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シェアエコノミーの本質はシェアではない

UberやAirbnbなどのサービスが「シェアエコノミー」として注目されていますが、いったい「シェア」とは何でしょうか?
どのように世の中の役にたつのでしょうか?、今後の展開は?など考えてみました。

目次
・古くて新しい「シェア」
・「保有・シェア」の類型
・シェアエコノミーの本質とは?
・今後の展開

古くて新しい「シェア」

新しいビジネスの在り方として注目される「シェア」ですが、ユーザーが自分で使用するモノを保有せず、サービス提供業者がサービスに供するリソースを保有して「シェア」しているビジネスは昔からあるように思われます。代表例である「車」と「旅行先での宿泊施設」について見てみましょう。

■車
「シェアエコノミー」の代表格として語られる、UberやGrabなどが手掛ける「配車サービス」ですが、「自家用車ではなく、使う距離・時間だけ、車とドライバーを賃貸借する」という点ではタクシーも同じです。

当初のサービス開始時点では、「事業者ではない一般個人が、業務用ではない自家用車を使って小遣い稼ぎをする」というようなコンセプトで、その自家用車の余剰時間をニーズのある乗客と「シェア」する、という解釈であったかもしれません。

ところが、ビジネスとしてスケールしてきた現時点では、配車サービス業者(UberやGrabなど)はドライバーをネットワーク化・組織化し、シンガポールのGrabでは使う車のリースまたは販売、メンテナンス・修理も手掛けている、というのが実態となっています。勤務状況やユーザー評価を把握し、車のリースにおける返済能力判断もしているようです。

ドライバー側の状況はどうでしょうか。スマホでオーダーが入ったタイミングで、近くでOn Dutyな車両が配車されること、配車されたらすぐにサービスを提供しなければならないこと、を考えると、他の仕事と同時並行することは(よほどフレキシブルな仕事を除けば)難しく、それなりに稼ごうと思えば、ドライバーは生活を成り立たせる仕事として一日中、もしくは一日のうち一定の時間帯は、専業的に配車サービスに従事することになります。

こうなると、個人タクシーを組織化したビジネス、タクシー会社を衣替えしたビジネスに近い状況と言えるでしょう。

なお、車だけを賃貸借し、自分で運転するタイプとしては、カーレンタルおよびサブスクリプション型であるカーシェアがありますね。これも車に関するシェアの一例です。

■旅行先のでの宿泊施設
「シェアエコノミー」のもう一つの代表格が、Airbnbなどの宿泊サービス、日本では民泊と言われる領域です。これも、「旅行先での宿泊施設を自分で保有(これが別荘ですね)せず宿泊する日数だけ賃貸借する」という点では、従来からあるホテル・旅館と同じです。

民泊というと「一般住宅に旅行者を有料で泊める」「個人が所有する住宅の空き室を貸す」というイメージでしばしば記述されます。居住している一軒家の空き部屋(あるいは自分がバカンスに出ている間の家全体)を旅行者に貸す、というのが元々の在り方で、海外では今でもこれが主流かもしれません。
日本の民泊では、このイメージのとおり「外国人旅行者と交流したい」と一般個人が営んでいるケースももちろんありますが、報道されているように数々の大手業者が参入していることからすれば、こうした大手業者が民泊専用の部屋を保有(場合によっては一棟丸々民泊用)し、それを貸しているケースが数の上では多いのではないでしょうか。

このように、旅行者に貸し出すことを目的として保有している不動産、それを生業とする業者、ということになってくると、ホテル・旅館とさほど変わりません。

「保有・シェア」の類型

一言で「シェア」といっても様々なケースがあるようなので、ここで整理してみたいと思います。

①個人・法人所有物のシェア:お金を取って貸すことは原則無し
②狭義のシェアビジネス:個人・法人が自分で使用する目的で保有しているリソースを、お金を取って貸し出す
③広義のシェアビジネス:お金を取って貸すことを目的として保有しているリソースを、お金を取って貸し出す

①の例は、都市近郊の住民が、都心に車で通勤するときに近所の人を同乗させる、というようなケースで、元々はこれが本当の意味での「share」にあたるかもしれません。(ちなみに、「share」を英和辞典で引いてみると、その意味は「分ける、分担する、分配する、共有する」などとなっています。)
②は、UberやAirbnbのプリミティブな形態、概念上の民泊などがあたります。
③には、旧来型シェアのホテルやタクシーに加えて、新型(いわゆる「シェアエコノミー」)のUberやAirbnbなどのうち、専用のアセットで運営している場合や専業に近い担い手の場合が含まれます。

借りる側、ユーザーの観点から見てみると、以下のように考えることもできます。

①保有・所有
②旧来型の広義シェアサービス利用
③新型の広義シェアサービス利用
④狭義シェアサービス利用
⑤純粋なシェア

車で言えば、自家用車が①、タクシーが②、Uberの太宗のケースが③、プリミティブな形態のUberが④、友人に乗せてもらう場合が⑤に当たります。
服の場合は、通常の自分の服が①、結婚式などのドレスレンタルが②、airClosetが提供するサブスクリプション型のサービスが③、友人や家族で貸し借りするのが⑤に当たります。業者保有でなく個人間で有料で貸し借りしたら④ということになります(将来、こういう形態が普及することがあるでしょうか)。

もっと一般化して、
航空機(自家用ジェット、普通の航空会社など)、CD・ビデオ・本(保有、レンタル、図書館など)、リビングスペース(自宅のリビング、スタバなどのカフェ・サードプレイス・コワーキングスペースなど)、ダイニングスペース(自宅の食卓、レストランなど)と妄想を広げてみると、ありとあらゆるリソースについて「誰が保有するリソースを、誰が使うのか、その貸し借りのやり方、料金収納のやり方」などを工夫して、現在は存在しないビジネスを見つけていくこともできるかもしれません。

更に、この①保有・所有を、「一般的な長期保有」と、「短期保有」に分けてみたらどうでしょうか。
メルカリやオークションサイトによって、個人の所有物を手軽に販売できることを活用すれば、必要なときに買って使用し使用後はすぐ売却することで、その差額分だけ支払う、ような使い方もできるかもしれません。金融のレポ取引に近いイメージですね。レンタルでは満足できる品揃えがないリソースの場合に、新しいビジネスのタネになるかもしれません。

シェアエコノミーの本質とは?

「シェアエコノミー」として注目を集めているサービスも、「シェア」の部分だけを見てみると、すなわち「ユーザー自身がリソース(車や、旅行先の宿泊施設)を保有せず、必要な時だけ賃貸借する」ということだけであれば、旧来型のサービスと大きくは変わりません。

では、何がここまで「シェアエコノミー」が注目され、また勢力を増している要因なのでしょうか、その本質は何でしょうか?

「シェアエコノミー」の本質は、シェアそのものではなく、「マッチング」「フィードバック」「決済」の進化したプラットフォームです。

インターネットに加えて、スマホとスマホアプリが大きく進化し、これに伴う決済サービスが普及したことで、「超多数のリソース(個人保有を含む)」と「超多数のユーザー」とのマッチングが手軽にできるようになり、そのプラットフォーム上で決済まで一気通貫でできるようになり、フィードバックによって悪質なリソースと良質なリソースを見分け、悪質なリソースへのプレッシャーおよび排除ができるようになった、というわけです。
従来から、自社サービスのネット予約、あるいはホテルなどのブッキングサービスは存在しましたが、「超多数リソース×超多数ユーザー」のマッチングにより、「シェア」が爆発的に伸びることとなったのです。

「価値の非対称性」という見方もできるかもしれません。自分のスキルの中には、自分としてはあまり価値を感じていなくても、ニーズのあるユーザーからすれば価値が高い、という場合もあり、このような仕組みでマッチングできればそれを販売することができるのです。
また、自分の保有しているモノの「使っていない時間」は自分にとっては価値を生みませんが、そこに価値を見出すユーザーニーズとマッチングできるわけです。これを別の角度から見ると、「有休リソースの経済活動への有効活用」とも言えるかもしれません。

今後の展望

「シェアエコノミー」の本質である「マッチング・フィードバック・決済」を応用して、様々なビジネスをこの仕組みで実現していくことが考えられます。

既に述べた車・旅行先の宿泊施設・服に止まらず、バッグ・時計などのファッション、スマホ・タブレットなどの機器、リビング・ダイニングなどの空間、また中小企業の後継者探しの小型M&Aその他、ありとあらゆる「誰かのニーズ」と「それを満たすリソース・商品・サービス」とをマッチングし、各種サポート(決済、フィードバック、提案・コンサルテーションなど)を付随させていくことによって、これまでなかったビジネス領域の開拓、また既にあるシェアビジネスの徹底的拡大が可能になるでしょう。
Uber Eatsのように、マッチングと決済に付随する輸送能力を活かして、サービスの横展開も考えられます。

モノだけでなく、プログラミングや事務作業などのビジネスサービス、家事代行なども、マッチングに加えて業務管理や決済を乗せることで進化・深化します。
教育も、教授ごと・講座ごとにマッチングしたうえで、受講・支払い、受講証授与、受講履歴・成績管理をプラットフォーム上で行い、それをまとめることで「学位」取得ができるようになります。
既に、ココナラなどでは「個人のスキル(恋愛相談や占いなども含む)」と「ニーズのあるユーザー」をマッチングしてますね。

■それでも残る「保有・所有」の魅力
こうしたビジネス・サービスが爆発的に展開していくと、色々なモノを保有せず、マッチングによるレンタル利用、あるいは短期所有+売却で利用するようになるかもしれません。
では、人々は何も所有しなくなるのでしょうか?

個人での保有・所有は、逆にそういう時代だからこその「ステータス」シンボルになり得ます。また、個人の好きなように「カスタマイズ」できること、手続き・手配なしで常時利用できること、などの利点もあります。高級時計や外車など、こうした面が重視されるモノは引き続き個人保有される傾向が強いでしょう。
また、極めて個人的・プライバシー的なモノ、例えば下着や靴下は保有するでしょうし、結婚指輪など保有することに意味があるもの、も引き続き残るでしょう。趣味の領域でも自分で保有するモノは残ります。

しかしながら、便利なスマホアプリにより、フリクションレスで様々なリソースに即時アクセスできるようなプラットフォームが益々進化してくると、「保有しない生活」の領域は確実に増していくでしょう。
住む家についても、自家保有、一般的な賃貸、Weeklyマンションに加えて、ロケーションフリーな生活を実現する、サブスクリプション型の「Air自宅サービス」なども出てくるかもしれません。

こうしたシェアエコノミーは「サブスクリプション」とは好相性です。単品のレンタル・支払いではなく、月払い・年払いとすることにより、一回一回のサービス利用における限界的コストはユーザーにとってゼロとなるため、利用意欲が向上し満足度が高くなります。
airClosetについて先述しましたが、様々なシェアサービスがサブスクリプション型になっていくのではないでしょうか。

■気になる点・課題
将来バラ色か、と思われるシェアエコノミーですが、気になる点や課題もあります。

一つはサービスの質の問題です。例えば、タクシーと比べて運転の質はどうでしょうか?
筆者は、一般のドライバーでも、そもそも家族を乗せる、友人や近所の人を乗せるということもあり、多少の運転技術の差はあっても真面目に従事している限りは大きな問題はないのではないか、と考えています。また、フィードバックの仕組みによって、悪質なドライバーは排除されるでしょう。
しかしながら、人命を乗せて運転する以上は、十分に睡眠をとることや飲酒運転の防止など最低限のベースラインについては、ドライバーが気をつけることに加えて、配車サービス業者による教育など一定の努力・責務はありうべしかもしれません。

次に、そもそも自動車会社の車販売台数の減少など、ビジネスへの影響が考えられます。
これはそれ自体が悪いこと、という訳でもないのですが、そこにビジネスがあり、従業員が居て、従業員および家族の生活がある、ということも意識しながら、新たなビジネス展開を考えていく必要があります。
一方で、タクシーやホテルなどの旧来型ビジネスと比べて安価なサービスへの需要を喚起したり、以前は売ることが難しかった「個人のスキル」をマッチングにより販売することを通じて新しいマーケットを創出する、というように経済全体に貢献する面もあります。

最後に、ニューヨークで渋滞深刻化や排気ガスによる環境負荷の増大が問題になっているように、安く参入できるようになった結果の参入リソース過大に伴う問題があります。
安く参入できることで、便利に安くサービスが提供できる、リソースが足りない領域では不足分を埋め合わせることが期待できる、というメリットももちろんあるので、単純に規制するわけにもいかないのが難しいところですが、領域によっては何らかの対応が必要となるでしょう。

まとめ

・シェアエコノミーが注目されているが、「シェア」そのものは必ずしも目新しいものではない。
・本質は、テクノロジー進化により、「超多数リソース」と「超多数ユーザー」の「マッチング」および「フィードバック」「決済」がプラットフォーム上で可能となったこと。
・この仕組みを活用することで、ありとあらゆるニーズに対し、それを充足するリソースをマッチングすることが可能となるので、新しいビジネスが展望できる。

シェアエコノミーによって、生活がもっと便利に充実して、社会経済的にも発展していくように頑張りたいですね。

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