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レザーソファーの上に無造作に投げ出した携帯が鳴る。
陽が落ちてもなお熱気のひかぬ夏の夜の汗をシャワーで流し、クーラーの冷気に濡れた体を任せ、ピアソラをBGMに冷えた白ワインをグラスに注いでいた時だった。

「よお、ヒロか。たまにはみんなで同窓会しねえか?」
学生時代からのサークル仲間だったナオトから同窓会の誘いだった。
先週も会社帰りに飲み明かしたというのに。
同窓会という口実のいつもの飲み会の誘いだ。

体育会系のサッカー部とは比較にならない、週に2日練習をするだけの所謂お遊び系のサッカーサークルに属していた俺たち。
その中でも、ナオト、シュン、ユタカ、タカシ、リョーヘイ、レン、そして、俺(ヒロ)はいつもつるんでいた。
同学部で付属校からの付き合いという事もあり、今も昔も心置きなく何でもはなせる仲間達だ。
大学をサボってもバイト後の夜半過ぎには毎晩誰かしらのアパートに集まっては、ビデオを見たり、その頃気になっていた女子や流行ごとなどのくだらない話に花を咲かせ、街に繰り出してクラブでナンパし、気に入っていたバーやカラオケで夜を明かす。
そんな、どこにでもいる大学生だった。



あの頃は、贅沢なまでに時間があり、そして、すべてが刹那的だった。

刹那的な出来事が鏤められた贅沢な時間が永遠に続くのだろう、とそう信じていた。



卒業を機にさすがに毎日集まる事はなくなったが、それでも月に一度は集まり近況報告をしている。
リョーヘイと俺は大学卒業後、同じ外資系金融会社に就職し、忙しいが充実した日々を送っている。
ナオトは弁護士、シュンは親父さんの後を継いで会計士、ユタカは世界を股にかける報道記者、タカシは旅行代理店、レンはIT企業に就職し別々の人生を歩み始めたのだが、変わる事ない友情がありがたい。
以前と違う事と言えば、去年タカシが結婚したことくらいだ。
それ以外は、それぞれ独身生活を楽しんでいる。


俺たちが集まったのは、仕事柄、あまり日本にいないユタカの帰国にあわせたあの電話から2週間ほど経った週末のことだった。

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