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民泊って、どうすればいいのか

住宅宿泊事業法(民泊新法)施行から一年ということで、新聞などでその現状と課題などが多数掲載されていますね。

論調としては、いろいろと制約や課題があって、あまり上手く行っていない、というような感じのようです。


ということで、本稿では、民泊とは何か、どうすべきなのか、について、考えてみたいと思います。

要点
・民泊は、シェアエコノミーの一角だが、太宗は専門業者による専門物件による運営であって、個人宅のシェアではない
・目的・狙いを明確にして、それに応じた規制緩和を正面から実現すべき
・多彩な宿泊体験を提供できるような古民家活用などを進めたい。
・イベント民泊による一時的な需要対応も良い。
・安価な宿泊提供、としてもドンドンやればよい
・が、一方で、周囲とのトラブル防止策などを手当てして、住民を犠牲にしないような、社会的に許容される存在であることが必要条件


「民泊」とは何者か

まず、「民泊」とは何か、考えてみたいと思います。

・「民泊」は「シェアエコノミー」ではあっても、「シェア」ではない

ちょっとエキセントリックな書き方ですが、
「民泊」の実態に照らしたときに、これはそもそも「シェア」なのでしょうか?

少し細かすぎるかもしれませんが、言葉・単語の意味、その使い方はどうしても気になるのです。

単語としての「share・シェア」は、「共有・共用する」ということで、
例えば、
アメリカで学生が一つのアパートメントを節約のために共同で借りる「ルームシェア」、
あるいは、食べ物(例えば、一つのケーキとか)を一人で全部食べるのでなく、二人で分けて食べる、
とか、
そういう意味合いで使いますね。

では、「民泊」はそういう意味で「シェア」なのか?

「民泊」は元々、以下のようなイメージで語られていました。

「業」として物件を保有するのではない「素人の一般個人の住まい・居住用の家」について、
・子供が巣立って部屋が空いている、とか、
・長期で旅行に行くのでその間は自宅が空いている、という場合に、
それを旅行者に貸す、前者の場合にはオーナーと旅行者の交流もある

これなら、前述した「シェア」の意味合いに近いかもしれません。
(筆者は、これでも厳密には違う意味合いかな、という感覚ですが、そうは言っても近い、ということです)


しかし、今般の新聞記事でも明らかなように、
規制がきつくて「業として成り立たない」と嘆いているのは「業者」であり、「民泊」物件の太宗は「素人の一般個人」ではなく、「業者」保有物件だと思われます。

小規模~大規模の業者が「民泊」専用の物件を保有し、
(購入したり、場合によって新たに建築したり、あるいは保有する賃貸マンションを転用したりして)
相応の規模のビジネスとして運営しているものです。

180日、という日数制限が問題になるのも、その証左ですね。
専用の物件を運営する業者でなく、一般個人が空き部屋を貸すなら、
180日でもプラスアルファの収入になりますから、「成り立たない」という話にはならないはず。

これでは、「共有・共用」とは程遠いですね。「民泊」は本来の意味での「シェア」からは離れているのです。

いやいや、元々の単語の意味はそうかもしれないが、
「シェアエコノミー」における「シェア」は、本来の(単語としての)「シェア」の意味合いではなく
『自分が使うものを「保有」するのでなく、必要なときに「借りて利用する」ということを意味する』
ということだぞ、と指摘がありそうです。

そう、それはそのとおりです。そういう定義であれば、「民泊」は「シェア」ですね(あっさり)。
だから「シェアエコノミー」の一角として捉えられているわけです。


ここで、ちょっと、待てよ?
もしそうなら、ホテルや旅館も「シェア」なのではないか?と思いませんか?

旅行者が、旅行者自身が保有する別荘に泊まるのでなければ、
ホテルや旅館に泊まるのも、「民泊」物件に泊まるのも、同じように「シェアエコノミー」ということになります。
「保有」せずに、必要なときに「借りて利用」しているのですから。


・「民泊」の本質

このとおり、「民泊」の太宗は、旅行者が宿泊する物件を保有して賃貸料で稼ぐ業者、すなわちそれはホテルや旅館と同様であって、それ自体には、特段の新しさはありません。

違うのは、
ホテル・旅館と異なる法制、異なる基準の下で運営される物件、
ということでしょう。

具体的な違いは、
事業開始にあたり、許可でなく届出で済む、建物用途はホテル・旅館でなく住宅でよい、住宅専用地域でも可能、というあたりでしょうか。
(火災報知器等の火災対策などは、規模にもよりますが、ホテル・旅館と大差ないようです。)


これは旅行者に提供する宿泊サービスにおける規制緩和、ということですね。

「民泊」は、現在の事業者の実態からすると、
「素人の一般個人の空き部屋を旅行者に貸す」というような牧歌的な営みの推進ではなく、
「旅行者に提供する宿泊サービスにおける規制緩和」なのです。

『そんなことは当たり前。元々分かっている、
「規制緩和」と正面から進めようとすると、ホテル・旅館業界の反対などで頓挫するから、あえて、「素人の一般個人の空き部屋を旅行者に貸す」というイメージを出して、規制緩和を進める「知恵」なのだ』
という声もあるかもしれません。

それは一面真実であるかもしれませんが、そのような本筋の議論を回避したようなやり方で進めることが、禍根を残し、ねじれた状況になってしまう原因になるのではないでしょうか。

ところで、横道にそれますが、名称の「民泊」は分かりにくいですね。
「民」の反対は「官」ですが、「官泊」なんてありません。
「民間が提供する宿泊」なら、それこそホテル・旅館もそうですよね。
「民家に泊まる」ということなら、専用物件はダメで、一般個人の居住用住宅のみ、という感じですが、
実態とは異なってますね。
なんとなく、民間活力を活かす、ようなイメージ、民家に泊まる、ようなイメージを出すことが狙いかもしれませんが、実態と異なり分かりにくい感じがします。


民泊を推進・普及する必要はあるのか

「民泊」の実態からすればそれは本来の意味の「シェア」ではないものの(ちょっとしつこいですね、すみません)、
それでも引き続き注目を集める「シェアエコノミー」の一角ではあります。

では、「シェアエコノミー」と冠すれば、どんなビジネスでも推進・普及すべし、なのでしょうか。

しばしば、
「世界中でシェアエコノミーが普及しているのだから、これを推進しないと日本は遅れる」ようなことが言われます。

確かに、
『シェアエコノミーの本質はシェアではなく、デジタルテクノロジーを活用した「マッチング」と周辺サービスであり、これは新しいビジネス・社会のベースとなる』ので、
そういう観点では「シェアエコノミー」は普及していくのが望ましいと考えます。

<参考note>
シェアエコノミーの本質はシェアではない


しかし、「民泊」はちょっと違うのではないか、と思います。

例えば、
Uberやグラブなどの配車サービスは、利便性が大幅に向上するだけでなく、MaaSにもつながる社会・交通の革命につながるビジネスですが、「民泊」はそうではなく、ホテルや旅館の延長に過ぎないのではないでしょうか。

・「民泊」の目的・狙いは何か

では、「民泊」は不要なのでしょうか。
必ずしも、そうとは言い切れません。

適切な「目的・狙い」があって、それを実現する手段(の一つ)として「民泊」が有効であるならば、その目的・狙いに沿って「民泊」を推進すればいいのです。

問題は、「海外では普及しているから」「シェアエコノミーなのだから推進すべき」などと、目的・狙い、方向性があいまいなまま進めていることではないでしょうか。
そうだから、事業を継続できないくらいに規制が厳しい、などということになるのではないか、と思います。

適切な「目的・狙い」ならば、実現できるように規制緩和すべきですよね。当然ながら、それによってマイナス影響の可能性があるなら、それを防止する対策もセットで。(既得権益の収益補填のことではありません。)


では、そもそも、「民泊」の目的・狙いには、どんなものがあり得るのでしょうか。


<一時的な宿泊施設不足>
2020東京オリンピックや、大阪万博のために、一時的に宿泊施設が不足する、ということがあるかもしれません。
一時的な需要なので、ホテルや旅館のような恒久的な専用物件では、「その後」に需要が不足して赤字になってしまう、
ということで、それを埋め合わせる民泊、ということですね。

2020後には、宿泊施設がダブつく、という記事もありますね。
本当にそうか、精査する必要はあるかもしれませんが、そうだとすれば、一時的に物件を転用する民泊の意味はあるのかもしれません。

「イベント民泊」として、お祭りなどのイベントに応じて提供する、というのもいいですね。
そして、この場合は、本当に一般個人宅の場合も多いでしょう。これなら、旅行者と地元の方との交流も生まれそうです。

一方で、インバウンド4000万人に向けて、安定的に需要が見込まれるのであれば、普通のホテルや旅館(簡易なものも含め)でもいいはずで、一時的ではない恒久的な客室数を満たす、という目的では「民泊」である必要もないかもしれません。

<安価な物件の提供>
普通の居住用物件を転用することができるから、でしょうか、ホテルや旅館より安価なケースが多いようです。
室内設備など、やや劣後する部分があっても安価な宿泊手段を求める旅行者にはいいかもしれません。

ただし、これも民泊によらず、カプセルホテルやユースホステルなど他の選択肢もあります。

<多彩な物件・体験の提供>
インバウンド旅行者などに、画一的なホテルや旅館ではなく、多彩な物件を提供できる、という狙いは「あり」かもしれません。
古民家の転用などがそれにあたるでしょう。
物件の特徴や現況から、ホテル・旅館としての要件を満たすのが難しいが、民泊の枠組みを入れることで、旅行者に魅力的な宿泊体験を提供できる、という場合であれば、いいかもしれません。

<空き家の活用>
一定規模以上のまとまった土地であれば、ホテル・旅館にすればいいかもしれませんが(需要があれば)、
虫食い的な空き家の場合、民泊物件としてなら活用できるかもしれません。

しかし、それも需要があれば、ということであって、建物の維持費などを勘案して、sustainableなのかどうか、は地域・所在地によって大きく異なるでしょう。

また、周囲の住宅居住者が許容するような状態であることは必要条件です。


このように、「民泊」はいくつかの目的・狙いを実現する手段として役に立つでしょう。
一方で、必ず「民泊」でなければならない、という訳ではない目的・狙いもありそうです。


民泊をどうすべきか

ここまでをまとめると、
・「民泊」は、ホテルや旅館と同じ「旅行者向け宿泊サービス」
・準拠すべき要件を少し軽減した「規制緩和」
・いくつかの目的・狙いには役に立ちそう

で、結局のところ民泊をどうすべきでしょうか。

まず、目的・狙いをはっきりさせるべきですね。
「シェアエコノミーだから」「海外で普及しているから」というようなことではなく、明確な目的・狙いを設定すべきです。

そして、その目的・狙いを本当に実現できるような「民泊」の在り方を想定し、そのための「規制緩和」であることを明確にして、正面から議論・検討して必要な緩和を実現する。

具体的には、以下のような目的・狙いで進めるのがいいと思います。

①宿泊体験の多彩化
まず、観光地の魅力を高めるための宿泊体験の多彩化・向上、は進めるべきだと考えます。

そのため、
~特徴ある一軒家・古民家などを民泊に使えるようにする、
~当初イメージで語られたような、ホームステイ的な交流体験を推進する、
などを目的・狙いとして必要な規制緩和を実施する。

地方活性化にも一役買うでしょう。

②一時的な客室数不足に対応
一時的な客室数不足に対応する手段として、イベントに応じた「局地的・時限的措置」が円滑にできるようにする。
オリンピックや万博などの大きなものから、地方のお祭りやビエンナーレ、スポーツなどのイベント対応もあり得るでしょう。

これも、地方活性化にもつながります。

③安価な宿泊施設
もう一つ、安価な宿泊を提供する、という方向性もありますね。

民間ビジネスが、新たなターゲット旅行者を迎え入れるべく、そのニーズに応じた価格帯・品質の宿泊サービスを工夫する、活力を生み出す、という点で、規制緩和してドンドンやればいい、と思います。

が、これについては、やはり周囲とのトラブル防止、悪影響の抑制が重要です。
周囲の住民の住環境を犠牲にして、その犠牲のうえに事業者の収益があるようではダメだと考えるのです。

そのため、
大規模物件の場合、やはりホテルと同様に地域設定も考慮すべき要素です。
また、共同住宅(分譲マンション、賃貸マンション、アパートなど)については、かなり抑制的にすべきではないか、と考えます。

そのほか、宿泊者評価に周囲の住民がインプットできるようにする(夜中騒いだら通報して、スコアが下がる、とか)もあるかもしれません。

また、一軒家や広いマンションの一室を貸すタイプで、必ず住民が一緒に居住している場合には、緩和した運営も可能だと思います。
(本当に居住しているか、確認する運営は必要でしょうが)


賃貸マンションで(分譲マンションでも)、ある日突然隣の部屋に旅行者が頻繁に出入りするようになっては、なにかとトラブルの懸念が出てきます。住宅街のなかの隣の家、でも同じですね。
夜中に出入りしたり、旅の恥はかき捨て的に深夜まで騒いだり、大勢を引き入れたり、ということもあるかもしれません。ゴミの問題もあるでしょう。

もちろん、「同じ人間じゃないか」、「非常識な旅行者ばかりではない」、という意見もあるでしょうが、
日々の暮らしは綺麗ごとでは済みません。

やはり、社会的・文化的に許容される範囲・やり方であることが必要条件ですね。


一方で、この③の目的・狙いのためには180日制限は解除することが必要な気がします。

ホテル・旅館業界の既得権益に囚われず、将来に向けた観光強化の観点から緩和すればいいのではないでしょうか。
そもそも、儲かりそうなビジネスならホテル・旅館業界の人たちも民泊に参入すればいいのだと思います。多少のカンニバリゼイションは止む無し。

最後に
厚生労働省調査による、2017年度データでは、
旅館軒数・38,662軒 旅館客室数・688,342室 ホテル軒数・10,402軒 ホテル客室数・907,500室
ということで、ホテル・旅館合計で、約160万室。

民泊はまだ1万数千件の届出です。
部屋数は数万件、というところでしょうか。

数を追う必要はないですが、
ビジネス・起業家の知恵と活力を引き出し、日本が、また地域が、より一層魅力的な観光のdestinationとなるように、民泊も充実するといいですね。


最後までお読みいただきありがとうございました。
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