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【仕事も恋愛も】交渉術を取得したい!そのために必要な2つの視点

人は誰しも「交渉」が必要な場面にたくさん遭遇している。分かりやすいのは仕事における取引先との交渉だが、それだけではない。社内の上司との交渉もあるだろうし、プライベートだって休みの日に何をするか恋人や夫婦間で交渉になることもあるだろう。

こういった場で交渉が上手な人間はいつも自分にとって比較的満足な結果を導き出すし、交渉が下手な人間は我慢をし続けなければならない。

今回は交渉上手になれるかということにつき、重要となる2つの視点について記事を書いていきたい。

1.論理面での交渉術

30年ほど前に、「ハーバード流ビジネス交渉術」という本が出版されてから、交渉術の研究は注目を浴びている。学問における交渉術においては、「ダブルバインド」「アンカリング」「フットインザドア」など、いろいろなテクニックはあるが、これまでの研究のうち交渉術を語るうえで最も重要だといわれているのが

「BATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement)」
※ バトナと呼ばれる

という概念である。何だが難しそうな話だなと思われるが、そんなことは全くなく、下記の通り当たり前の話なので安心してもらいたい。

BATNAとは、日本語に直すと「不調時対策案」、簡単に言うと「合意できなかった時の最善の代替手段」である。BATNAを扱って交渉を有利に進めるには次の2つのステップがある。

(1)自分のBATNAを認識する

例えば、あなたが友達Aにソファを買ってもらう場面を考えよう。あなたは最初友達Aに5千円くらいで売ろうかと思ったが、念のため質屋と交渉したらソファが1万円で売れそうであることが分かった。そうすると、友達Aとの交渉が破断したとしてもあなたは質屋で1万円でソファが売れるため、友達には1万円以上の値段を交渉することができる。この「質屋に1万円で売るという代替手段」こそがBATNAである

このように、交渉が破断したとしても他の代替手段がたくさんある人は、交渉が破断することが怖くないため、非常に有利に持っていくことができる。

(2)相手のBATNAを認識する

上記の例で、あなたはソファの値段を1万円以上で交渉すべきだということは分かったが、いくらなら友達Aは買ってくれるのだろうか。この時に友達AにとってのBATNAは何かということを認識する必要がある。

例えば、そのソファが限定品であり、友達Aはどうしてもそのソファが欲しかったとする。そして、あなたとの交渉が破談となればメーカーに頼んで10万円で買わざるを得ないとすると、友達AにとってのBATNAは「メーカーから10万円で購入すること」となる。

このような状況がわかっている場合、あなたが最初5千円で売ろうとしていたソファは、99,999円での売ることを友達Aに提案したとしても論理的にはOKの返事をもらえることになる。

以上からわかる通り、自分の選択肢が多ければ多いほど、相手の選択肢が少なければ少ないほど、交渉は自分有利に持っていくことができる。当然のことを言っているのだが、交渉上手な人は相手と交渉になったときまず真っ先に「自分のBATNA」と「相手のBATNA」を考えているという点がポイントである。

(恋愛の場面ならば、モテる人は色々なBATNAを持っているため、ちょっとやそっとのアプローチでは攻略できないことになる…。)

2.感情面での交渉術

論理的にはBATNAが重要だということは分かった。ただ、これをバカ真面目に実践したとしても交渉上手とは言えない。なぜなら、交渉は人と利益が相反する行為であるため、人がもつ「感情」とぶつからざるを得ないからである。

例えば、上記の例でいえば、仮にあなたが友達Aに99,999円でソファを売るよう提案したとする。そうすると、論理的には友達AはOKというはずだが、友達Aの立場に立ってみると、あなたに対して「友達なのに1円しか割り引かないのか。そんな友達甲斐のないやつとはもう絶交だ。」という感情を抱き、交渉は成立しないということもある。

他方で、逆にあなたが友達Aに対して今までとても親切に接しており、窮地の時にはいつも助けていたという背景があるのならば、15万円だって友達Aは買ってくれるかもしれない。

こういった感情面についての配慮というのも交渉をする上では重要になる。感情面で気にかけるべきポイントは以下の3つである。

(1)1回こっきりの取引か、継続的な取引が見込まれるかを認識する

相手との取引の回数が多ければ多くなるほど相手の感情を気に掛ける必要がある。このような相手との交渉において1回でもこちらが「100%勝利」をしてしまった場合、相手はあなたと継続的に取引をしようとは思わないからだ。

逆に、1回こっきりの取引しか行われないことが見えている場合には、上記のBATNAの考えを駆使しつつ「100%勝利」を狙いにいっても構わない。継続的な取引がないのであればこの取引を機にさようならということができるからだ。

このいい例が訴訟である。訴訟は敵対している相手方との間で互いに「100%勝利」を目指して時には相手方が嫌がる手を使うこともよくあり、それゆえに交渉が泥沼化することもある。(自分も嫌がるような手を相手から使われるため、結果的に50:50に収まることも多いのだが)。

(2)相手はどのようなシチュエーションに弱いかを認識する

人はそれぞれ弱いシチュエーションというものがある

怒りの感情をぶつければ委縮して折れる人もいれば、逆上して交渉が破断になる人もいる。論理的な説明をすれば納得する人もいれば、論理とは離れたウェットな関係を重視する人もいる。交渉とは関係のないところでおだてて気持ち良くさせることで取引がスムーズにいく場合もあれば、それが逆に反感を買うこともある。

このように、相手の個性に合わせて、相手方が首を縦に振るようなシチュエーションを作り出すということも交渉上手になる一手である。

これは相手の個性によって使い分けるという高度な技術を要するが、これが中々難しい人に、ビジネスの場面での交渉で個人的にお勧めするのが「論理」と「義理人情」の両方をぶつける方法である。「論理」が通じる相手方は自分の利益よりも公平さを重んじる傾向があり「義理人情」が通じる相手はこちらが何かを与えるとそれ以上の返礼を返してくる傾向にある。このような「論理」と「義理人情」の両方に反応する相手方は、将来どのような行動を行うかがこちらにとって予想しやすく想定外のリスクがないし、また将来長期にわたってこちら側に利益をもたらしてくれる期待が高い。逆に言えば「論理」や「義理人情」の両方に対して反応しない相手方であれば、相手の行動の予想ができないため想定外のリスクが発生する可能性があり、またこちらが与えても何も返ってこない可能性が高いため、仮に交渉がうまくいかなかったとしても長期にわたる付き合いをしなくてもいい相手だということがその時点で分かる。つまり、「論理」と「義理人情」をぶつけることが(交渉がうまくいくかはおいといて)相手をはかる良い試金石になるのである

(ただ、恋愛面の交渉となるとこれが正しいのかは筆者もわかっていない…。)

(3)適切な場面で適切な言葉を用いる

仮にお互いのBATNAの中間地点をとり、結果的にWin-Winの取引になったとしても、Win-Winであることが相手方に伝わっていない場合には、あなたに対して反感の念を持つことがある。もっと言えば、あなたの方が不利な取引に応じたとしても、相手方はあなたの方が有利な取引になっていると考えて反感を持つ場合もある。このような事態を避けるためには、適切な言葉で相手方に説明をする必要がある

もっとも、淡々と説明をすればいいわけではなく、説明の内容は場面に応じて適切に変えなければならない

例えば、あなたと相手方の利益の中間地点にあたる条件で取引を提案する場合(上記の例ではソファを55,000円で売る提案をする場合)には、あなたの利益・不利益と相手の利益・不利益の両方を全て説明してこの提案がいかに公平なものであるかということを説明すれば問題はない

しかし、あなたに有利な取引を提案する場合(上記の例ではソファを9万円で売る提案をする場合)には、この取引が相手にとって利益があるのかということをうまく演出することが重要になる(「メーカーに依頼した場合には10万円以上かかるだろうし、届くまでに時間もかかる。粗悪品が届く可能性もあるし、契約手続きが煩雑にもなる」など。)。

他方で、あなたに不利な取引を提案する場合(上記の例ではソファを1万円で売る提案をする場合)には、この取引があなたにとってどれだけ不利益であるかということをうまく演出することが重要になる(「近くの質屋に売れば1万円になる。ただ、君とは友達だと思っているし、今後も長くいい関係でいたいと思っているから」などさりげなく言葉を添える(相手方がこれを十分に理解している場合には余計な言葉はいらないが。)。

最悪な交渉はこの逆パターンである。ソファを9万円で売ることを提案しながら「9万円でいいよ」といったような言い方をすれば相手の感情を逆なでする可能性があるし、1万円で売るときに「1万円で買ってくれると嬉しいなぁ」といった言い方をすると相手はこの価格に満足せずさらに値下げを要求するなどして、余計に関係がこじれる可能性がある。

過度な傲慢さや謙虚さを捨て、客観的に交渉力を認識したうえで適切な言葉を使うことが円滑な交渉を行うことができる

3.最後に

今回は論理と感情という2つのポイントから簡単に交渉について記載したが、交渉というものは突き詰めてみるとより複雑な構造になっており、奥が深い。

投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェットは、相手からの最初の提案に対して「Yes」か「No」の二択しか出さず、交渉を行わないという話を聞いたことがある。これが業界に知れ渡ると、ウォーレン・バフェットと取引をしたい金融業界の人は、最初の提案からウォーレン・バフェットに有利な条件を言わなければならないという圧力を受けることになり、結果的にウォーレン・バフェットは交渉することなく交渉に勝つということができるのである。

これは、ウォーレン・バフェットにおけるBATNAの多様さ(あらゆる人がウォーレン・バフェットと取引をしたいと考えていること)と、彼に交渉を持ち掛ける金融業界の人間が「経済的論理性」を重んじるという個性をうまく利用した「交渉しない交渉」という最強の交渉術ということができるが、この一例をとっても交渉は奥が深いことが分かるだろう。

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