転換が見えてきました。
巨匠監督に頼らないブランド力維持と国民的スタジオ化。
写真提供による浸透と日常化による親しみと親近感。
ウェブ媒体の利用と活用。
人を楽しませるエンターテインメントの提供。
新たな他力本願な安価な広告。

胡坐をかいてダメになる老舗ではなく、チャレンジし続ける姿勢と将来を見据えたスタジオジブリの戦略があるように感じます。
この精神は他企業も忘れずにいたいものですね。

筆者経歴
14歳で犯罪心理学に興味を持ち心理学の本を読み漁る傍ら、人をコントロールする実験をする。1998年頃から当時流行していたインターネットの掲示板やEメールを使い100名以上の人生相談を受け、主に10代~30代女性から多くの支持を得る。現在は心理学から離れ自由気ままに映像クリエイターとして生活している。
HP https://threeps.jimdofree.com/
Youtube https://www.youtube.com/user/sh0tatsu/

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