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“あの猫”の話。

去年の今頃だっただろうか。
正確な日にち等はもう忘れてしまったけれど、確か3学期ごろだったように思う。
もうちょっと寒かったから、もっと前かな。

この時期になると、
あの猫のことを思い出してしまう。
これはその、“あの猫”の話。

僕の学校の近辺を猫が徘徊するようになった。
気付けばよく見かけるようになっていたのだ。そいつは白黒のいわゆるブチ猫だった。

部活終わり、
コンビニの前で立ち話していると
近寄ってきたり、
先輩のLINEのホーム画面に
登場したりしていた。
とにかく人懐っこい奴だった。

いつしか友達どうしの間では
“あの猫”
で通じる存在になっていた。
本当に可愛かった。

ある日のこと。
その日は模試があり、
土曜日に学校に行かなければならなかった。
正直模試はしんどい。

どうして自ら休日を返上してまで
神経をすり減らしに学校に
行かなくてはならないのだろう。
そんな意味の無いことを考えながら、
いつもの通学路を急いでいた。

急いだからか
珍しく遅刻せずに学校に間に合った。

正確にはもう少しで間に合っていた、だ。

間に合わなかったのは
門の前にある道で
足を止めてしまったせいだ。

足を止めてしまったのは
普段は落ちてない何かが
道路に落ちていたからだ。

今でも覚えている。
赤黒い何かだった。

一瞬
落ちているそれが
何かわからなかった。
その次に
状況が読み込めなかった。
またその次に
呆然とした。

その何かとは、
血まみれになった“あの猫”だった。

前足をピクピク上に上げながら、
口を開けて
悶えていた。
車に轢かれてしまったことくらい
見ればわかる。

心配はしていたのだ。
毎日毎日ウロウロして、
いつか轢かれるのではないか、と。
そのいつかがその日だった。

何台もの車が悶える猫を避けようとする。
無理に避けて踏んでしまったら
どうするというのだ。

このまま放っておいて、
更に轢かれて、
目も当てられない状況に
なることだけは避けてあげたかった。

その子を歩道まで抱いて運んであげよう。
そう思った。

でもその時、
生まれて初めて
血だらけになった生き物に触れる
恐怖を知った。

誰かに手伝って貰いたい。
周りを見渡す。
誰も彼もが知らない顔をする。
顔見知りでも苦笑い。

お前、それ触るのかよ。

そんな心の声が
苦笑いの奥から聞こえてきた。

そうしている間にも
また車が何台もその猫を避ける。

現場の少し後ろで
バスが人を降ろしだした。
その間車が通らなくなる。

今しかない。
僕はカバンを置いて
道路に飛び出した。

モタモタしている間に、ぐったりとなってしまった猫を急いで抱きかかえた。
まだ温かかったけど少し生臭かった。

命が抜けてゆく瞬間を
見たような気がした。

そしてぐったりとなってしまった猫を
歩道に寝かすと、
そうはゆってもやはり
模試は受けないと行けないので
とりあえず学校に行こうと思った。

顔を上げると友達が
カバンを持って待っていてくれた。
ありがたかった。

カバンを受け取り、
手を見やると血だらけだった。

めづらしく担任の先生は
僕の遅刻を咎めなかった。

僕が手の血をトイレで洗い落としている間に
友達が事情を説明してくれていたらしい。

模試が終わって帰る時、
もう一度あの道路を通った。

道路には血だけが残っていた。

僕はこの日のことを忘れない。
命に触れた貴重で悲しい経験。
絶対に忘れたくなくて、記事にしました。

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