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Appleは誰に謝罪したのか?Appleが"Crush"で粉砕したものから学ぶ:過去の名作TVCM、Crushについての客観的表現調査、サムスンからの広告的チャレンジを踏まえてCrush騒動を総括します。

Appleは誰に謝罪したのか?Appleが"Crush"で粉砕したものについての総括をしたいと思います。


Crush騒動


AppleのiPad Proのコマーシャル「Crush」が物議を醸し、Appleは正式に謝罪しました。
このコマーシャルでは、ピアノやカメラ、絵の具などの創造的なオブジェクトが産業用の破砕機で押しつぶされる様子が描かれていました。  

*2024年5月18日現在Appleのオフィシャルサイトに掲載中です。

このケースは企業が顧客と共に築き上げた価値観とブランドイメージをどれだけ重視すべきかを示す重要なものです。この事例から学ぶべきは、企業がどのようにして自らの行動がブランドの価値と調和しているかを常に自己評価し、必要に応じて速やかに修正措置を講じるべきであるという点に注目しましょう。

Appleはマーケティングの会社


Appleのキャンペーンは常に統合マーケティングのスタンダードです。企業が目指すSTP(Segmentation, Targeting, Positioning)をマーケティング戦略、実際のインプリメンテーションに落とし込んでいます。広告などのプロモーション領域でもApple製品を選ぶ理由(わけ)をターゲットに的確に手渡しています。今回はApple製品が顧客と創り上げている価値を、自ら否定してしまったことについて、顧客に謝罪したということではないでしょうか?

Appleの広告表現の名作たち


以下にAppleの「名作TVCM」を紹介しますします。Appleが統合マーケティング会社であることがよく理解できます。

1984:Appleの提供する便益が誰に向けられたものなのかを明確にメッセージするアプローチ


Think Different: Appleが応援するべき人たちを明確にするCrazy Peopleは社員に対して誰が顧客であるかを理解させるためのコンテンツとしの役割も


Get Mac: Mac. Vs. PC は誰のためのサービスを提供している企業であるかを提示している内容


シルエット・シャッフル; 具体的なユーザーと製品・サービスの関係性に重点を置いたストーリー


Hello iPhoneのティーザー広告はApple製品の特徴でもあった”Hello”を中心に展開される広告。iPhoneが「新しい電話」の扉を開けるという物語を提示


封筒:iPadの「薄さ」に全ての機能が詰め込まれていることのアナロジー


iPad Proのキャンペーンで“Crush”したもの


この”Crush”では、創造的なツールと歴史を文字通り「粉砕/破壊」するという内容でした。多くのクリエイティブプロフェッショナルから批判を受けました。この反応は、Appleが以前に展開してきた「Think Different」や「Get a Mac」などのキャンペーンとは明らかに異なり、顧客との共創した価値観に背くものでした。Appleはこれを認め、公に謝罪し、広告の展開を中止しました。

Appleの広告担当副社長Tor MyhrenがAd Ageの取材に対して述べた内容を要約します。

"Creativity is in our DNA at Apple, and it's incredibly important to us to design products that empower creatives all over the world," said Tor Myhren, the company's VP of marketing communications. "Our goal is to always celebrate the myriad of ways users express themselves and bring their ideas to life through iPad. We missed the mark with this video, and we're sorry."

CreativityがAppleの DNAであり、世界中のCreativeな人々を力づけるような製品を設計することが非常に重要であることに言及しています。発売される新しいiPad Proを通じて、ユーザーがアイデアを具現化し、様々な表現の仕方を称えることをAppleは目標としましたが、この広告ではそこから外れてしまったため、謝罪に至っています。



Marketing is about values

“Marketing is about values. It’s a complicated and noisy world, and we’re not going to get a chance to get people to remember much about us. No company is. So we have to be really clear about what we want them to know about us.” Steve Jobs

「マーケティングは価値についてです。世界は複雑で騒がしいため、私たちについて多くのことを覚えてもらうチャンスはほとんどありません。どの会社も同じです。だから、私たちが彼らに知ってほしいことを本当に明確にする必要があります。」スティーブ・ジョブズ

Think Different キャンペーン開始にあたっての社員向けタウンホールより


Marketing is about valuesの意図するもの


今回のiPad Pro「Crush」広告では、Appleが通常表現する「創造性を尊重し、それを通じてユーザーが自己表現を行う手助けをする」というブランドの価値観とは異なるメッセージが不本意ながら伝わってしまいました。この広告が示したのは、技術が創造的なツールや歴史を「破壊」するというイメージであり、多くのクリエイティブな人々からの批判を引き出しました。この点で、Appleは自らが築いてきた顧客との価値を「粉砕」してしまったとも捉えられます。

そのため、Appleが行った謝罪は、単なる広告の内容に対するものではなく、顧客と共に築き上げてきたブランドとしての価値観—特にクリエイティブなコミュニティとの関係—に対する敬意と責任を再確認する行動であったと言えるでしょう。これは、彼らがその価値観を真剣に受け止め、顧客との長期的な関係を重視している証左となります。これにより、Appleは今後もその信頼を回復し、顧客との関係を強化するための努力を続けることが期待されます。


炎上した広告との相違点


そして、この謝罪は、近年クリエイティブ・制作内容の炎上案件として話題になった、ヒルトンの「旅館」をモチーフにしたPR動画、H&Mの新学期キャンペーン、JR東日本の「母の日」広告とは異なります。

Appleが行ったのは、世の中を騒がしてしまったことへの謝罪ではなく、顧客とその顧客と共に創り上げている価値をCrushしてしまったことへの謝罪です。

上記が僕なりの結論でした。

ビジネスへの謝罪:Appleユーザーはこの広告に失望していない


顧客と共創した価値への謝罪ということで僕自身は理解したのですが、客観的な調査情報を目にするともっと深くこの謝罪に向き合う必要を感じます。

System1社の調査によると、Appleユーザーがこの広告を見た際には、Appleの広告であることを95%が認識しています。調査会社の過去のデータでも高い長期的なCreative効果を認めています。そして39%の人が「幸福感」を得ています!否定的な感情を持った人は8%でした。

むしろ不快感を強く持ったのは、非顧客です。
幸福感は14%、否定的な感情は23%です。

Appleユーザーはこの広告自体には失望していない…むしろ、この広告を通じて新しい価値の共創者へ適切にリーチして彼らを仲間として一員に迎え入れることができなかったことへの「反省」に見えてきました。
つまり価値の共創者を増やすこと=コミュニティを充実させること=ビジネスの拡大に失敗したことに対して謝罪してきたと思うようになりました。


広告領域での戦いの勝者は?


広告と広告表現はマーケティングにおいて顧客との接点ということでは重要です。その限定的な領域での戦いですら、企業が提供する製品やサービスそのもののポジショニングを炙り出してしまいます。

https://x.com/morihiroaki/status/1791356597824094690

サムスンのCrushへの挑戦は表現的には面白いものかもしれませんが、CreativityというポジションにおいてはむしろAppleを輝かせてしまったように思います。
1984においてAppleが達成した「Creativityの救世主」には必ずしもなれませんでした。


広告は統合マーケティングの一部であるからこそ広告表現には細心の注意を

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