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人間の“怠惰”と “忘れっぽさ” を理論とテクノロジーで支えたい――「コンプル」立ち上げにこめた想い 

「やらなければならないのに、先送りにしてしまう」

今これを読んでいるあなたは、そんな「やるべきこと」が頭の片隅にある状態を経験したことがありますか?

振り返れば何度もそんな葛藤を抱いていた、という方も多いのではないでしょうか。あるいは、逆に「やってほしいのに、なかなかやってもらえない」。その立場で悩んだことがある方もいるかもしれません。 

 私たちはその悩みに端を発し、「コンプル」というプロダクトをリリースしました。そしてこの「コンプル」の事業拡大と採用強化を機に、事業にかける想いや事業化までの道のりをこのnoteにまとめてみました。

もし興味がある方はぜひ最後までお付き合い頂ければ幸いです。(もちろん興味のある章だけ読んで頂いても構いません)

株式会社ThinQ Healthcare代表取締役、株式会社Speee取締役
渡邉昌司


自分が「やりたくないことを先送りにする人間」だからこそ

私たちが開発・提供を進めているプロダクト「コンプル」は、『社内から未対応をなくす』を掲げる未対応解決クラウドです。社員に業務を依頼する担当者、それに対応する社員とその上司、それぞれの課題に着目し、業務遂行の負担を軽減する体験を追求しています。 

「コンプル」のアイデアの種となったのは、私がこれまでの人生で感じてきた課題感です。

私は昔から、自分がやりたいこと、好きなこと以外については、物事に着手するのに時間が必要でした。テストが近くなれば散らかった部屋の片づけをして、夏休みの終わりが近づいてくれば本棚の整理を始めるといった有り様です。

“有り様”を別の切り口から

でも周囲を観察しているうちに、どうやらこの悩みは他の人も抱いているらしい、ということに気付いていきました。むしろ誰にでも当てはまるぞ、と。

人間は、もともと怠惰で忘れっぽい生き物です。本来やるべきだとわかっていても、やれないことがたくさんあります。例えば、語学習得や老後に向けた資産確保などの、「自身の将来のためにやるべきこと」はその典型です。また、ダイエットや運動といった「健康」や「寿命」に関わることですらも「やれないこと」の対象になってしまいます。

それらはいずれも重要な取り組みであるはずなのに、人は心身の健康やキャリアをないがしろにし、他の重要ではない何かを優先してしまうのです。

幼い頃の私と同様に、変わろうと努力している人はたくさんいるでしょう。でも心当たりのある方はよくご存知の通り、やるべきことをやれないという性質を変えることは、困難を極めます。個人の努力でどうにかなるなら、先ほど挙げたような多くの問題は既に解決されているはずです。

「怠惰」で「忘れっぽい」ことが、人類を繁栄に導いてきたのかもしれない

一方で、怠惰や忘れっぽさは、問題であると同時に人類の繁栄を支えてきた重要な要素のひとつでもあるのではないでしょうか。

人は怠惰であるからこそ、太古の昔から新たなテクノロジーの発明と活用を繰り返し、自分たちの能力を拡張してきました。例えば火という新たなテクノロジーひとつとっても、当初は乾燥による山火事や落雷などの偶然によって手に入った産物だったかもしれません。

しかし、より栄養価のある美味しい食料をかんたんに手に入れるために、人は火打ち石を発明して焚き火で焼き、かまどを発明して煮炊きをし、コンロやオーブンをつくり、果ては電子レンジなるものまで手にしました。
火以外にも、車輪、印刷、発電と送電、自動車、飛行機、インターネットにいたるまで、あえて例をあげるまでもなく、我々の回りには怠惰を背景としたテクノロジーによる能力拡張の発明品が溢れかえっています。

アガサ 曰く

また、「忘れられる」というのも、人類にとってとても重要な能力のうちのひとつです。大人になるまで歳を重ねる中で「つらい出来事が時間で解決される」というありがたみを感じたことのない人は、おそらくほとんど存在しないでしょう。
時間が解決してくれるとは、すなわち記憶から薄れて「忘れる」ということです。「何も忘れられない世界」で待っているのは、恐ろしく困難な日々でしょう。

そうすると、もしかすると、このように人類に刻み込まれてしまった「怠惰」や「忘れっぽさ」を個人が自力で解消しようとする行為は、あまり現実的な考えではないのかもしれません。
それよりも、これらを変えられない人間の本質的な性質だと考えたうえで、テクノロジーと理論で支えるという考え方もあるのではないでしょうか?

こうした想いに端を発し、「コンプル」は生まれました。

なぜ「コンプル」か?命をも後回しにする人間の性質との出会いと事業のピボット

 私はこれまで多くの新規事業創造に関わり、​たくさんの失敗と、幸いにもいくつかの事業化​と​の、双方を​経験してきました。

​その経験を振り返っても、個人的な課題感に根ざした事業は、そうでない事業と比べ、成功する確率が高いと肌身で感じています。
それはさながら、映画監督​や小説家​が自身の体験​や葛藤​をもとに創り出す​初期​作品に傑作が多いのと似ているのかもしれません。 

「コンプル」はここまで記載した通り、まさに私の実体験を元にした課題を起点にしていますが、それは連続起業家として、事業の成功確率を上げるために大切な要素だと考えているためだからでもあります。

しかしながら、正直に言えば、いきなり最初から「コンプル」にたどり着いたわけではありません。

I did it.

ThinQ Healthcareという会社の名前が示す通り、はじめにフォーカスしていたのは、医療・ヘルスケア領域です。創業当初は、人命に影響をおよぼすような病気の重症化を防ぐために、医療機関への受診を促すサービスを企業や健保組合に提供したいと考えていました。

 しかし、いくつかの要因によって、このサービスの事業化を断念せざるを得ませんでした。

ただ、その事業化を検討する過程で、多くの企業や健保組合のご担当者にインタビューさせて頂いたことで、ご担当者の皆さんが直面している大きな課題に出会うことになります。

それが「怠惰」「忘れっぽさ」「優先順位付けの倒錯」という人間の性質です。自分の命に関わることすら後回しにしてしまう人間の性質に強い衝撃を受けるとともに、私自身の課題感とも重なり、全く他人事ではありませんでした。
この時の経験が「人はやるべきことをやれない」という実感を強めていくに至りました。

そしてこの「人間の性質によって生まれる課題の解消」「営利企業としての利益創造」を同時に実現する方法を考え、様々な検証を進めていった結果、まずは未対応解決クラウド「コンプル」をつくっていく、という形でスタートすることにしました。

顧客自身も気づいていない、本当に必要な体験を届けるために 

ここからは「コンプル」が解消する顧客の課題と、顧客へ提供する価値について、私たちがどう考え、どのようなプロセスで歩んできたかについて、触れさせて頂きます。

プロダクト開発プロセス

まずはじめに、チームが進むべき指針となる「プロダクトビジョン」を定めました。

3年後のプロダクトビジョン

もともとは社内向けのもので対外的に出す予定がなかったものですので、洗練された印象や目を引くようなキャッチーさからは程遠いですが、チームの共通認識と方向性を定める目的においては、納得のいくものになっています。
何よりチーム全体で議論を続けたそのプロセスが、大きな財産です。

こうしてプロダクトビジョンを策定し、それに続いてビジョンに紐づく「顧客のイシューとゴール」を定め、プロダクトの柱となる考えを明確にしました。 

続いて想定顧客にインタビューを重ね、「ターゲットユーザープロフィール(ペルソナ)」ならびに「バリューマップ(ユーザーのペインとゲイン)」を整理し、後ほど詳しく説明させて頂くユーザーストーリーの作成を経たうえで、最低限の機能を備えた「モック」を作成しました。

その後、モックを用いて想定顧客と商談を行い、およそ20の企業に「想定の課題が存在するか」「コンプルはその課題を解消できるか」「課題解消のために具体的に費用を支払う準備はあるか」などをヒアリングしていきました。  

当然すべての取り組みは一回で形になるわけではありませんし、そもそもそれを前提としてはいません。ペルソナ、ペイン・ゲイン、ユーザーストーリーをはじめモックに至るまで細かく検証項目と成立条件を定め「仮説立て→作成→検証→再仮説立て」というように、仮説と現実の溝を少しづつ少しづつ埋めていく作業をしてくことになります。

「ユーザーストーリー」で、顧客の行動原理の解像度を高める

その仮説立ての中心となるのが前述した「ユーザーストーリー」です。

ユーザーストーリーの位置づけ

顧客と頻回に接点を持っていれば、当然様々なご意見やご要望をいただくことができます。また多くの顧客の人となりや企業としての立ち居振る舞いへの理解度も上がっていきます。

しかし、まだ世にないプロダクトを生み出すにあたり、顧客の要望や意見をそのまま機能にしていては「顧客自身も気づいていない、本当に必要な体験」を届けることはできません。

例えるならば、馬車で移動している時代に顧客に要望を聞き、「より速い馬がほしい」という回答にあわせて足の早い馬の育成に精を出すようなものです。顧客は早い馬車ではなく「今よりもっと早い移動手段」がほしいのです。

この「より早い移動手段がほしい」のは何故なのか?というモチベーションの起点と、その後の行動を言語化・可視化するのが「ユーザーストーリー」です。

私達は、まずはじめに自分たちが理解している範囲でのペルソナやペインゲインの仮説立てを行い、それらを元にユーザーストーリーの作成を行いました。

実際にこんな感じでユーザーストーリー作ってます

ユーザーストーリーによって「コンプルの顧客は何をモチベーションにして行動をはじめるのか」「どんな行動をとることで満足し、いったんコンプルから離脱するのか」という時系列の動きを可視化していくことができるようになります。これを様々なユースケースで作成していくことになります。

機能を作るのは最後の最後、ユーザーストーリーを確定させたあと、UXデザイナーとともに「ストーリーを実現させるための最適なソリューション」を練り上げていく段階になって初めて行います

とにかく、まずはユーザーストーリーありき、です。ユーザーストーリーを作らずにモチベーションが不明瞭のまま機能開発に移ってしまうと、前述した移動手段の例で言えば「すごく努力して速い馬を育成する」ことになってしまいます

こうしてユーザーストーリーを作成していくのですが、ペルソナ、ペイン・ゲインも含めて、インタビューに基づいているとはいえ、当初は仮説(というよりほとんど妄想)に過ぎないものです。
そのため、ユーザーストーリー、 ペルソナ、ペイン・ゲインなどは、検証結果を確認しながら何度も何度も修正していくことになります。

はじめから完璧を求めず、ペルソナ、ペイン・ゲインの整理で顧客自身の解像度を、ユーザーストーリーで顧客のモチベーションや行動の解像度を高めたうえで、本当に必要な最小限の機能を備えたモックやプロダクトを作り、少しずつ改修していきます。

こうした一見遠回りにも思える作業を繰り返すことで、顧客自身も気づいていない、本当に顧客が必要とする体験を届けられるようになるだろうと、私たちは考えています。

地道で泥臭い、華やかさとは対極にある取り組みたち

 このようにユーザーストーリーは、まず仮説を立て、それが本当に成立しているかどうかをデータを見ながら検証していく、という極めて地味で地道なサイクルを繰り返しまわしていくことになります。

サイクルの画像ではないですが

 例えば、「コンプル」のユーザーストーリーには「人間以外からの連絡によって、連絡を受けた人間が行動変容する」という「コンプル」の根幹に関わるとても重要なものがあります。

しかし一方で、私はこれまでにも様々な場所で多くの人がbotによる連絡をスルーする様子を見る経験もしています。
一定の仮説と期待があったのでこのユーザーストーリーを立てて成立検証を実施したわけですが、本当に成立するかどうかについては、検証結果を確認するまで不安が大きかったことをよく覚えています。

検証にあたっては、ThinQ Healthcareの親会社であるSpeeeのメンバーに協力してもらうことにしました。

しかしただ協力してもらうとなると、人の良いSpeeeのメンバーに過剰な気を遣ってもらった結果、検証データにノイズが混入しするかもしれません。そのため、ThinQ Healthcareのサービスや「コンプル」であることは隠した上で、異なるサービス名にした架空のツール導入、という方法を取りました。

ちなみにこのツールは、最初期はツールを模した人力によって運用していました。「とにかく速やかに検証を進めたかった」というのがその理由です。

検証のためにその都度要件定義をしてプロダクト開発を進めていたのでは、検証の着手が遅れてしまいます。それだけではなく、検証実施が億劫になり、検証の手数が減ってしまうことになるかもしれません。

この「手動でもいいので速やかに検証を開始し、極力開発は行わない」というスタンスは、我々がとても大切にしている考え方のひとつです。
とはいえ、言うは易く行うは難し。数百人にbotのふりをしてやり取りをしてくれたメンバーには、感謝の気持ちでいっぱいです。

結果的には、このユーザーストーリーは成立する事がわかり、プロダクトによる課題解消ができることが一定証明され、安堵したことを覚えています。またそれにあわせ、作成したペインゲインやペルソナも、現実とのズレが徐々に小さくなっていきました。

ここまでいくと、ようやく実際にrequirementを作成して開発を行うことができるようになります。
ただし、開発を行った後も、ユーザー行動のデータ検証や顧客からのご要望・意見を元に、継続的に修正を続けていくことになります。

私たちは、こうした3歩進んで2歩下がるような地味で泥臭い、地道な仮説検証の積み重ねを行うことが顧客に必要な体験を届けることにつながると信じて開発を行っています。

そしてこれは、プロダクト開発に限った話ではありません。
地味で地道な積み重ねをしっかりとやり切って大きな成果という果実を手にしていく、というのは、ThinQ Healthcareという会社でとても大切にしている価値観でもあります。 

同じ想いをもつ、大切な価値観を共有できる仲間を募集しています

長文お疲れ様でした

すいません、ここからは宣伝です。

現状「コンプル」を作っているThinQ Healthcareのチームは、代表である私とエンジニア、プロダクトマネージャー(以下、PdM)、そしてアシスタントという、ものづくり主体の最小構成で運営しています。

そんな中で細々と広告を出したりしていますが、大きな企業の役員や経営企画の方々など、決裁権限を持つ方からの問い合わせや導入が多く、大きな反響に驚いています。
現在は私が商談を行っていますが、この体制では遅かれ早かれ、顧客にご迷惑をかけずにサービスを導入いただくことが困難になっていくと予想しています。

フィールドセールス、エンジニア、PdM、デザイナー、マーケティング、カスタマーサクセス……要するに全ての職種の方に来ていただきたいのですが、その中でも特にインバウンドリードの商談を形にしていく1人目のフィールドセールス(新規営業)の方を熱望しています。

実際にチームに入っていただいた場合、現在は私が営業を行っておりますので、私と直接やり取りしながら仕事を進めていくことになります。
インバウンドリードをSlack、Hubspot、Salesforceでさばくように構成した“いわゆる”な体制ですので、ご経験があれば違和感なく馴染んでいただけるのではないかと思っています。

また、本人のご希望や相性にもよりますが、前述した通りフィールドセールス以外の領域も、どの役割も1人目でガラ空きですので、そこも私とやり取りしながら裁量をお渡ししながら取り組んでいただくことが可能です

これまで成熟したプロダクトや、役割が固定された仕事に物足りなさを感じていた方には、やりがいを持って取り組んでいただける環境なのではないかと、密かに期待しています。

加えて「コンプル」のプロダクトビジョンに、自分ごととして共感できる人であれば嬉しいなと思っています。
私自身がそうであったように「自分はダメだ」という気付きや、怠惰による失敗と葛藤を経験してきた人であれば、よりプロダクトの世界観や、提供価値の大きさへの共感していただき、充実したワクワクする仕事になるだろうと想像しています。

最後になりますが、「コンプル」は私たちが思い描く道のりの始まりでしかありません。

ここからさまざまなプロダクトを展開しながら、私たちは仕事の現場に限らず、人々が「やるべきことをやれる」状態を実現できるように、支援していきたいと考えています。
この世界観に共鳴し、解決に向けて歩みたいと感じる人は、ポジションと機会にあふれた今のThinQ Healthcareの扉を叩いてみて頂ければ嬉しいです。

こんな長文の最後の最後まで、ご興味を持って読んでいただいたあなたと働ける日を、楽しみにしています。

長文を読んでいただき、ありがとうございました。

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