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『ロック・オン・ザ・ロック』

『ロック・オン・ザ・ロック』 No.064

私は湯船に浸かりながら最近起こった事件を整理していた
先ずは警部補の自宅が放火された可能性があるということ
そして大学生の乗った車が崖から転落する事件
それに決して公には出来ない血を吸われたような変死体の数々
最後は夫婦でクルーズ船に乗ったが、妻が行方不明になった事件
夫の証言では旅の途中で喧嘩をし、妻がいなくなっていることに気付かなかったと
周辺を捜索したところで船旅の範囲があまりにも広すぎる
海に落ちていたとしたらきっともう…
それにしてもちょっと不可解な事件が続くわね
私の頭はいつ休まるのかしら
そう思いながらゆっくりと湯船に顔を沈めた…

バスローブを羽織りながら、髪をタオルで束ねる
大きめの氷をロックグラスに入れ、ウィスキーを少しだけ注いだ
一口流し込むと、芳醇な香りと共に思い出も湧き上がってくる
あの人を忘れたいのに
やっぱり忘れられない…
難事件が起こるたびにあなたを思い出す
推理するとき、目を閉じて親指をこめかみに当てる姿
ウィスキーのグラスをくねらせ、氷を鳴らす仕草
そんな儚い思い出に一瞬ほだされた時、メールの着信音が鳴る
スマホを開き、部下から送られてきたメッセージを読んだ
そこには妻が行方不明になった男と親しげに笑っている女の画像があった
そしてその女は、倒産間近の自分の会社から金を横領していたという情報も書いてあった
この二人が繋がっているとすれば、殺人や誘拐の線も…
あの横領女には余罪の可能性がありそうね
もう照準は定まったわ
でもあなたが隣に居たら私はこんなに刑事の仕事を愛したかしら
今更こんなこと考えると心がブレてくる…
気持ちをかき消すよう残りのウィスキーを飲み干し、バスローブのベルトを解いた…


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