ケースの無いミニアコ

数年前。ミニアコを貰った。

ミニアコとは、ミニアコースティックギターのことである。

文字通りだ。


ネックは湾曲し、弦は錆び、おまけに本数が足りない。


しかし、とても大切に愛されていたことがひと目見て分かった。


ストロークで一部が色褪せたボディ。

1〜3フレット付近のカポの跡。

そしてフレットの一箇所だけ、やたらとすり減った痕があった。



その箇所がすり減る曲を探した。

莫大な曲数がこの世には存在する。

この箇所だけがすり減るということ自体、異様だ。

Fで挫折し、限られた曲しか弾けないと言うよくあるパターンの可能性もある。

カポの跡が残っているくらいだ。きっと挫折パターンだろう。

でもならばなぜ、チョーキングの跡なんかが残っているのだろう、、、

しかもアコギの弦は硬い。F挫折でチョーキングなんて出来るわけがない。


考えた。


あっさり分かった。


名曲だ。

例えFで挫折しようと、この曲のイントロはそう難しくない。

難しくない上に、何度リピートしても飽きることのない美しいイントロだ。

永遠に聴いていたくなる、シンプルで中毒性の高いメロディ。

なるほど。ここがすり減るわけだ。


私も弾いた。

以前のこのギターの持ち主は、誰を想って弾いたのだろう。

ウイスキーを片手にその話を聞かせてもらいたかったが、その持ち主はもうこの世にいないらしい。


楽器には魂が宿るという。

なんとなく、理解できた気がした。



Eric Clapton

"Wonderful Tonight"



名曲だ。





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