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あの頃...

「あの頃さー」
という言葉をよく口にする俺がいる。

何が「あの頃」なのか、それすら不明だ。
あやふやな記憶をたどり、強引に時制の一致を試みようとする、ただの枕詞なのか。
いや、満ち足りているように見える日常の中に欠けている「何か」がある、その「何か」を見つける手がかりが、明るく輝いていたように感じる過去にあるような気がしてならないのだ。

結論から言うと、昔を語る奴は嫌いだった。
過去を振り返る事を馬鹿にしてきた俺だが、よく昔話をするようになった。
そのくせ、学生時代のふられた女の話を今でも引きずっている友人に会うと、「昔の事は忘れろよ、あの頃なんて戻ってこないんだからさ」などと抜けぬけと言えたりするのだから厄介だ。

親父や祖父が語る昔話とは違う類いの「昔」を、「あの頃」という軽めの言葉に置き換えて、浅い昔話を語るのだ。

そんな俺は今年で30才になる。
周りからみるとガキだろうが、自分では大人になったつもりでいる。
なんて中途半端な年代なんだろう。



そろそろ、俺の軽めの昔話を始めてみようか・・・。

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