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Oh, you're such a romantic person!

いま(8/31 5:52 P.M.),Amazonの『英文を編む技術』の書影が成田あゆみさんの『新しい英文ライティング実践力』になっています(正しい書影が表示されるようになったようです.9/4 12:49 P.M.)が,この本は近いうちに絶版になります.なぜかというと版元のDHCが経営判断で,出版事業を撤退し,出版部が廃部になるからです(ちなみに翻訳事業は別の部です.これをやめるという話はまだ聞いていません).上記の本はもちろん,間違ってぼくの本の書影として表示されている成田あゆみさんの本からはじまり,日向清人さんの「即戦力がつく」シリーズも,その他,語学書ではない海外文学の翻訳などを含めて,すべての本が今年中に絶版になります.下(↓)は関連映像です.

そこで,このぼくの本,およびDHCから出ている他の著者の本について買おうと思っていたけれど買っていない状態であれば,オンライン書店でもリアル書店でもまだ定価で買えるうちに買うことをお勧めします.事業撤退という判断をした会社に利益がいくようにはしたくないという人もいるでしょうが,欲しいと思っていたら買ったほうが無難です.なぜかを説明しながら,ぼくのわかる範囲で出版業界のシステムを少しだけ説明してみたいと思います.実は,世に出回っている英語本の質を嘆く人はいますが,個々の本の内容を問う前に,購買者としての彼らの行動こそがこの質に貢献しているのではと考えているからです.

出版業界を知らない人は,たぶん「絶版にするのなんかやめて,全部他の出版社に割譲してしまえばいい.儲けになるんだから」などとたぶん考えるかもしれませんが,それはあり得ません.ISBNがついている現在世に出ているDHCの本をそのまま売るわけには行きません(実は上(↑)の映像でも嶋津幸樹さんは組み直しの必要について言及していますが,大抵の視聴者はスルーするはずです).カヴァーを張り替えたり,スタンプを押したりした上で販売することを考えるかもしれませんが,全部回収する作業と人件費を考えれば,他の出版社がそういうことをする訳はないと気づきそうですが,インターネットで英語本の良さをコメントをする人はそんなことは知らず(もちろんぼくを含め,ほとんどの著者も細かいことは知りません),他の出版社がいま出ている本をそのまま売っていることを夢想する人も少なくないようです.ところが実際は,現在市場に出回っている本はDHCの本としてしか買えず,販売を「引き継ぐ」「引き受ける」ということはできません
(註・DHCの出版部が切り離されて,別の会社に吸収合併された場合は中経出版とKADOKAWAのときのように事情が異なってくると思いますが,今回は廃部と聞いています)

版権を割譲された出版社が別の本として刷り直すということは可能ですが,1つの出版社が全部の本の版権を買い,出し直すということはないでしょう.基本的に,著作権が著者に戻る形(厳密には,「著作権の所有者である著作者が版元の出版権とのしばりから解かれる」)になるので,それぞれの著者が復刊してくれる出版社を探すことになります(もちろん,有名な著者には,DHCとの出版契約が切れたという話を聞いた別の出版社のほうからコンタクトをとるということはあります).で,ある著者の本に,興味を示してくれた出版社が何社か出てきたとします.でも,それは復刊が決まったわけではなく,出版社の編集者が興味を示してくれた(=企画会議にかけてくれる)だけで,企画会議でボツになれば「検討しましたが,大変申し訳ありませんが,弊社からは出せないことになりました」と云われることも十分考えられます.首尾よく,出してくれることになっても,版(デザイン)の組み直しはもちろん,加筆・修正を求められるとがあります.それがかなり大掛かりな作業になることもあり,そういう場合は,著者自体が「面倒くさい.やーめた」となることさえ考えられます.以上すべてをひっくるめて考えると,おそらくDHCから現在刊行されている本のうち,別の出版社から復刊できるのはごくわずかでしょう.うまくいく場合でも別の出版社からリニューアル版がでるのにまあ早くてもいまから1年ぐらいはかかると思います.大概の本に関しては数年は見ないと,ぐらいに思っていたほうが無難でしょう.

テキトーなことを想像だけで云っているんじゃなくて,ぼく自身2冊別の出版社から出した経験がある(この記事のいちばん下↓の2冊がそうです)ので,一度絶版になった本を別の出版社から出すのがどれだけ大変か身を持って知っているわけです.だから,ぼくの本に限らず,今回DHC本を買おうかどうしようと迷っていたら,まあ,定価で買っておくのが無難じゃないでしょうか.

在庫がなくなった本は増刷はしないとは思いますが,在庫がある限りはあと1ヶ月ぐらいはオンラインでもリアルでも書店で定価で買えるはずです.それ以後は廃部に伴って版元が回収を始めるでしょう.そのあとはどうなるのかというと,廃棄されます.燃やすかどうかはわかりません.再生紙に回るのかも.まあ,もったいない気もしますが,仕方ありません.読者のみなさんからすれば,それをよくスーパーなどにあるアウトレットブックで売ってくれるか,Bookoffとかの古本屋に大量に出回れば嬉しいのでしょうが,それをやられると復刊しても儲からないのでどこの出版社も引き受けてくれなくなるでしょう.まあ,本の再販制度がいつも良く働いているとはぼくは思いませんが,この制度が存在するのにはそれなりの理由があります.

あと,著者に「XXX(あなたのお気に入りの出版社)から復刊してくれると嬉しいです」と変なリクエストをするのはやめてください.著者のほうでそういうリクエストには応じられないというと,「え,だってXXXは『YYY(あなたのお気に入りの別の本)』という本を出しているからきっと理解があると思うんです!」という根拠のない自分の思い込みを押し付ける人がいます.申し訳ありませんが,あなたがXXXの編集長クラスにリアルの知り合いがいて,復刊の決済に漕ぎつけさせられる政治力を行使できるのでもない限り,はっきり云って迷惑です.「どこか受け入れてくれる版元が見つかると良いですね」以上のコメントは一生懸命出してくれる版元を探している著者(ぼくも現在探しています.声をかけてくれたところはありましたが,まだ何も話し合いは始まっていません←その後,うまくJMAMという出版社から復刊することになりました)に文句を云っているに過ぎません.複数の出版社から声をかけてもらうことはあっても,その中の1つの会社から正式に刊行への決済(=本を刊行すると決めること)が下りるまで気が気でないのが普通で,悠長に「どーれーにしようかな🎵」と選択を楽しむ余裕はありません.ましてや,あなたの勝手な出版社の好みに付き合うわけにはいかないのです.そういう願望はあなたの胸にだけしまっておいて著者に伝えるのはやめてください.

まとめると,別の出版社が絶版になるDHC書籍をすべて引き継いでくれて,そのまま販売してくれたり,短期間でリニューアル版が刊行されるというのは夢想に近い願望です.夢をみるのは勝手なのですが,いたずらに不満を述べるのではなく,以下の①から⑤を理解した上で状況を見極めたほうがよいと思います.
①出版部と翻訳・通訳事業部は別
②現在市場に出回っているDHCの書籍そのままの形で別の出版社から販売されることはない
③復刊するには,各著者が別の出版社を探す必要がでてくる
④復刊へのハードルはかなり高いし,作業に時間もかかる

以上を理解した上で,どうしても本が欲しいならば
⑤回収されるまでは定価で買えるので買っておく
ことが最適解です.


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