明日、旅に出よう

明日、旅に出よう。 あの日、ふと思い出した学生時代に良く口にしていた言葉。 もう一度…

明日、旅に出よう

明日、旅に出よう。 あの日、ふと思い出した学生時代に良く口にしていた言葉。 もう一度、あの頃のように一途に夢を追いかけたくて旅に出た。 *懐古小説のため世界事情、時代設定は無視しております。話も違う国の話に飛んだり、戻ったりしますが完結します。

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キラ

半年ほど前に7年付き合った恋人と別れた。 忙しい日常は時に、日常の一コマを忘れさせてくれる。 朝起きて会社へ向かう、気がつけば夜になっていて、家に帰って寝る。毎月、本社のあるニューヨークへ出張があり、環境を変えることで気分転換にもなった。 気がつけば1人でいることにも慣れていた。 なぜ、今頃、センチメンタルな思い出に浸っているかというと、先日の同窓会の後、俺の自宅にユタカがきたからだ。次の取材先というエチオピアの情報入手が本来の目的だったのだが、語り尽くし酒が入るとそれ以外

    • アジスアベバの若者たち

      「ヘイ、そのPCの使い心地はどう?」 2日目の朝、アジスアベバの情報を調べようとこのホテルで唯一wifiのあるロビーで相棒のMacBook Airを広げたところで声をかけられた。 顔を上げると、夜勤明けから帰るらしき、昨日チェックインを手伝ってくれたフロントの若者が俺の前に立っていた。 「結構いいよ」 「俺、ハイレ。ご存知のとおりここのフロントで働いてる」 「俺はヒロ。今日どこに行こうか調べてたところさ」 「昨日は何をしたんだい?」 「至聖三者大聖堂に

      • はるか遠きエチオピア

        「よし!」 ターンテーブルからようやく出てきたバックパックを足元に置き、思いっきり伸びをした。 ここは、はるか遠きエチオピア。首都アジスアベバ近郊のボレ空港。成田を出発し、バンコクで1日足止めを食らい、2日以上かけてやっと到着したアフリカの国。初めて乗ったエチオピア航空の機体は日本の国内線のように小さく、長時間のフライトには決して向いているとは言いがたいものだった。 極めて簡素な関税検査を通り外に出た。時刻は午前7時。見事なまでの晴天だ。すでに眩しい太陽がじりじりと照り

        • 乾いた大地へ...

          ユタカが週末、エチオピアの話を聞きに来ることになり、俺は旅のアルバムが入っている箱を引っ張り出し、記憶を辿る旅に出た――。 俺は学生時代、ある程金が貯まるとバックパックに荷物を詰めては旅に出ていた。 そのために毎日夕方から11時頃までいくつか掛け持ちでバイトをしていた。 週日は家庭教師、工事現場や警備、週末は映画館や引っ越し屋でと、学生にしては比較的時給のいいものを選んでいた。 仲間や恋人と旅する事もあったが、たいていは気ままな一人旅を楽しんでいた。ガイドブックも持たず、

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        • エチオピア
          3本

        記事

          同窓会

          俺が待ち合わせのバーに着いたときにはタカシ以外のメンツは揃っていた。 「よう、久しぶり」 「オス、元気だったか?」 「まーな」 「とりあえず乾杯しようぜ!」 「おう、遅れてすまなかったな」 「乾杯!」 喉が渇いていた俺は、配られてきた生ジョッキを一気に飲みほした。 リョーヘイはほぼ毎日会っているし、ユタカとは最近会ったばかりで、他のメンツもしかり。話は必然的にユタカの近況報告になる。 「お前も忙しいそうだな」 「ああ、今、四半期前でさ。お前こそ、飛びま

          レザーソファーの上に無造作に投げ出した携帯が鳴る。 陽が落ちてもなお熱気のひかぬ夏の夜の汗をシャワーで流し、クーラーの冷気に濡れた体を任せ、ピアソラをBGMに冷えた白ワインをグラスに注いでいた時だった。 「よお、ヒロか。たまにはみんなで同窓会しねえか?」 学生時代からのサークル仲間だったナオトから同窓会の誘いだった。 先週も会社帰りに飲み明かしたというのに。 同窓会という口実のいつもの飲み会の誘いだ。 体育会系のサッカー部とは比較にならない、週に2日練習をするだけの所謂お

          あの頃...

          「あの頃さー」 という言葉をよく口にする俺がいる。 何が「あの頃」なのか、それすら不明だ。 あやふやな記憶をたどり、強引に時制の一致を試みようとする、ただの枕詞なのか。 いや、満ち足りているように見える日常の中に欠けている「何か」がある、その「何か」を見つける手がかりが、明るく輝いていたように感じる過去にあるような気がしてならないのだ。 結論から言うと、昔を語る奴は嫌いだった。 過去を振り返る事を馬鹿にしてきた俺だが、よく昔話をするようになった。 そのくせ、学生時代のふら