イワミツバ der Giersch(デア ギーアシュ)

 複母音ieは、長母音「イー」と長く発音する。さらに、-ierのr字は、音節の〆として、例の通り、ここでは、「ア」と表記する。語尾の綴り字schは、「シュ」と発音する。

 この男性名詞Gierschは、既に11世紀までに文献で確認される、古高ドイツ語に見られる言葉で、元々「雑草」の意味である。この言葉は、方言的に使われていたので、この植物名は、地域ごとに様々な名前で呼ばれており、例としては、Ziegenkrautツィーゲン・クrラウト、「ヤギの雑草」などの俗名がある。

 また、俗名の一つにGeißfußガイス・フース、「ヤギの足」というものがある。Geißとは、家畜として飼われている雌のヤギのことを言う。実は、この命名は、学名に沿っている。Gierschの学名は、Apiaceaeセリ科、Aegopodiumエゾボウフウ属に分類される植物名である。そして、このAegopodiumとは、ギリシャ語で、「aigosヤギのpous足」の意味なのである。

 さて、この名称Geißfuß自体は、一般には、この植物の葉っぱの、茎との付き方が、ヤギの足に似ているからであると言われるが、葉っぱの、茎との付き方は、三枚の葉が一つのグループを形作っており、ヤギの足とは似通ってはいない。むしろ、根茎から生え出てきた若葉を地上茎といっしょに引き抜いた時に、茎の元についてくる二枚の葉っぱのようなものが、一部重なって双葉のように見えるので、それの形状を指して、Geißfußと呼ばれたのではないかと言われている。

 尚、エゾボウフウ属で唯一ヨーロッパで見られる、この種の学名Aegopodium podagrariaの、このpodagrariaの名称は、この「雑草」が薬草として使われてきたことを意味する。すなわち、この薬草には、痛風(Podagra)の痛みを和らげてくれる効用があることを、ヨーロッパ人は、何世紀もの前から、民間療法で知っていたことを表している。

 また、俗名のもう一つに、「Dreiblattドrライ・ブラット」という名称もある。訳すと、「三枚葉」であり、これが、正に、和名の「ミツバ」に対応することも面白い。そして、この特徴が、この植物を他の植物から見分けるのに、大事な点である。茎から生え出た葉っぱが茎の両側に対称的に並んでおり、それぞれが三枚の葉を有している。さらに、一番最後の葉っぱのグループが一つで茎の先端で〆を飾っており、このグループ自体が三枚の葉によって構成されている。一枚一枚の葉っぱの形は、卵型で、葉の端には、あまり深くはないが、ギザギザが入っている。

 この、葉のグループの「3の3」のメルクマール(これはドイツ語!)、つまり「指標」に、さらにもう一つの「3」が加わる。茎の切断面が円形ではなくて、三角形であるからである。この「3の3の3」の見分け方が、同じセリ科の中にある毒草(例えば、ドクゼリ)とよく区別できる有効な方法であると言う。これに、匂いがニンジン、或いは、パセリに近い匂いであるならば、もう、Gierschであることは間違いなく、安心して、Gierschの葉を食用に供せられるのである。

 実は、このGierschは、根茎を持っており、とりわけ、繁殖力が強いので、ガーデニングをやっている方には、「天敵」の植物である。元々の語源が「雑草」の意味から来ていることがこれで頷けるが、Gierschを見つけたら、直ぐに取り除かないと、瞬く間に広がってしまう。地中に広がった根茎が厄介であるからである。

 一方、三月から四月にかけて、日陰で湿気の多い野原でこのGierschを見つけたら、これを採取をして、食用にするとよく、Gierschは、正に、格好の「野生の野菜」となるのである。

 Gierschは、親戚であるパセリとよく似た味であり、濃い味の料理にも、飲み物に添える香草としても、また、甘くないケーキにも使える、使用範囲の広いハーブである。

 ほうれん草を使った料理に、より味を洗練させるためにGierschを付け加えてもいいし、パセリを使う料理をGierschを使う料理に置き換えることも出来る。さらには、アジア風に、ごま油と醤油を使ったサラダドレッシングにGierschを細かく刻んで入れてもよろしいであろう。

 または、両手にいっぱいの量のGierschに、大匙二杯のオリーブオイルをかけてかき混ぜ、それに、塩・胡椒をし、さらに、好みで、カレー粉など辛めの香辛料を付け加える。これを、フライパンでカリカリに焼くと、お酒のいいおつまみになる。

 六月頃からは、30cm以上に伸びたGierschの頭頂に、唐笠を開いたような散形花序で、3㎜程度の大きさの白い花がたくさん咲く。これを、花を支えている茎といっしょに摘み取り、葉と同じようにフライパンでカリカリに焼き上げてもよいが、さらには、このGierschの花を天ぷら風に揚げたものも、中々のものであると言う。

 まず、スペルトコムギ粉、ないしは、てんぷら粉125gに、ハーブ入り塩を一つまみ、蜂蜜を大匙一杯(出来れば、タンポポの蜂蜜、それがなければ、甘めのもの)、卵を一個、そして、150mlのミルクを、それぞれ加えて、よく混ぜる。これに、茎の柄の付いたGierschの花を一旦漬けたら、天ぷらのようにして、約170度で約2分間、油で揚げる。こうして、オードブルとして出してもよいが、或いは、サラダのトッピングとしてもこれを添えることができる。このように、Gierschとは、色々と活用できる「雑草」なのである。

 それでは、Guten Appetit!グーテン・アペティート、召し上がれ!

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